現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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やや薄い赤色をした髪の毛の少女。

白いワンピースは周囲に対して溶け込み、けれどその格好だけが浮いている。

目線を向けられないのは……まあ、多分無意識に使ってる特異性の影響もあるのだろう。

つまり、()()()()()()()ってことだが。

 

(お前等は少し黙ってろ、一応天敵に近いけど無法はしないし出来ないから)

 

腹部と袖口を一度擦り。

小さく揺れて返事とする。

 

一歩二歩と近付いて、けれど向こうは此方に気付かない。

と言うよりも先方に集中し過ぎている、と呼ぶのが正しい。

利点であり欠点で、けれど消しきれないデメリットでもある過剰な集中。

それを向ける先は……まあ、見なくとも分かるが一応。

 

「……何してんの、結ちゃん」

「うひょぉぁっ!?」

 

肩を叩いて声を掛ける。

普段聞き慣れない悲鳴が小声で響き、それを聞いていた周囲の人間が此方へ目線を向ける。

ただ、さっきまでやっていたことがやっていたことだからか。

或いは似たような人間は探せば幾らでも見つかってしまう悲しい事実があるからか。

遠巻きにしつつも誰も声を掛けてこないのは不幸中の幸いだと思われる。

 

「だ、誰かと思ったら月見里先輩ですかぁ!?」

「いや、周りからめっちゃ見られてるからね?何してんの?」

 

不知火結(しらぬいゆい)

苗字が指し示すように、九十九先輩の実の妹。

学年で言えば二つ下、来年学校入学予定で現在体力トレーニングと最低限の知識を叩き込まれている訓練生みたいな立ち位置の子。

そして、俺の身の回りで唯一知る『特殊型』に分類される能力持ちでもある。

 

「な、何って決まってるじゃないですかぁ」

 

向こうです、と柱の向こう側を指差して再び身体を隠す。

 

()()、なんて聞こえる筈もない声が一つ。

同時に周囲の目線は俺等から外れて、元の人混みに消えていく。

 

仕方ない、という感情は出来る限り奥に伏せて。

出来る限り自然に、且つ推測通りだろう向こう側に気付かれないように周囲を探りながら目線をやる。

 

「………………」

「~、~~~~!」

 

知ってた。

 

目線の先にいるのは知ってる二人。

雄二と九十九先輩が並んで此方に背を向け、何かを視ている光景。

 

その距離感は普段より一歩だけ近い、肩が触れ合うかどうかと言った間隔。

はっきり言えば割と見かけがちなモノ――――ではあるのだが。

そんな一般論(?)は恋する乙女(このこたち)には通用しない。

 

「……ふ、二人っきりで買い物とか、言ってて」

「まあ、うん……そうだよなぁ……」

 

君が本気出すとしたら彼奴か九十九先輩絡みしか無いもんな。

シスコンで……多分ファザコンに近いのも患ってる子だし。

既に両親を亡くしているって話だし、特に見返りを求めない手助けしてくれる相手に恋愛感情と家族愛感情を混ぜて覚えてしまっても不思議じゃない。

出会った時期が悪かったとは到底言いたくはないが、それでも俺の立場からすると応援するなら先輩側なんだよなぁ。

 

「とは言ってもこうして付き纏うのはどうかと思うけど」

「わ、私だけが言ったんじゃないんですぅ!()()()!」

「……ホウがぁ?」

 

目線が冷たくなっていってるのに気付いているのかいないのか。

弁明というか自己弁護に近い本音の中に出た言葉。

俺達の中での共通認識として出た名前に、少しだけ警戒と疑いの色を強くする。

 

「なんだって?」

「ゆ、ゆーじ先輩が危ない、って」

「彼奴が危ないなんて日常茶飯事ではあるけど……まあ、それならそうなるか」

 

彼女の負った能力は『幻鳥』。

武具と特異性が一体化した特殊型の基本通り、鳥類に分類される疑似生命体を生成・使役して戦わせる”テイマー”に近い能力持ち。

 

主に彼女が扱うのは三種類。

夜目が利き、また鳴き声で周囲の反響を聞き分ける梟の『フク』。

こうして周囲に溶け込み、ある種の迷彩に近い役割を果たしつつ周囲を観測する烏の『カー』。

主な攻撃役であり、そして奇妙なほどに勘が良い明瞭な知性を併せ持つ相棒の鷹である『ホウ』。

 

名前と鳴き声が混合してる気はするが、第一印象がそうだったらしいから仕方ない。

んで、その中でホウが言ったって言うなら先ず何かしらが起こるんだろうけど。

 

(しょーじき、九十九先輩と一緒にいるなら納得する部分もあるんだよな……)

 

あの人、凄い純粋に運が悪い人だし。

そうした不運を腕力と暴力と手助けとで乗り越えた節が見えてるので不安はそんなに無い。

あるとすれば……この子にその光景を見せて良いのかどうなのか、ってとこがあるが。

 

(多分彼奴は結ちゃんの事気付いてるし)

 

半ばソロの宿命。

日常でも警戒するのが当然になってて、当たり前にするから普段と気配がまるで変わらない現象。

その上で目を此方に向けないので気付かれていないと錯覚することを利用する動き。

良くやることだし、身の安全を確保する上で大事になること。

 

ただ――――多分、今回の嫌な予感が起きる理由の一つは結ちゃんも理由にあるんだろうなぁ。

言っちゃうと可哀想だし、どうしようもないことだから公言はしないが。

 

「……助けたい?」

「と、当然、です」

「人助けとか柄じゃないんだけどなぁ」

 

まあ彼奴を煽り倒すのには良い題材(ネタ)だし、少しくらいは手助けするか。

 

「なら……先ずはこっからやっとくか」

 

九十九先輩と一緒にいるなら、彼奴は自分のことは先ず二の次に置く。

相手も先ず同じ、つまりその対応にちょっとした遅れが生じる。

なので……結ちゃんには悪いが。

連絡端末を開いて、幾つかある緊急時の単語だけを打ち込んで送信。

 

「?」

「気にしないでいいよ」

 

しかしどうすっかな、当初の予定からかなりズレるか。

まあいいや、取り敢えず張り付いたまま移動してデパートから出るようならまた考えよう。

 

「まあ、変に見えないように追い掛けようか」

「は、はいっ!」

 

お前等も頼むぞ狐共。

多分小さく鳴いたんだろう、服の内側でもぞもぞ動き。

併せて、肩の上に乗ってるだろう迷彩柄の烏にじっと見られた気がした。

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