手足が痺れている。
足が上がらない。
特異性による操作を解除したからか、先程までの頭痛は何処かへ消え。
のろのろとした手で口に含んだ丸薬と液体と、後は未だ繋がったままの糸とで急速的に回復されていく。
周囲の……召喚された筈の子鬼達は既に姿を消していた。
もしかすると召喚した当人が消えれば併せて消えるような仕組みになっているのか。
余り聞いたこともなく、そしてこんな手を取る輩がいると聞いた覚えもなく。
だからこそまた一つ情報を握れたと脳裏に刻む。
けぇん、と小さく鳴きながら近付いてきた狐。
見詰めてくる眼球は何処か濡れていて、近付いて良いか伺っている様子。
手を伸ばせば、恐る恐るに首を伸ばして指先をザラザラとした舌で舐め取ってきた。
「…………いや、なにそれ」
「俺が聞きたい、いやある程度推測は出来てるが事実と認めたくない」
ペットってこういうもんなのかなぁ、とか思ったり思わなかったり。
何故か甘えられているのは悪くない、とは思う……のだが。
同じようにボロボロの姿で此方を細目で見詰めてくる雄次に返す言葉は確証性が無いから何処か不安な言霊。
「……石から生まれた、或いは戻った尾が裂けた狐。多分”オサキ”だろうね~」
同じように裾の辺りがボロボロ。
ただ色々と危ない部分だけはきちんと防具が身を守った恵先輩の服装は少しだけ黒ずんでいる。
多分自分自身じゃないと危なかっかしくて使えないとかいう劇物でも使ったんだろう。
後ろから撫でようとしておっかなびっくり手を伸ばしている。
「
「私が分かれば良かったんだけど……零くんの武具が砕けることをある程度許容してるとはねぇ」
それを嫌がらずに受け入れている。
毛先がふわふわしている様子で、うわ、とか口から漏れるのが聞こえた。
「なんでも分かるんじゃないんですか、瀧野瀬せんぱーい」
「私が分かるのは一度でも見知りする切っ掛けがあるものだけ。
岬ちゃんに分かりやすく言うならいっぱいある図鑑みたいな感じだからね~」
同じように後輩達二人も地面に転がりつつ此方を見ているが。
起き上がれるかどうかは……多分、今までに積んできた基礎体力の差だろうか。
ただ、この二人は
異性間同士(二人からすりゃ同性だが)の先輩として慕っているようだし、同じく後輩として恵先輩にしては珍しくちゃんと面倒見てる。
このヒトが自分の特異性を明かしているのもその証……いや、年下の母親と年上の娘っぽくもあるが。
「伝承通りで言うなら、金銀財宝、或いは財産を
犬神とかの妖怪と同じ
『ああ、成程……そういう繋がりですか』
ふわふわ浮いたままの白い人形から普段聞こえる声が普通に耳を通して聞こえて、全員で思わず見上げる。
そのまま視線を下ろしたのは操ったままの当人である天音ちゃん。
「……あの、天音ちゃん?」
『この状態なら、周りの空気に振動を伝達できるみたいなので……外じゃ難しいですけど』
文字通りの護身用、スピーカーみたいな役割、ついでに日常での訓練にもなる、か。
まあ外で武具を取り出さない、空間を公共で開かない、みたいな文化がある以上は顔見知りの間でも無ければ難しい。
それでも、糸をきちんと結ばなければならなかった今までに比べれば格段に会話は楽になると思う。
まあ、メモ帳や電子機器みたいな伝達道具はずっと携帯してみせる必要性もあるだろうけど。
『私のことは良いんです、大したことじゃないので』
「いやぁ、流石にそれは無理じゃない天音ちゃん……?」
普段はボケ倒してる小鳥遊が思わず突っ込んでしまう変事。
いやまあ、此奴が最後に見せた技も技で酷いんだが。
やっぱ此奴の武具剣其の物より鞘の方が厄介というか強いだろ、と思わずにいられない。
『それよりセンパイのこの子です。能力其の物が変わった訳ではないんですよね?』
「それはない……な、うん。多分お前等と同じような発展系、技の一種みたいな感じだと思う」
狐って犬科でいいんだったか。
やたら人懐っこいと言うか、顔を手に押し付けてくるんだが。
おいこら手首と服の間に入ろうとすんな。狭いって。
『なら武具……というか、殺生石?でいいんですかね?』
「に似た特性を持った武具、かな?最大限に見積もってその破片だと思う~」
『でしたら扱い自体は然程変化しないとは思いますけど……名前くらいは付けません?』
だよな、そうなるよな。
とは言っても狐に急に名前を付けろと言われても困るが。
何か………………あー。
「なら適当に”ミサキ”でいいか」
「ぇへ?」
おい、何だその奇妙な鳴き声は後輩壱号だか弐号。
「ああ、狐って『
「です。後は……なんか妙な声を聞いた気がするんで、ゲン担ぎに」
幻聴、と言うよりは神の声だと考えたほうが気分がいい。
これから色々と助けて貰うだろうって意味も含めて仮称これ。
何となく定着しそうだが。
「で、その砕けた武具に関してなんだがよ」
「おう……おう?」
少しだけ離れ、倒れた大鬼の死体を探っていた雄次の声がする。
顔をそちら側に倒して視線を向ければ。
そして、口元だった部分に大量に詰まった石の破片。
何となく念じれば一つに固めることも出来ると直感的に理解できる、俺の武具。
「何したんだこれ」
「いや知らん知らん知らん」
皮だけが残ってる。
一番大事な部分だけはあるけど、その内側が何一つ残ってないのなんだそれ。
「特性が追加されたのか、或いは目覚めたのか……かな~?」
「凄い怖いんでボソッと言わないでくれません?」
立ち上がれるようになるまで十数分。
それまでの間、身体を横たえながら視線で周囲を追い続けていた。
掌に、頭を押し付ける手触りと温もりを感じながら。
何とか生き残れた、と。
今になってやっと、腑に落ちた。
後輩A:「小鳥遊岬」←これ。