現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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『センパイ!』

「分かってる!」

 

見ているだけでは何も変わらない。

先程までは全くと言って良い程聞こえなかった声が鮮明に聞こえる。

頭痛による悪影響は相当で、その大半を恐らくはあの狐が持っていっている。

 

(副脳……いや、補助脳みてーなもんか)

 

どういう存在なのかは推測でしか不明。

ただ、今の戦況が一気に好転したのは間違いない。

一番足止めしなければいけない主がのたうち回り始め、唯でさえ真っ当に働いていない知性が更に落ちた。

 

口元に石の破片が飛び込み、ずたずたに荒らしているのと鼻を含めて漏れ出している推定毒の煙。

アレでは呼吸自体が塞がれている――――つまり、最も不味かった咆哮を発動するための部位が完全に潰すことには成功した。

 

(ただ、()()()()!?)

 

一番問題になる起点は殺せている。

ただ、命を奪う為の攻撃手段が不足している。

本来ならその役割を担う攻撃手が未だに後ろにいる現状。

いつ回復されるかも分からない以上は、この段階で賭けるしか無いのか。

 

『センパイ』

 

天秤に掛ける。

勝率と失敗した時。

引っ繰り返す手立てと成功率。

なまじ勝利への道が見えたからこそ一瞬の戸惑い。

その合間を、糸を辿った声が遮る。

 

『喉元は私が裂きます。その手伝いをお願いします』

「手伝い……!?」

『操って下さい。多分、特異性は伝達できませんが……皮膚を切り裂くのは届かせます』

 

冷静な声。

冷水を浴びせるような声色。

自分のことを改めて。

目の前の光景を俯瞰して、多分『出来る』と確信したからこそ実行しようと思えた新たな手札。

 

都合がいい、といえば都合が良すぎる。

ただ――――誰もがその能力の変異に関して全てを把握しきれている訳ではないのだから。

自分の先を見つけられただけ、祝福するべき時なのだろう。

 

「任せて良いんだね?」

『はい……射程が、少しだけ足りないと思います』

「分かった――――小鳥遊ィ!」

 

少しだけ悔しそうな声。

指先と、目先と……幾つかで確認して、()()()()()()()()()()()()を正しく捉えていると確認した。

だから、次は彼女達に賭ける。

 

「なーんでーすかー!?」

 

後方に投げる声。

繰り返される狐の鳴き声。

多分、今の優勢はそう長くは持たない。

 

「あの大鬼の首を刈れ!こないだの二つ目の術理でいける筈だ!」

 

だから、斬首戦術に切り替える。

雑魚は二人に任せきる。

 

「出来ると思いますけど!此方は!?」

「そっちは捨てろ!」

 

背中は預けた。言外にそう伝える。

返らない言葉に、相手も理解したと信じ切る。

 

「でしたら十秒だけ稼いでください!」

 

前提条件の一つ。

相手の足止めは、此方が請け負った。

 

「天音ちゃん!」

 

すう、と一つ呼吸をして。

言葉にならない言葉を戦場の中で告げるのは天才と謳われるべきだった少女。

 

『我が穢れ』

 

ずっと聞こえる悲鳴にならない悲鳴。

口内で暴れ、更に砕けていく破片達。

俺を象っていた破片が砕け、繋がり、新たな形を作っていく。

 

『流れて、流れ』

 

片手で持っていたもう一つの糸で指先を切るのが見えた。

糸を伝って、本来なら直ぐに治る筈の血液が糸に染みていき。

中程で、糸がぷつりと切れるのが分かった。

 

鳴き声と騒音と、駆け足の中。

鈴の音が聞こえた気がした。

 

『冥府へと』

 

――――形作れ、()()()

 

そんな声が聞こえた気がして。

切れた糸が二つに別れ。

手元と奥と、それぞれとで白と黒の色合いを秘めた形代へと染まっていく。

 

白は、彼女の周囲を漂い。

黒は、ふわりと浮いてある程度で留まって。

……手渡された気がしたその形代を、大鬼の首元目掛けて手繰って向かわせる。

 

以前に操っていた糸に感じていた抵抗がまるでない。

俺自身の武具であるかのようにすら感じる形代は、下手をすれば鉄塊よりも操作が容易い。

 

(穢れ……そういう関係かね?)

 

余り深掘りしている余裕も猶予もない。

狐が負担してくれている(と思われる)とは言え、ジリジリと先程の頭痛が復活してくる悪寒がある。

これが先程と同じようになれば多分時間制限を越えて押し込まれる。

なら、今の状態で押し切るしかない。

 

喉元を掻き毟り、取り落とした棍棒を拾い上げることもせずに左右に揺れる狐を怨敵のように片手で捉えようとしている大鬼。

その手を下から擦り抜け、首元……抑え込んでいる部分から僅かに上を引っ掻くように触れて離す。

 

【!??!??A??QAAWE!!!】

 

果たして……効果は想像以上。

 

ぷくり、と血玉が浮き上がったかと思えば鋭利な刃物で切り裂いたように失血が激しくなる。

振動糸、という殺意はそのままに人形という操作精度を高めたと思われる新しい発展性。

多分、自分の身の安全と……周囲の敵への殺意という二面性が大きく作用した結果か。

 

(これなら……!)

 

相手に危険性を認識させた。

注意を向けるべき相手が増え、その分集中力は散漫になる。

その隙を、背後から駆けて来た小鳥遊は決して見逃すことはない。

 

「もう一度注意を引く!お前は左右で良いんだな!?」

「はい!それで!」

 

足音が直ぐ背後まで迫っていたのは聞き逃さない。

だから、最後にもう一度声を掛け合った。

 

鞘に仕舞った状態の、ばちりばちりと紫電が漏れた刃。

見せ札から発展した、正しい意味での殺し技として多少は納得したらしい第二の術理。

 

もう一度、同じように相手の腕の下から潜るように人形を迫らせる。

その危険度は、一度首を引き裂かれた当人が一番認識している。

だからといって手で遠ざけられるモノではなく、周囲から配下を呼ぼうにも発声器官は全部潰されている。

 

ならば。

取る手段は、身を翻して背を向けることくらい。

剣士に対して、最も取ってはいけない行為。

小鳥遊の刃を大鬼に此処まで伏せたのは、一度で相手の命脈を絶たせる為でもある。

 

「小鳥遊流合戦術法、剣ノ道カラ外レ」

 

正しい意味での剣士ではない。

探索者としての刃。

 

()ノ型、木行ノ(フルイ)――――重ネ、火行ノ(ツタエ)

 

だから。

普通ではない刃であると認識されないように。

そして、配下を一撃で殺せる札だからこそ俺達はずっと前に出張っていた。

 

鞘から抜かれた剣が首元へと伸び。

けれど、それを直感を以て一歩だけ転がるように前に逃れる。

 

「纏エ、電磁(やいば)

 

()()()、それで詰む。

 

開いた左手に鞘を握り、纏わせた雷という付与をもう一度起動する。

剣、右手には脂汗を零しながら火の熱が剣先にまで伸びて強く熱した。

 

火が消えて、右肘に熱が生まれ。

代わりに刀身に再び紫電が走る。

 

「――――煙火(えんか)

 

見えない刃が、鞘に向けて走った。

避け損ねた形代の指先が、その剣閃の末端へと触れていた。

 

ずるり。

指先と、首が落ちるのはほぼ同時。

 

そして。

俺と、後輩達が腰を落としたのも同時だった。




第二術理、多分此方のほうが対人戦厄介です。
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