現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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相手が距離を詰める速度は不自然でない速度。

二人が移動する範囲は不都合が起こらない距離。

 

何方も違和感、というモノを抱かない/抱かせないことを前提に移動していく場合。

有利に働くのは何方になるのか、という話。

 

(加害者は気付かれても対応できる距離まで詰める、二人は正当防衛を装える立ち位置までの移動)

 

仮に唐突に刃物を振り翳す相手が現れたとして、能力を持たずに抵抗できるのかどうか。

極純粋に人間を、獣を殺す為だけに発展していった遠距離武器(じゅう)があるならば兎も角。

唯の警備員がそれに立ち向かって無事で済むかと言われれば十人中十人が首を横に振る。

――――故に、『銃』への信頼性と管理の厳重性が強められたのはある種の皮肉なのかもしれない。

 

ただまぁ、だからこそ。

()()()()探索者は自己防衛が求められる。

 

相手が刃物を持ち出したから。

相手が此方を殺す意思を見せたから。

そういった正当防衛として認められる幅が曖昧だからこそ、加害する側はより密かに、より鋭く刃を研いできた。

 

『派手に殺すのは三流以下の仕事です。最善は誰も気付かれない自然死。

 ……覚えておいて下さい、月見里くん。傷付いても良い部分と、そうでない部分の対応は別物です』

 

()()()()()()()()()()()()()()()経験者の語る内容は重く。

そして実地体験したからこそ、その言葉の本質の一面くらいには指が掛かったと思っている俺の理解した事。

 

それは、どれだけ自分達が不可抗力を装えるか。

或いは証拠を残さないか、という水面下の争いが探索者同士での殺し合いの本質なのだと。

 

(この流れなら先ず雄二は武具を使わない。鈍器なら別だが、刃物は過剰防衛だと裁くケースが異様に多いし)

 

探索者、という存在が日常に溶け込み始め。

けれどその本質が知られる毎に別存在ではないか、という疑いも広まっていく。

だから、仮にその場で裁かれることがなく上に持っていかれた時は両者に不平等な裁きが降りる事は非常に多い。

 

それを考慮すれば、最悪でもこのデパートの警備部で判断できる程度で済ませるつもりなのが二人。

逆に言えば、加害者側は自分の身を隠せる距離さえ稼げれば後にどんな騒ぎになっても無関係を装える。

少なくとも、この場で実行に移している以上はそうした権利を持った相手の一人や二人は抱き込んでいる。

 

そういった面では不利。

ただ、それを引っ繰り返す勝手に動く札が二枚(おれたち)

そんな盤面に唐突に現れた存在に対応できる相手なら、そもそも俺達が太刀打ち出来るとは思えないから考えないことにする。

 

(つまり、先輩の特異性で押し囲んで逃げられないようにする――――多分、一度の接触は避けられない)

 

狙いは……多分九十九先輩だろうな。

借金という鎖を断ち切った以上は、絡め取れるはずだった将来の利益を失ったのと同じ。

皮算用していた誰かが報復がてらに、みたいに動いたような気がする。

 

あわよくばもう一度絡め取れる。

少なくとも、俺が相手の立場ならそう命じるだけで済むのならリスク・リターンを込みで考えて実行に移す。

 

(逆に言えば、最初の一回……或いは二回を受けさせなければ良い。若干不自然でも、自然現象として納得出来る範疇で)

 

仮に、この考えが正しいのならば。

実行に移したのは探索者を管理する側……『迷宮省』に伝手を持つ相手。

或いは受付の担当者、彼女と接する事が出来た相手。

絡め取っていた上司のどれかしらと繋がる相手。

 

……辿るのは俺の手札では難しいか。

弱みになるのは間違いないが、それを知られたと分かれば俺なんか指先一つで消される立ち位置だ。

やはり、ある程度以上は前に出る必要性がある。

消せない、と知らしめる程度に知名度を得る必要がある。

 

「あ、あの」

「ん?」

「だ、大丈夫……ですか、ね?」

 

ある意味姉妹揃って同じような話し方。

明確な違いは実戦経験と其処から来る判断の切り替えの早さ。

自分に対して自信を持てない人間特有の捻くれ方。

何処か昔の自分を見ているようなむず痒さ。

 

「……少なくとも、今最適なのは結ちゃんの『カー』だろうね」

「お、お姉ちゃん……より、も?」

「君のそれは秘匿性と幅の広さが武器だ。何処まで公開するかに依るけど、手札の何枚かは表立って見せないほうが良い」

 

俺が詳細を知る切っ掛けになったのも些細な事件。

九十九先輩絡みだったな、と少しだけ昔を懐かしみながらも伝えておく。

 

「特に、()()()()()()()()()()の部分は完全な身内以外には言うな。

 ……多分、九十九先輩も同じようなことを言うと思うけど」

「あ、あのお姉ちゃんが?」

「俺なんかよりずっとね」

 

非情な判断を選ぶ選択速度。

自分に取っての優先度評価、対応。

家族には見せたくない部分を含むのは承知してるが、尊敬できる部分は幾らでもある。

 

「……そろそろ動くか」

 

相手の移動速度が一段階上がった。

二人の立ち位置が柱を挟んだ壁側の列に到達した。

逃げ場はない――――互いにとって。

 

「合図したらカーを雄二に向けて飛ばして、届いたら直ぐに接続を切って」

「や、月見里先輩……は?」

「俺は君への合図出しと、一つ目の時間稼ぎをする」

 

ひとつめ。

年下の少女が繰り返す言葉に、特段何も返さずに。

服の内側の二匹へと語り掛ける。

 

(分かってると思うが、転がすタイミングが命だ……頼むぞ)

 

自分の能力に対しての信頼なのか。

意思を持つと思われる二匹への信用なのか。

入り混じっていて良く分からないが……出来ることだけは、自分自身で理解している。

 

後は。

運を天に任せるのではなく。

運を、自分の手に引き寄せる為の賭け金を積み上げるだけだ。

 

片目を、何となしに片手で隠した。

 

目を瞑る。

集中する。

 

辺り一面への意思を広げ――――待った。

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