現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「先輩先輩」

「何だうっとおしい」

「酷くないですか!?」

 

喫茶店――店名が達筆なのか下手なのか分からない文字で書いてあるので単に喫茶店と呼ぶ――から出た後。

今朝方と明らかに違う態度の後輩を追い払いながら少しばかり歩いた先は、更に街中の裏路地方面。

この辺になってくるともう安値で入れる集合住宅のような建物と、シャッターばかりが掛かった古びた商店街が目立ち始める。

 

「次は何処へ行くんです?」

「さっき店主(マスター)と話してただろ、薬師のとこだよ……俺も補給しとかねえとだし」

 

そんなことは気にもせず、更に一本折れた先。

古さの割に内装と静けさが気に入っている我が家の相向かいにこそ、目的の場所は存在している。

 

道の側には古びたシャッター。

張られた紙は約二枚。『閉店しました』と『何でもあり(ます)』という矛盾した記載。

人二人が通れそうな業務用の通路を兼ねたコンクリート床を勝手知ったるとばかりに進み。

建物の裏口に当たる場所に備えられているのは小さな押し釦式の(ベル)

 

「ああ、一応言っとくな」

「はい?」

 

いつもと同じように一度押し、一拍空けて二度連打。

其の上で押し付けられた合鍵を使えば、鈍い金属音が響くような音が一つ。

こうしないと付けられてる防犯用の彼是(あれこれ)が勝手に反応するからこえーんだよな。

 

「多分とんでもねえ格好してるけど気にすんな」

()?」

 

僅かに声が甲高くなる。

何言ってんだこの人、みたいな感情が込められた言葉なのは聞かなくとも伝わる。

喜怒哀楽がはっきりしたやつだよなぁ、と。

未だよく知らない後輩の一側面を理解しながら、扉に手を掛け引き開ければ。

内側から漏れ出すのは大きく分けて二つの匂い。

 

頭上、階段側から漂うのは様々な緑の香り。

右側、シャッターを隔てた一階から漂うのは様々な鉄の香り。

本来同化するはずのない独特の匂いに、此処に来たという妙な感慨のほうが先に生まれる。

 

「先輩方ー、零ですけどー!」

 

頭上、特に反応なし。集中してるかまだ寝てるか。

右方、僅かに物音。近付いてくる足音が聞こえるので、扉の前に立ったままだった小鳥遊を引き込んで扉を閉める。

 

「ぉー、月見里。なんか頼み事かぁ?」

「ヒュッ」

 

それとほぼ同時に姿を見せたのは、俺のよく知る同性の方の先輩。

金色の髪を持ち、整えられた前髪とは裏腹に後ろ髪は雑に伸ばし、幾つもの耳飾り(ピアス)を付けた目付きの悪い人。

多分夜間に出会ったらそれはそれで怖い、と初対面で思わせる――――外見は不良に見える人。

薄汚れた上下着(つなぎ)を身に着けて、両手に黒い薄手袋を付けた男性。

そんな人が暗闇から這い出るように顔を見せ、息が詰まるような声が背中側から聞こえた。

 

「上に届け物と頼み事で来たんですけどね、ついでに後輩を拾ったので紹介しとこうかと」

「あん?後輩?」

 

一歩だけ避ければ、目を細めて俺の背後を見る。

どうにも近視気味らしく、遠くを見る時は目を細める癖があって――――それが余計に雰囲気を醸し出している。

なんつーか、一見()()にしか見えない。

少なくとも初対面からすれば警戒心を抱かせる風貌であるのは間違いない。

身に付けている服装だとか、腰に巻いているものとかをきちんと見れば別だってのは分かる筈なんだがな。

 

「オメー、()がいるのに女子拾ってどーすんだよ」

「何度も言いますけど、俺あの人と具体的な関係何一つ無いですからね!?」

 

そして後輩の性別を認め、最初に口に出すのがこれ。

咄嗟にいつもと同じ返し方をしてしまう。

そんな中で一人置いていかれている後輩。

まあ紹介して回ってる以上、こういう一人取り残される状況は理解してるとは思う。

こんなやり取りが彼女の緊張か……或いは恐れを取り払ったのか、後ろから声。

 

(けい)さん、ですか?」

 

それはそれとして、聞くことに物怖じしねーよな此奴。

更に知らない相手の名前が出てそれを聞くか、初対面の相手に。

 

「あ、あ~…………そうだな、ワリィ。先に自己紹介も済ませる前に身内で盛り上がっちまったわ」

「小鳥遊、此方俺の一個上……お前の二つ上だな。武具とか金属製の加工とかしてる東雲(しののめ)先輩。

 で、此奴が昨日囮として切り捨てられてたところを拾った小鳥遊です」

 

そんな声に気を抜かれたのか、東雲先輩は謝罪の言葉を口にして。

併せて互いの紹介してしまう。

盛り上がるとまた話があっちこっちに跳びかねないので、その方向性を制御して。

 

東雲千弦(しののめちづる)だ、宜しくな嬢ちゃん」

「小鳥遊岬です!」

 

落ち着いてみれば、互いの挨拶の雰囲気を見るだけならあんまり相性は悪くなさそう。

まあ見た目だけ不良だけど(とある事情を除けば)大真面目よりの先輩。

それに対し、多分気を許せる相手には思い切り飛び込んでいくっぽい後輩。

面倒見の良さと甘えるのが上手い、という相性はまあ悪いわけがない、か。

……あっと、忘れる前に言っとかないと。

 

「あ、そうだ。今日の夕食の時、紹介も兼ねて店主(マスター)のとこでどうです?

 天音ちゃんの分も含めて五人分頼んでるんですけど」

「あー、特段やることがあるわけじゃねえから構わねえが……」

 

横目で首を捻ってる後輩の姿が見える。

また知らない名前が出たことを聞きたいのだろうが、その解答は多分夕食時になると思うぞ。

と言うか、答える余裕が消えるから少し待ってろ。

 

「お前、名前で呼ぶの駄目だっつったの忘れたか…………?」

 

笑顔のままで手を伸ばし、頭を掴もうとしてくる東雲先輩。

後ろに一歩避けながら、事実という名の言い訳を口にする。

 

「当人からそう呼べって言われてんのに無理言わんでくださいよ!」

「ぐむ…………むぅ…………!」

「……えーっと、先輩? なんですこれ?」

 

一言で言えば混沌じゃねーかな。いつものことだけど。

まあ、どう説明して良いのかは彼女とこの人を見れば一発で分かるんだけど。

 

「……なんだ。この人が言うには……生きる理由、らしい」

 

だって。

この人の唯一の弱点がその名前の持ち主で、この人の唯一の欠点が特大のシスコンって部分なんだから。

 

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