現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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(とは言え気不味い)

 

ことさらゆっくりと色々見て回っている二人の後を、不自然でない程度に追っていく。

 

目的の場所から離れてもいかないが近付いてもいかない。

個人店舗、食器やこの時代では大分物珍しくなったらしい輸入商品。

後は服屋に携行食販売店とある程度質と値段が安定した商品を二人で見回る男女。

の後を追い掛ける男女、とか言う事情を知らなければ明らかにおかしく見える光景。

 

ただ、周囲を見てみると似たような異性を目で追い掛ける、或いは実際に追い掛ける同年代はいることにはいる。

 

理由は単純な話。

『迷宮』が現れて以来、特に探索者はほぼ探索者間でなければ男女の関係性は成立しづらくなったから。

より正しく言うなら、『迷宮』に潜り続ける限りは同じ集団(クラン)か従属関係でもなければ先ず成り立たない。

 

()()()()()精神を落ち着けるために肌を求め合うというのはある程度慣れ切った探索者は当たり前にやることと聞く。

実際、表向きにはしないがそれを代価に護って貰う弱者側の立場だって存在するわけで。

きちんと互いの利益が釣り合うのならば、そういった一個人の扱いだって商品として成立するのが腐敗した闇のまだ上澄み。

 

けれど、そうでもない間柄を求めるのなら。

ある程度は真っ当な倫理観と力を持った相手と旧世代のように一対一を望むのなら、暗闘陰謀なんのそのな世界であるのもまた確か。

今はそうではない特例が執行されても、その特例を満たす人物が増えないというのも歯止めの理由の一つなんだろうか。

 

(だから、狙う前段階……調査員の需要は増すことはあっても減ることはないんだよな)

 

気配を消せる、遠くから監視できる、物事を後から認知できる。

そういった別方向に応用出来る特異性の人気が一定数生き残る種の一つがこれ。

この手の短時間の仕事で金を貯め、そしてその金を湯水のように惜しまず注ぎ込んで『迷宮』のノルマをこなす。

これもまた、学園が暗黙の内に認める攻略としての正当な手段であるから。

 

「……う、動きます、よ」

「そうだねー」

 

そんな能力持ちが、個人の欲望と(相半ばするくらいに)心配の為に好感情を持つ相手を助ける。

どす黒い悪意が蔓延るこの界隈にしてはかなり真っ当な方向性の支援。

 

果報者だと言ってやるのが良いのか。

逃げられないなと煽ってやるのが良いのか。

どっちにしろ最終的にライン超えれば物理的に殴りかかってくるだろうからその辺は見極めないとだが。

 

自然と向かう方向は人混みの中途半端な方。

武具を取り出すのがほぼ当たり前に違法と捉えられる法律改定の隙間際。

特に刃物と見咎められやすい彼奴の有利な点の大半が潰れる以上、人混みが激しい方向に進む理由もなく。

九十九先輩の特異性で守ろうにも、アレは弾き飛ばす、受け止めるという性質の都合上二次被害が起きやすい。

さっき送った連絡で今の現状は認識できているんだろうし、言葉巧みに進む方向を調整しているのは流石と呼んでおこう。

 

(んで……ああ、丁度いいな)

 

向かう方角は俺個人の当初の予定通りだったホームセンター側。

その片隅、特殊な機具ではなく一般的な商品が売っている方向。

こういった場所でだけ売っているカップ麺とかがあったりするのでたまーに覗きに行く方面。

 

とてとてと付いて行く少女の後を追いつつ、周囲の状況を俯瞰する。

見えない手のような感覚で触れ、見て、聞く。

 

以前より精度が高まり、範囲が拡大し。

けれど戦闘を考慮するならば広げ過ぎるよりは一定範囲に絞り、更にその中での有用度を上げるべきだと思ってる俺の特異性。

 

〚コン〛

(ああ、そうだな……怪しげな気配が一つあるか)

 

その媒介になるミサキの小さな声に答えるように、手の指先が僅かに引っ掛かるような感覚。

範囲ギリギリを行き来する普通の動きのようで、違和感を抱く相手が一人。

商品の棚の前にいながら商品を見ず、時折携帯端末を確認しながら不自然でない程度に距離を詰めてくる相手。

 

この「何をしているのか」を確認できるように為ったのはミサキがやってきてから二度目の探索時。

無駄に二倍以上に広がった操作範囲に困り、どう調整したものかと四苦八苦した上で完成した同時行動時の精密性の向上のおまけ。

天音ちゃんの言っていた先読みとはまた別の――――と言うよりは前段階。

 

操る上で凝縮した空間の中の異物を何となしで把握できるようになった、以前から生命体に行っていた行動の地上での解禁。

 

「内面」に作用する能力だけに許されていた特権が、「外面」に作用する能力へも許され始める。

『迷宮』内でだけの超人が、外でも超人へと切り替わる始まりの位置に俺達はいる。

訓練地帯の守護者を打倒した探索者達は、須らくこの状態へと行き着き越えている。

 

(刃物……か?)

 

弾かれるような感覚はない。武具ではない。

ただ、持ち上げられない時特有の虚無感がある。俺にとって、その対象はただ一種類だけだ。

その存在に周囲の誰もが気付いていない――――多分、雄二の発展性に似た隠密系の特異性持ち。

 

「結ちゃん」

 

声を掛ければ、びくりと反応するのが分かった。

錆びた歯車のようにぎぎぎ、と動く姿に少しだけ笑いが溢れる。

いや、笑ってる場合じゃないな。

 

「多分捉えた、確かにいるね」

「ほ、本当に……?」

「疑われるのは分かるけど、俺が君に嘘付いた覚えはないんだけどな……」

 

特殊型や創作者型は最初から外でもほぼ全開で能力使えるし、彼女は俺が外で苦しんでた姿を知ってる。

だから、どうしてもその時の光景と重なってしまう部分もあるのだろう。

 

「ただ、多分俺個人とは相性悪い相手だと思う」

 

近くにある缶詰とか、立ち位置に依って変えるつもりだが不自然でないものが無ければほぼ無力。

ホウが”言う”危険がどの程度のモノを指すのかは分からないが、常に万が一を考えるのは当然のこと。

だから。

 

「なにかあったら、君が助けてあげてね」

 

その手助けに全力を出す。

少なくとも。精神にこれ以上傷を負っていい年齢の子ではないのだから。

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