現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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100話の大台ですね。
(とか言いつつ番外編やらを含めるととっくに越えてますが)
これからもよろしくお願いいたします。


100

 

 

『Epilogue』

 

 

「成程、それで」

 

『迷宮』帰り。

一旦押し寄せたのはいつもの喫茶店。

相変わらず客足は殆ど無い、けれど開いている不思議な状態。

 

「いや、大変でしたよ……」

「それもそうでしょうね」

 

人数分の珈琲とガッツリした食事。

併せて依頼したのは(ミサキ)の食事について。

一旦は空間の中に入ってもらったが物凄い不服そうな鳴き声してた。

懐なりポケットなりに入れるならそれで良いんだが出来るのかお前。

 

〚コンコン!〛

「口元汚れてるから叫ぶなー」

 

今は取り敢えず肉食寄りの雑食らしい、ってのは調べたので帰り際に機嫌取りに買った缶詰のドッグフード開けて置いてる。

食うか分からなかったので許可貰っての様子見だったけど頭突っ込んで食ってるので一安心。

多分食おうと思えば幾らでも食えるタイプっぽい。

 

「それで、戦利品がこれですか」

 

大したものも出せませんが、と言われつつ出てきた人数分+生のハンバーグ一個を前に。

食事の前にあれこれ済ませておこうと相談に出したのは、集落で見つけた幾らかの異物。

そのうちの一つは見覚えが有り、残りは分からなかったので一旦持ち帰り。

どれがどの程度の価値があるのか改めて見て貰おうと相談しに来た、という面があることは口に出さない。

店主(マスター)もそれは承知の上だろうから。

 

目立った品は二つ。

一つは乾燥した干し椎茸の傘の部分だけのように見えるちょっとだけ重量のある乾物っぽい物質。

もう一つは良く分からない、黒い拳大の石ころが一組。

あとは大体ゴミだったので、あるとすればこの辺が戦利品になるんだろうが。

 

「これ、『燕の子安貝』ですよね?」

 

指差したのは干し椎茸っぽいなにか。

裏返しに鎮座してるから、変な小物みたいに見えなくもない。

 

「ですね。点数稼ぎにもなりますし、これは受付……管理側に提出して金銭にしたほうが良いと思いますよ」

「ああ、変に裏に流せないと」

 

まあ使い道が使い道だしなぁ。

大病院が競って争う面もあるし、国益にもなる。

これが異物である、と見抜けないなら買い叩かれてもおかしくはないが知識があるなら逆に釣り針にできるし。

ハッタリも兼ねて今度恵先輩後ろに貼り付けて提出しに行くか。

 

唯でさえ今回は持ち出しが多かったし、補填しきれない部分も多いだろうが買える素材もそれなりにある。

最終的には全員の意見を一致させてからになるが、俺等の取り分は多分主の皮売却益でなんとかなるだろ。

 

「それならこっちは?」

 

指を向けたもう一組、石ころ。

じっとミサキが見詰めているが、これは食い物じゃねえから舐めたりすんなよ。

そういう意味を込めて頭に手を置いておけば、後ろから人の唸り声が聞こえた気がする。

 

じっと見つめる店主(マスター)

詳しくは知らないが、能力の一環で『価値』をある程度見出だせるらしい彼の目に何が見えるのか。

恵先輩の特異性……能力じゃこれと知識を一概に結び付けられないから、こういう時ばかりは鑑定関係の探索者が仲間に欲しくなる。

薬関係ならどんなのでも一発らしいが、それ以外は応用利かないって話だし。

 

「……成程」

 

そんな心地良い静寂は直ぐに消えた。

ふぅ、と息を漏らして此方を向き直った際の目の色は真剣なもの。

普段の柔らかい(まなじり)とは別、当時を知らないが現役の探索者の色合いを思い起こさせる。

 

「少なくとも此方は出さないほうが良いでしょうね。

 必要なら手数料……差額は頂きますが、先に現金で一千万は積みますよ」

「……え?」

 

え、という声が同じく彼方此方から。

一匹と一人だけ状況を理解せず、同じように首を捻っている。

 

「こんな物が訓練階層で……ああいや、強化条件を満たしたのですから実際には第一階層相当、ですか」

「あの、これなんなんです?」

 

珍しく独り言をぶつぶつ呟いている

唯の石ころじゃないのか。

いや、何となく触れがたい物があったのは認めるが。

 

「……『盟神探湯(くかたち)の火』、という異物です」

「盟神探湯…………?」

 

それって……あー、なんだっけ。

神に宣誓した上でそれが正しいのなら怪我を負わないはずだ、って理論の裁判の原型みたいなもんだっけ。

魔女裁判みてーなもんだって認識とくっついて覚えてた。

 

「『かちかち山』はご存知ですよね?」

「あの狸が極悪なやつですよね?」

「ええ。その説話の中で兎が用いていた火打ち石……の話が異物化した物体です」

 

……あの話にそんな要素あったのか。

焼かれて当然だと思ってたし、寧ろ拷問三連発のイメージが異様に強い。

焼いて辛子塗りたくって水没死だろ確か。

 

「ただ、効果が悪辣な方向に向けられていましてね」

「はぁ」

 

悪辣、といえば幾らでも内容が浮かぶんだが。

 

「火花を飛ばしながら質問した内容に偽証した瞬間に燃えるんですよ、肌が」

「ええ…………」

「因みにこの『偽証』の定義は問い掛けが曖昧なものだと大雑把な判定が下ります」

「使い道を考えたくないんですけど」

 

文字通り拷問とかそっち向けじゃねーか!

ついでに迂闊に受付に出せば幾らでも悪用方法思い付くぞ!

いやまぁ、同じように迂闊に使えば直ぐに痕跡辿られて消されるだろうけど!

 

「なので、知り合いの警邏の高官に恩を売っておきます」

「……一応興味本位で聞くんですけど、どれくらいになるんですか?」

「手数料込みで私が得するようにしますので其処はご安心を」

 

にっこり笑顔。

あ、これ駄目だ俺じゃ教えてくれねーわ。

マジモンの弟子……情報網の一端でも担っている相手なら教えてくれるかもだが。

どっちかと言うと俺は気に入られてるからこそ守られてる、ってところあるし。

 

「で、どうしますか?」

「現金でお願いします。で、それは雄次に」

「あ、おい!」

「元々お前を入れた契約なんだよ、お前から金積んで解放して貰う方が変な目を付けられずに済む」

 

後ろから飛んできた文句を一蹴。

唯でさえ周囲から()()()()()()だって認知されてたんだから、何とか金を用意したって名目も立つ。

下手に俺が介入しすぎて怪しまれるより余程マシ。

 

店主(マスター)、帰り際までにお願いできます?」

「ええ、直ぐに支払えるように用意しましょう」

 

金銭価値が更に暴落したらどうせ借金も上乗せされそうだし。

魔石を積むのが正当というか正しい力押しなんだろうが、『借金』って形で縛ったなら同じく現金で殴り返せば良い。

 

「何より、あの人が味方にいるなら第一階層は大分楽できるんだから俺等の為でもあるんだよ」

 

どうせいつかは襲ってくるだろう人狩り共。

そいつらに見せるあの人の顔を、一度は後輩にも見せておくべきだと思う。

 

多分。

慣れなければいけない、一つの壁だろうから。

 

〚コン!〛

「ああはいはい、お前の世話道具も必要だな」

 

一撫で二撫で。

目を半分だけ開けてウトウトしている様子のミサキ。

 

「しかし――――()()()()()でしたか、月見里くんは」

 

最後に聞こえた言葉。

それを聞き返す前に、彼は背を向けカウンターから離れてしまい。

問い掛ける機会を、何となく失ってしまった気がした。

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