※Chapter2~3の間の話です
「ところで東雲先輩」
「あーん?」
珍しく工房に閉じこもらずに外に出ている先輩に向けて声を掛けたのは、『迷宮』に潜った翌日。
休息を兼ねて自由行動とした日に顔を出したビルの店内、カウンター越しのことだった。
「最近なんか忙しかったりするんです?」
「あんま変わらんと言えば変わらんし、忙しいと言えば忙しいってくらいだな」
これが欲しいあれが欲しい、と購入するのは消耗品。
特に道具を手入れするのに必要な油類、保存食類は下手な店よりも整っている。
こういった物品を手に入れるのもまあ伝手なんだとは思うが、自作も混じってるんだよなぁ。
「急にどーしたんだよ」
「ああいえ、此処最近一緒する機会がまるでないなぁとふと思いまして」
「ああ、そういう」
一つ一つの値段をキャッシャーに通して加算していく。
正直俺等の関係なら値段も知ってるし纏めて幾ら、纏めて支払う、くらいの大雑把でも良いのだが。
在庫管理という都合上こうして面倒くさいやり取りを挟んでる。
薬とか武器とかになるとアレは個人間のやり取りだから言い値のやり取りで済むんだけど。
「って言ってもな、俺にも俺の用事があるんだわ」
「まあそうでしょうねえ」
天音ちゃんからも軽くは聞いてる。
こういう時は恵先輩は全く役に立たない。
自室に籠もってぐつぐつなにかしてる人がいろいろな噂を知ってたらそれはそれで怖い、とも言う。
「
「ん゛っ゛!?」
なので、此方からボールを投げてみる。
反応はかなり分かりやすく、ちょうど飲み物を飲んでいたタイミングというのもあってか気管に入ったらしい。
胸元を叩き、げほごほと落ち着くまでのんびり様子を見てみる。
……あからさま過ぎて、隠す気があるのかないのか。
俺も彼奴から聞いた時は真偽を疑ったが、この感じだと半分以上は合ってるらしい。
「如月のやつか…………!?」
「いや、隠す気あったんですかー、とか言ってましたけど」
「隠す気も何もンな後ろ暗い理由何もねーよ!」
と叫ばれましても。
ほら、天音ちゃんが声に反応して裏から顔を見せた。
一時的に俺の手を離れたミサキも一緒だ。
なんでもないと手をヒラヒラさせれば、再び顔を隠したが……話は聞いてそうだなぁ。
「なら何してたんです?」
「あー……………………」
言うか言うまいか悩んだ末。
手招きされて少しだけ顔を近付け、それに合わせて声も小さく。
する意味も殆ど無いのは分かってるだろうけど、多分そうしないとやってられなかったんだろう。
「いつもの人の弟にな、探索者の才能があったらしいんだ」
いつもの人。
客商売する気がまるでないこの店(一応店、という名目でビルを借りてる側面もある)にやってくる数少ない客。
何でも東雲先輩の一個上の、普通の高校に通ってる女子生徒ってのは聞いてるが。
顔を合わせれば挨拶位はするけど、そうでもなきゃ態々会いにも行かないくらいの関係性。
結構いいトコのお嬢様らしいってのは前ポロッと当人から聞いた。
「はぁ……『扉』潜れちゃったと」
「潜れちまったんだとよ」
無論、両親がいない……国営の孤児院育ちであればそれは福音だ。
ただ、その真逆にきちんと親がいる相手であれば入学は任意である以上、選択肢は大きく別れる。
正直なところ一攫千金という夢を見ることは出来ても、正しく知識と鍛錬と、後は運次第で結末は天地に別れる仕事だから。
「そうなるとちょっと面倒ですよねえ……特に名家とか言われるとこは」
「其処なんだよなァ」
けれど、周囲の評判というモノを大事にする家だと行かせない理由探しもまた難しい。
嫡男、家を継ぐ人間であればそれは言い訳に出来る。
ただ、それ以下の人間であると『迷宮』に潜る題目の一つが国のエネルギー問題という部分で引っ掛かる、らしい。
有り体に言ってしまえば、陰口は叩かれるし評判が落ちるとか何とか。
「そのせいで実情が知りたいってんで呼ばれてたんだわ」
「まぁそれは納得しますけど」
うーん。
これ言ったら怒り出さないかなぁ。ちょっと不安だけど。
「だったら東雲先輩が
なので、そんな評判を打ち消す為に取られる行為が嫁取りとか婿取り。
家に探索者を入れる、という形でお国のために働いてますよ、というアピールが此処十年程で知られるようになった。
実際問題会社として動く上でも支援して貰えるし選択肢としては有りなんだよな。
時代が中世に逆行してる気がしないでもないけど。良く肯定否定派で言い争う種にされてる。
「アホ、ンな相手なんざ幾らだって見繕ってるだろうよ」
「そうとも限らないと思いますけどねえ……」
天音ちゃんへの過保護が行き過ぎててこの人も自分のこと客観視出来てねーんだよな。
似たもの義兄妹っぽいのは何を言っても変わらんし、これ以上突っ込むのはやめとくが。
「なんでまぁ……多分来年から学校に通うのは確定なんだが」
「其の為の下準備、と言うより心構えとかですか?」
「後は此処に連れてくるのも考えなきゃなぁ、ってとこよ」
ほんとに面倒見は良いんだよな。
まあ正しい意味で探索者になる頃には俺達は卒業してるわけだが。
関わっちゃいけないわけでもなし、それまでに介入する余地を作っておけば楽にはなるって感じかね。
「それはそれとして、天音に変な目向けたらぶん殴るが」
「多分そういうとこ一番直さないと駄目っすよ」
「直す必要もねえだろ、一生涯な」
そうかなぁ。
こういう人、家庭持ったら相当溺愛しそうだが。
……ま、愛情なんて感情は良く分からないし。
なるようになるか。
俺も、これ以上は変なこと言わないようにしとこう。
「取り敢えず、第一階層の探索に合流はそのうち出来るんですよね?」
「ああ、俺も恵も第二階層二人で進めるとは思っちゃいねーからな」
どんだけヤバいんだよ第二階層。
今から少し怖くなってきたんだが。
そんな、とある昼下がり。