現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「全員分届いたよな?」

「届きましたー!」

『はい』

 

既に真っ暗な時間帯。

一般的なスーパーやデパートもとっくに閉まっている時間帯。

あの後帰り際にもう一度見かけたドワーフを叩きのめして少しだけ膨らんだ財布を元にやってきたのは、少しだけ高級なファミレス。

 

この一ヶ月で新たに出入りが起こった店で、一番の売りは昼間ではなく夜の時間帯に絞った営業をしているところ。

その分単価は高くはあるけど、夜に好きな物が注文できるという点が受けてかそれなりに客の出入りがある。

 

例のデパート系列の店だからか、探索者の性質を良く分かってる部分が一つ。

それは各客毎に個室へと案内されるところ。

完全な情報の遮断は出来なくとも、ある程度は安心して話せるという気軽さも受けた理由の一つだと思う。

 

「はい、じゃあ今日もお疲れ様」

「お疲れ様でーす!」

『です』

〚コンコン〛

「お前は良いんだよお前は」

 

かちゃん、とグラスを合わせるノリ。

今まででは絶対考えられなかった光景。

たまの贅沢と言っても自分で作ることのほうが多かった。

 

俺の眼の前には普段面倒で作らない海鮮系のパスタが幾つかとピザ。

小鳥遊の前には鉄火丼に海鮮丼に親子丼と米米米。

天音ちゃんの前には焼き餃子に水餃子、炒飯に麻婆豆腐。

 

各個人が今日なんとなく食べたい物が被らなかったからこそ起きたテーブルを埋め尽くすような宴会みたいなノリ。

後シェア用と言いつつ頼んでいたポテトとジュース飲み放題は今更か。

テーブルの下に潜ってミサキは最近気に入ったらしい稲荷寿司を食ってる。

 

「お腹いっぱい食べられるのは助かりますねー……」

「お前普段そんな飢えてんの?」

「寮のご飯だけだと足りないのは事実ですよ?」

 

しみじみと呟きつつ一気に鉄火丼の中身が口の中に消えていった。

綺麗に、けれど明らかに異常な速度で。

しかも全然足りないとばかりに即座に次のやつに手を出していたので聞いてみれば、帰るのはある意味当たり前の答え。

 

「天音ちゃん……は知らんよなぁ」

『私は一日だけですからね……』

 

特例中の特例。

そもそも声が出せず、親族が近くに住んでいるのだからと一日だけで追い出された彼女に聞くのは野暮過ぎる。

 

俺自身の記憶だと男子寮はクソデカい皿に山のように盛られつつ好きなだけ食え、のノリだったんだが。

やっぱ女子側だともう少しお淑やかにしろとかそんな感じなんだろうか。

まあ、そう指導するのは明らかに違和感があるんだが。

 

「まぁ横に肥えることだけは無さそうだが」

 

特に剣道、剣術を学んできた此奴なら良く分かってるだろう。

一皿を空にしながらそんな事を言えば、特段目線も向けてないのに何故か細い目を向けられている。

 

「セクハラですよセクハラ!」

「いや真面目な話、食えずに自ら飢餓に突っ込むアホはいるんだって……特に女、と一部の後衛職の男」

 

だから女子寮のその扱いがちょっと謎。

 

探索者という自ら身体を張り、常に運動し続ける職業である以上カロリーの消費量は馬鹿にならない。

 

特に深く潜り、強くなった探索者は見た目の筋力とは遥かに違う力を発揮できる。

その反面、要求される食事量……と言うかカロリーは下手な運動選手と並ぶレベル。

だからこそ”量を食べる”か”見るからに脂”な食事のどっちかに身体を慣らす訓練をするんだし。

 

『迷宮』内では其処まで食事の猶予が取れない分、道中で携行食を齧るのはこれが理由。

なので上に戻ってきた時に美味い飯を食べたくなるのは半ば本能。

 

「訓練してきた……んですよ、ね?」

「考えが甘いんだって。まあ泣きを見ながら矯正したんじゃね?」

 

まあ引退すりゃその辺の量も調整するって話だけど。

俺だって自分から近接戦をしに動く訳じゃないにしろ、ある程度以上の筋力を担保するために食事だけは欠かさない。

それこそ訓練階層で獣肉辺りを焼いて喰うだけでも全然違うんだから、ファンタジー系の冒険者よりよっぽどマシ。

何しろ、調味料だけは潤沢に使えるんだし。

この辺の過去の環境の差は、今話していているだけで実感する。

 

(食える時に食えるだけマシ、ってのを実体感してるかどうかの差もあるとは思うけどな)

 

孤児院にいた時のひもじさを思い返せば、腹を満腹に出来る有難みは全然違う。

誰も頼れる相手がいない状態から少しでも成り上がろうとする時の喰らいつきは本気で違う。

その辺り、身内で固まった彼奴等と別口に見出した俺の差は絶対あると思ってる。

 

『それで、センパイ』

「ん?」

 

綺麗な姿勢で()()()()水餃子を空にしながら、差し出された電子機器。

手に持っていた食事を飲み込み終えた後に問い掛け直す。

 

『十三階は何時になったら進むんですか?』

「其処なー……」

 

ちょっと悩んでるところではある。

 

「先ず、今月中……遅くとも来月半ばまでに突っ込んで奥の『扉』までは解放する」

「え、其処までやるんです?」

「出来れば夏休みに十五階までは到達してーんだよ」

 

誰に話を聞いても口を閉ざす十五階。

行けば分かる、体感しないとわからない。

或いは何を思い付くのか楽しみにしている。

そんな言葉だけで、見詰めてくる視線だけはそれこそ大真面目に。

 

「「選別の間」とかいう場所があるらしいからなぁ」

 

ちまちま集めてきた『石の華』もまだ人数分には足りない。

それでも半数は超えてきた。

多分、夏休みに攻略するくらいには溜まり切るだろう想定。

どれくらい集まったのかはまだ店主にも伝えてない、ちょっとだけ驚かすのが楽しみなこと。

 

「選別、ですか」

『何をするんでしょうね』

「さあな……まあ、碌でもない事だろ」

 

『迷宮』絡みなんだし。

 

確かに、と。

各々が頷いたのは、ほぼ同じ時に。

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