現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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狙ってきたタイミング自体は悪くなかったと言える。

 

既に経験済みなのか、或いは自分達が被害にあったことがあるのかは別問題として。

基本的に『迷宮』での襲撃、他の探索者を襲う機会は大きく分けて二つ。

 

一つは何処かの通路で気が抜けた瞬間を狙う。

もう一つは戦闘終了間際、僅かでも警戒心が薄れたところを狙う。

 

何方にしても相手の心の隙間を狙って頭数を減らし、混乱の中で攻撃する。

相手の心を穿つ、という意味合いでは変わらない選択肢。

 

ただ。

それでも、だ。

 

「狙われてることが分かってるならそれに応じた準備するのが当たり前だよなぁ……」

〚コン?〛

「ああいや、お前に言ったわけじゃない」

 

首を傾げる相棒(ミサキ)

浮遊したままの幾重にも分かれた鉄片。

思わず漏れてしまった愚痴に反応したのか、動きそうになったそれを押し留めて後ろを向く。

 

つい先程まで行われていた狩りの直後、後方から飛んできたのは二本の矢と恐らくは水の槍。

それを契機に幾重にも、それこそ雨霰のように降り注いで来たが特段警戒する必要はなかった。

何しろ、その為に命を賭けた相手が後ろに張り付き続けているのだ。

少なからずこの()()では襲撃等の警戒は一切する必要性が無くなったと言っていい。

 

《おい、なんだこれ!》

《分かんねえけど多分彼奴の特異性だろ!?》

 

どんどん、と空中に拳を叩きつける四人組。

僅かに声が漏れて聞こえ、そして同時に何処かくぐもったような色合いを混ぜた言霊。

その目前には九十九先輩が立っていて、彼女が『迷宮』を駆け抜けてきた相棒……武具である巨いなる盾(タワーシールド)を構えて俺達に背を向けている。

見えないその表情は、多分感情を全て内面に抑え込んだ無と言うか据わった目を向けているに違いない。

 

「ま、今更逃げようもねえよな」

 

此処で俺達を逃がせばそれこそ終わる。

文字通りに手を出し、そして顔が割れている事を認識してしまった以上は口を封じる以外の選択肢はない。

それを分かっているから同級生らしい二人は大いに焦り、後輩二人はその言葉に対応して攻撃を繰り返しているのだろう。

その全てが、たった一人の目前にさえ届かないと分かっていても。

 

「あのぉ、先輩……?」

 

何が起こるか知ってる勢の俺達は末路を見届けるか、或いは倒した生命体の素材回収に勤しむ。

話でだけ聞いている筈の天音ちゃんは興味さえも失ったのか、向こうで雄次の手伝いをしている。

そして唯一何も知らない小鳥遊は、恐る恐るに声を掛けてきた。

薄汚れた、生命体の体液を拭った襤褸切れを片手にだが。

 

「好んで見せたくないのが始まるからお前も向こうの手伝いしてていいぞ」

「いや、一応私が巻き込んだようなものなので……」

「それならそれでいいが()()()()

 

慣らす、という意味合いで経験させるのも一つの選択肢ではある。

 

ただ、九十九先輩がこの手段を人間に対して振るうのは襲われた時限定。

と言うより生命体に強く効果を発揮しない術理、技としての構築をしているから見ることも余り無い。

相手を獣だと――――同じヒトとして見做さない場合にのみ振るう、苦しみの中に息絶える事になる荒業。

 

「……吐く、ですか?」

「小鳥遊、お前人を斬れって言われたら斬れるか?」

「そりゃあ、まあ」

 

此奴の学んできた剣術は対人向け、戦場で振るわれることを前提としている。

だから至極当たり前の精神性をしているだろうと思って聞いてみたが、やはり答えはその通り。

 

「なら、一方的に斬られる側……切り捨てられる側の気持ちってどうなると思う?」

「……切り捨てられる、って言うとまた別の話じゃないんです?」

 

俺もそう思う。

ただ、彼女とその妹にしてみれば斬られたほうがまだマシだと思うような絶望だったらしい。

いつだったか、夜番で同じタイミングだった時に教えてくれた。

 

「多分そんな感情もあったんだろうなー……あの人に与えられた能力は」

「えっと、聞いても?」

「別に嫌がりやしねーよ、()()()はしっかりしてる人だしな」

 

《逃げ……》

「『第一次元、指定』」

 

向こう側でも変化が起こり始めた。

何をどうやっても突破できないナニカ。

その存在の恐ろしさに今更気付いた――――情報の欠如という行為に慣れていない探索者特有の、畏れが顔に現れる。

 

そして。地面の一点に灯りがぽう、と灯った。

 

「あの人の二つ名は【拒壁(きょへき)】、全てを否定するような感情(かべ)と、その恐怖から後ろを護る為に与えられた盾」

 

地面を辿り、宙を辿り。

九十九先輩が灯りの斜め上方向を指差し、更なる宣言を続ける。

 

「『第二次元、拡大』」

 

見えなかった筈の壁一面が薄明るく光る。

今まで幾ら攻撃を繰り返しても無駄だった理由がこれ。

彼女が許可しない限り光量に至るまでを拒絶する、透明な壁(バリア)の存在。

衝撃や能力を反映した効果だけは互いに与えられた権限上貫通するものの、そんな効果はあの人自身を包むもう一つの壁で二重に軽減される。

 

「否定?」

「拒絶、っていう方が特異性としては正しいんだけどな……あの人、その言い方好きじゃないらしいんだ」

 

繰り返される攻撃。

こうなってしまうと逃げようとするだろうが、既に背後も壁で囲まれている。

相手の上下左右全てを囲ったことであの人を護る壁は一時的に消失するが、既に宣言さえしてしまえば終わる状態(チェックメイト)

 

「『第三次元、確定』」

 

点、面、立体。

それぞれの始点を宣言することで効果範囲を確定し、内側と外側を遮ってしまう。

 

「そんな人が、獣と認識した相手に情け容赦なんか掛けるわけがねえんだよな」

 

あれだけ困らされた襲撃者が。

たった一つの技で壊滅させられてしまう光景。

……まあ、だからこそ助かるのは間違いない。

 

「――――展開完了。【空拒(くうきょ)】」

 

()()()()()だと言い切る九十九先輩が普段見せない裏の顔。

囲った空間の内側から全ての空気、酸素を拒絶することで発生する無酸素空間。

そして起こるのは、周囲の空間……或いは自身の身を守る能力を持ち得ない探索者にとっての絶死。

即ち、()()()()()()()()()()()()()

 

「うわぁ」

「アレがあるから九十九先輩はこう呼ばれてんだよ」

 

ちゃんと調べておけば裏の名前くらいは知ることが出来ただろうに。

既に死が確定した、その途中の僅かな合間に目を逸らして口にする。

 

「絶対的な格下殺し、ってな」

 

多分、格上喰いである小鳥遊と真逆に。

多分、俺が知る中での挑戦者として相応しいもう一人の先輩と真逆に。

 

くるり、と此方を向き直った時には。

九十九先輩は既に笑顔を浮かべていた。

 

「ぁ、ごめん。見苦しいの、見せた、よね」

 

明確な二面性。

何と答えればいいか曖昧に――――中途半端な笑みを返して。

ほんの僅かなトラブルは、文字通りに地下深くへと埋葬されたのだった。

 

             ――――『Chapter2:伝承再現、目醒めし一歩』:了




明日の更新はChapter2のキャラクターシートの予定です。
相変わらず幾つか情報提示する枠は設けますので、気になることがあれば感想などいただけますと幸いです。
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