現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「ぇっと、あの……先ずは、ありがとうございました!」

「あざっした!」

 

翌翌々日。

学校が始まる一日前。

十二分に休みを取り、体調を整え、ついでに部屋にミサキの世話道具を整えたりした後の日。

 

全身きちんとした防具――鉄板を一部に張った革鎧(ポイントガード)――を身に着けた九十九先輩。

その横で同じく頭を下げる雄次。

そして、それを迎え撃つ俺達三人という何とも言えない雰囲気の中で。

改めてお礼が言いたい、との理由で『受付』横、時間貸し会議室を借りての少しだけの相談。

 

「今更ぁ」

「これからもよろしくお願いしまーす!」

『……あの、良いんですか此処で』

 

呆れと純真と、後は警戒。

三者三様の言葉を放つ中で、()()()()小さく鳴き声が聞こえて軽く叩いて了承の意を伝える。

 

「良いんだよ……と言うか、此処を利用したほうが都合がいい」

『都合……ああ、そういう』

 

普段から此処を利用しない理由なんて言うまでもない。

機械系・電子系の介入は色々な理由で無くとも、臨時で雇われている職員達が持つ能力によっては中身を簡単に聞かれるから。

逆に言えば、聞かれることを前提としたやり取り……交渉等に正しく利用される、と言うのは本末転倒な気はするが。

今回の場合は寧ろ聞かせたいと思っている側面もあるので此処で問題ない。

 

「じゃあ改めて……えーと、取り敢えず今日は色々と確認含めて第一階層の入口付近で動こうと思ってるけど異論は」

「特にないでーす」

「動くのは良いが、目的は?」

「採取メイン。恵先輩はこないだので消耗した物品生成で忙しいって言うし、その素材補給も兼ねてだな」

 

幾らか……より正しく言うなら()()()()()()()薬に関しては既に受け取っている。

あの人が手掛けているのはより高度な物品。

 

第二階層以降に踏み入れれば新たな知見を得られるかもしれないが、その選択肢を未だ選ばないのも理由があるのだろう。

なので、半ば好意に甘えつつ俺達は俺達で必要なものを集めに回る。

訓練階層の植物採取もしなきゃいけないが、それは今のクソどうでもいいトラブルを終わらせてからになりそうだし。

 

「それは分かった…………が」

「言っとくが受け取り拒否は許さんからな」

 

そして、九十九先輩を除いた人数分用意された外套。

斬撃・打撃に対して強く効果を発揮するらしい店主(マスター)お手製の渋染の防具。

素材はこの間倒した主の皮膚から作ったらしいが、どう考えても皮膚の総量を超えてる気がする。

 

〚ココン!〛

 

そんな折。

内側、胸ポケットの部分から顔を覗かせるペット……のような狐。

 

「お前はだから駄目だって、静かにしてろ」

 

準備せざるを得なかった一番の理由が此奴。

胸元……外套と上着の合間から顔を覗かせる(ミサキ)は、本気で空間の中に入ろうとしない。

此奴の意思でも操作出来る石の破片/集合体は普通に格納できるのに不思議。

 

『……やっぱりなんだか変な感じですよね、この子』

「分かる、唯丁度良く(ぬく)いんだよな」

「あうはう」

 

一応管狐とかみたいに懐や袂みたいな隙間に潜れるようになんか溶けたみたいに小さく細くはなるけれど。

今までの装備だと入れておくスペースも殆ど無かったので、装備更新と併せて依頼した形。

余った素材だけで制作費は十分と言っていたが、この素材幾らで売れたんだか知るほうが怖い。

 

「……ぁの、雄次、くん?」

「ああ、気にしないほうが良いですよアレは」

 

普段のお前等に言われたくねーわ。

 

……まあ、一概に否定しきれないのも事実ではある。

特に小鳥遊のことを良く知らない、これから知っていく側の九十九先輩からすると此奴は良く分からないナニカだろう。

 

姉も妹も方向性は違えど控えめ、昔で言うなら陰キャとかそういう呼ばれ方してる部類だって話だし。

自虐っぽく言ってたが、言葉の理由を余り理解できない勢からするとそれ自虐じゃないんですよ。

 

「で、話を戻しますが」

 

いい加減戻れ、と軽く頭を指先で叩けば渋々頭を引っ込めていく。

普段部屋じゃ好き勝手動いてたりする割に抜け毛とかはまるでないのは……まあそういう存在なんだろう。

ついでに言えば、今回此奴が顔を出してくれたことで確定したことがもう一つある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

併せて扉の方に軽く指を向ける。

小さく雄次が頷いた辺り、彼奴も気付いていた節があるので二重で確認完了。

経験の差か、九十九先輩も頷いて後輩二人は良く分からずに首を傾げている。

 

まあこの部屋の裏の利用法は幾つかあるし、その一つに即座に思い当たらなくても不思議じゃない。

寧ろ先程の言い方で当たり前に一つを理解してきた天音ちゃんのほうが怖いと言うか、適正が高いと言うか。

 

「ぁ、なら、私が後ろ?」

「ですかね、俺と天音ちゃんが中心に行きます」

「俺はどーするよ」

「小鳥遊のフォローと見るべき場所を教えつつ前で頼む」

「りょ」

「勝手に立ち位置決められてるー!」

 

わいわいと話に盛り上がる振りをする。

少しだけぽつん、とした上で慌てて話に乗っかってくる小鳥遊がいるからこの会話自体は不審ではないだろう。

 

本来であれば斥候を先行させた上で前衛の何方かが最後尾というのが普通。

ただ、俺と雄次は訓練階層をほぼソロで突破した経験上其処まで明確に隊列を決めずに此処に至る。

にも関わらず、はっきりと準備しないといけない理由は――――まあ、言うまでもない。

 

(聞いていることに気付かれてない、と思ってるのか……或いは伝える義理まではない、と思ってるのか)

 

前者なら間抜け。

後者なら徹頭徹尾金で動く情報屋。

何方にしろ、()()()()()()()()()()()事への不信感を抱けるかでこの先の命運は決まると言って良い。

 

(どっちにしても寿命が少しだけ伸びるかどうかでしかねーけど)

 

果たして、『迷宮』に潜って暫し経った後。

背後から足音がする事に気付いてしまって溜息を吐いたのは、俺だけではなかった。

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