現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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ケイヲス。
愉快な先輩回二回目です。


011

 

自己矛盾(いつものこと)に悩み始めた先輩は一旦此処に置いておく。

 

「んじゃあ用事片付けるかぁ……」

 

行くぞ、と小さく声を掛けて階段へと足を踏み入れる。

唐突に混乱し始めている東雲先輩に戸惑っている後輩の腕を掴み、引っ張り始め。

 

「え、あの、ちょっと、先輩!?」

「ほっとけ、そのうち自分で気付くか天音ちゃんが帰ってきて()()から」

 

表のシャッターが閉まってた以上、買い物か何かにでも出てるんだろう。

そんなことを考えつつ進む耳に聞こえるのは慌てる声色。

俺も昔はこんな感じだった気がするが、一年も経てば嫌でも慣れる。

というか慣れろ。

 

「な、治すって」

「いつものこと過ぎるんだよ、だから頭でも(はた)けば元に戻る」

 

但し、それが実行できるのはある程度親しい仲間くらいなもんだけど。

 

「そういや後輩よ」

「ちゃんと名前があるんですけどー」

 

ふと思ったことを聞いてみれば面倒臭い反応。

内心で溜息を零しつつ、拗ねてるような言葉に対応する。

 

「……小鳥遊。東雲天音(しののめあまね)って聞いたこと無いのか?」

「……無いですねー。そんなに有名な子なんです?」

「有名というか、()()()()()()()()()()()っつーか……」

 

目立とうと思えば幾らだって目立てる能力に目覚めた子。

『探索者』界隈だと『二つ名』だけが密かに噂が広まり、結局消えていった能力持ち。

にも関わらず後輩が天音ちゃんの名前を知らんということは、だ。

 

……結局此方側に流れてきたのか。

出来ることを知られれば、光り輝く頂点を目指せる逸材だって何度も説明したんだけども。

 

「ままならんよなぁ……」

「え、いや、何がです?」

「欲しい人のとこには欲しいものが来ねーって話」

 

俺も、彼女も、友人も。

能力、性格、或いは才能。

一番大事なものに限って持っていないからこそ、仲良くなれたんだとは思ってる。

 

「変なことばっかり言うなぁ、今日の先輩」

「お前は俺の何を知ってるというのだ……」

 

たん、たん、たん。

室内の――――それでもビル形式だからか、リノリウムかコンクリートのような妙な硬質な音を頼りに昇り。

更に緑一色の階層へと辿り着く。

 

プランター、室内用の花壇に植えられているのは様々な草木。

木製の扉には『けんきゅーしつ!』と良く分からない丸っこい文字が書かれた木板が一枚ぶら下がっている。

土と緑と、後は良く見る物品の自然の中のような香りは『迷宮』の中をこそ思い浮かばせ。

 

「わぁ」

「まぁた外に出てるよ……」

 

後から来た少女からすれば感嘆に近い声を。

そして俺は、この惨状を見て溜息一つで纏める。

 

「え、外、ですか?」

「何度も何度も言ってるんだが、これは()()()()()()んじゃなくて()()()()()んだよ」

 

室内は多分足の踏み場もない状態になってそう。

一度思いつくとマジで止まらないからな、あの人。

風呂にだけはちゃんと入ってくれてるらしいのはギリギリ救い…………いやこれを救いと呼びたくないなぁ。

 

「恵せんぱーい!中大惨事だったら怒りますからねー!」

 

色々と呆れつつ、改めて扉の前で一声。

一瞬経って、急にどたばた音がし始めたのは諦めたほうが良い気がする。

 

「大惨事だったなこれ」

「でしょうね」

 

後輩と意見を交わし、同じ回答に同時に頷く。

そして、待っていても駄目なのは分かってるので一歩踏み込んで強引に扉を開く。

 

途端に溢れるのは余計に拡大した緑の香り。

室内の真ん中には魔女を思わせる巨大な黒鍋。

部屋の壁沿い一帯には外に出ていたプランターとはまた別の薬草が様々に咲き誇り、更にその中の一帯を瓶に詰められた液体が山積みになっている。

きちんと梱包された商品らしきものは窓沿いの一角に乱雑に積まれ、そちらに対して物品を押し込んでいる女性の後ろ姿。

 

床に着きそうな長さの乱雑な白衣。

窓越しの逆光でその下が映し出され、想定していた通りの格好に頭を抑える。

手に持っていた布袋が、床へと落ちた。

 

「先輩!そっちに固めたら余計片付けるの面倒になるの分かるでしょう!?」

 

同じものを見た後輩は反応が遅れ……というか動けずにいる。

何しろ、肩越しに紐のような何かがダルダルの状態で伸ばされて着込まれ。

女性用の下着、よりは多少はマシだろう女性用の寝間着(ベビードール)一枚のみといった格好だったので。

 

怒鳴りながら彼女に近付いて両腕を掴んで()()()()()

変に拘束しようとすると暴れるし、色々な意味で危ない光景に成りかねん。

二度と同じ失敗はしないと誓ってる。

 

「あー!ちょ、後ちょっとで一段落するんだって!だから一時的に……!」

「毎回毎回同じ答えじゃ信用もされなくなるんですよ!」

「やめてー!」

 

今度は何の研究してたのか知らんが、この人から目を離すと()()()()()()さえしかねない。

東雲先輩が見ててくれりゃいいのにあの人も同種だからな……!

 

じたばたと暴れる女性。

そんな女性を持ち上げ、ほんの僅かに空中に持ち上げる俺。

一見すれば意味不明な光景だからだろうか。

 

「……なにこれ?」

 

後ろから聞こえた声が、余計に響いた気がした。

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