現代ダンジョンモノですがお気軽にどうぞ。
001
「はーい、みんなちゃんと並んで! 静かにね!」
良く聞き慣れた先生の声が響いて聞こえてくる。
「なぁ、もし手に入るならどんなの欲しい!?」
「やっぱり剣だろ、剣!」
「僕は魔法が使いたいなぁ……」
けれど、周囲の……同い年の連中は誰一人として静かにすることなんて無く。
思い思いにこれからのことを口にしては興奮しているように見える。
まあ、そんな事を考えている俺も興奮していないか、と言われたら違うと言い切れる。
何しろ。
「順番に入れるか試すんですからねー!」
俺の立つ直ぐ真横には、塗り潰されたように少しだけ変わった硬質製の壁があり。
目の前に、ずっとずっと見上げるくらいの高さの水面のような、鏡のような波打つ扉みたいなのが存在して。
その中に入れるかどうかで
(……さぁて、どうなるかね)
俺達くらいの年齢なら、嫌でも興味を持ってしまう。
祈ってしまう。
そんな、人生の分岐点を目の前にしたら――――誰だって、正常ではいられないだろ?
「現代ダンジョンに地味異能では厳しい」
大体8年程前。
俺がまだ立ち上がれるか立ち上がれないかくらいの、赤ん坊だった頃。
世界中を巨大な大地震が襲ったらしい。
被害は当時の人口の半分以上を失わせる程の大災害。
けれど、その大地震に依って起きた地割れの直ぐ側に今俺達が入っている建物が鎮座していたのだという。
少なくとも当時あった建物……コンクリートに似た、けれどその十倍以上の強度を持っているらしい謎材質による建物。
そんな中にあった謎の壁状のモノ。
単に「大災害」とも呼ばれる地震に対する救援と共に、様々な調査が行われた。
その結果分かったのは、俺達が今こうして此処にいる事実と結び付いている。
「何すればいいか分かってるよね?」
はぁい、と異口同音に聞こえる声に合わせて小さく声を上げる。
先生……孤児院の先生に連れられてやってきたこの場所で行われるのは、その調査結果を反映した国の政策が一番の理由。
まあ、俺達が今こうして孤児として生活できている理由もこれに繋がるんだが。
「あれに触って入れるか確かめる!」
「そうだね、ただ隣のおじさんから離れちゃ駄目だよ?」
妙に冷めた目で見てしまう俺の周りには誰もいない。
物心付いたときから、何かに焦っているような錯覚に襲われることが多かったから。
自然と運動したり勉強したりと、周りと遊ぶなんてことを殆どしてこなかったから。
……でも多分、同じように焦っている奴等はそれなりに見掛けた気もする。
何となく離れた場所で見ていると、遊んでいるのか真剣なのかは自ずと判別出来ていたから。
「……近接武器なら良いんだけど」
ほら、彼処にもいる。
見たこと無い顔だから、多分別口の孤児院のやつなんだと思う。
周囲から妙に浮いたような雰囲気を持ってる、仲が良さそうな奴と一緒にいる訳でもない男。
何となく細身に見えるからか、足が早そうな気がしないでもない。
こうした周りから見た印象というのは結構侮れないらしい――――というのは既に先輩として働かされている大人のテレビでの発言由来。
だからか、自分だけじゃなく周りを見渡すと言うか……常に視界に捉えておくような癖が付いたのはいつからだったか。
必要最低限常に警戒がいる、と言うけれど。
どの程度が必要なのかが分からないから、過剰に警戒し続けた結果が今の俺。
(もし入れたら……何が手に入るんだろ)
そんな相手を見ていたからか、浮かんでしまった言葉。
揺れる扉の先、人生を変えることになる少し未来のことを想い。
併せて、散々に教え込まれたことと自分で調べたことを同時に思い浮かべる。
大体十人に一人程度の割合で入れるかどうかが決まるあの扉……『水鏡』とか『扉』、『ワープ』とか人それぞれに呼ぶ揺れる液面に見える扉の先。
その先には、少なくとも地上では発見されたことのない生命体達が生息した別天地があったのだとか。
故に、大地震が起こった頃に既に広まっていたサブカル系から取られて、この先にある場所は『
そして同時に、迷宮にて発見された物品は大災害から急速に復興する為の土台として利用された。
それがなければ、元の生活に近しい状態には絶対に戻れないくらいに依存してしまった。
俺達に求められているのは、その物品、材料、資材、食材を掻き集めてくる労働者としての頭数。
俗に『探索者』なんて呼ばれている、肉体労働者にしてある種の超人としての役割。
入れたモノに与えられる、迷宮からの武具と能力という一対の組み合わせによる大活劇。
本格的に立ち位置が確立してから五年とちょっと、それでも尚現在最下層は47階。
何が手に入るのか分からない、現代に新たに生まれ落ちた未知。
知らず知らずのうちに覚え込んでいたこんな知識は、今時であれば誰もが持っていて当然の常識と化している。
手に入らなかった時を考えるのではなく。
手に入った時、どんな物が欲しいかを口々に述べる同い年達。
少しずつ前へ前へと進んでいき、触れても跳ね返され泣きじゃくる男の子がいる。
少しずつ前へ前へと進んでいき、中に入り込んで直ぐに戻り、興奮する女の子がいる。
俺の番が回ってくるのは眺めていれば直ぐのこと。
扉の直ぐ側に立っていた、30代くらいに見えるおじさんと手を繋ぎながら前へと進み、触れる。
少しだけ冷たいような、体の芯を熱するような一瞬の変異。
高熱が出たときのように、頭と体の動きが一致しない奇妙な差異。
でも。
(
その感覚こそが求めていたもののように、当然の如くその扉を潜り抜け。
そして、妙に焦っていたその理由を唐突に理解するのと同時。
自然と空いた片手を前に伸ばし、無意識に言葉を紡いでいた。
僅かな期待と共に。
「――――
おめでとう、という言葉が聞こえた気がして。
分かっていた、というような目の色を向けられながら。
ぼとり、と足元に落ちたモノへと目をやった。
大体、拳大くらいの――――石。
どの方向から見ても、思わずしゃがんでみても唯の石。
…………まさか、とは思うが。
俺の能力、この石じゃなかろうな?