現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「動いた、飛ばして」

「は、はいぃ!」

 

その時は唐突にやってきた。

 

周囲から見ても明らかに浮いている俺達の行動。

けれどそんなモノに意識を割く猶予はなく、片目を抑えたまま現場へと向けて少しずつ歩き始める。

併せて指示した誘導に従った結ちゃんの肩から風切り音が一度。

小さく嘶く声に何人かが足を止め、首を傾げているのが伝わってくる。

 

足音が掻き消えている。

刺客――と呼んで差し支えない筈だ――の足音は途絶えている。

いや、より正確に感じ取るのなら多分足を地面に接地していない。

 

(浮遊……違うな、()関係か)

 

自分の気配を影に隠す。

自分の足音を影に移す。

色々な意味で本来の斥候として役割を果たすのに有用とされる特異性、『影』。

 

其処と先程探った情報と併せて考えるなら影剣、或いは刺影……恐らくは投擲を兼ねられる武具。

長物を授かった相手がこの場で送り込まれるとは思えず、そしてその選択肢は今回俺が取れる行動とも運良く合致している。

 

歩く。

早足。

小走り。

 

一応は商品を見ている振りをしていたのに、残り数歩の距離まで近付けばそんな見せ掛けさえも投げ捨てて。

一歩二歩とを大股で飛び跳ねるように近付き、けれど音がしないという違和感を強く感じるのは俺だけか。

 

近付く。

柱間際。

狐二匹が小さく嘶き、その本領を発揮する。

 

『――――ッ!?』

 

()()()

柱が小さく揺れる。

揺らす。

 

一つ。近場の棚が小さく揺れ、固定化されていたはずの商品が多数散らばることで意識を集める。

二つ。柱の一角、凹んだ部分に納められていた消火器のロックが壊れて落ちて、地面に転がる。

三つ。本来極低確率で発生するかどうかの角度で飛び跳ねた商品が、その存在の胴体目掛けて飛んでいく。

 

(重い商品がそんなに多くなくて助かった)

 

多分、そんな場所を選んだのだろう。

刃物が見当たらず、何方かと言えば工具や置物が並べられた棚付近の商品。

あまり重いものが多くなく、けれど数だけは揃えられた商品達。

 

何を浮遊させられるのか。

何を軽く出来るのか。

 

彼奴とは互いのほぼ全てを共有している。

それは、単独で生きる為の当たり前の危険度管理の為でもあり。

こうした事態に互いが巻き込まれた際に、お互いが支援を行う為の鍵だから。

 

(これで一手稼いだ)

 

無論、先程の全ては俺が操った結果。

ただ、違和感を抱いたとしても現実的に存在し得ない事象ではない以上はある一定の線を越えて追求できない。

 

無論、その程度……僅かに足取りをふらつかせ、何秒かの時間を稼いだだけ。

それでも、もう一人……先に危機を感じて動いていた少女の手助けが届く時間は稼げる。

 

音という明確な変異が視線をそちらに向かせる理由になり。

()()気付かれてしまった、と言う刺客当人が納得できてしまう理由は違和感を飲み込む。

 

『――――カァ』

 

小さく鳴く、人の口から響く声。

同時に結ちゃんは両目を瞑り、そして開く。

普段から視界を同調している武具との接続を切る為の行為だというそれを現実の目で捉え。

併せ、触覚という第二の視覚にも似た現状を辿って惨状を確認する。

 

懐から伸びた、恐らくは短剣(ナイフ)の作りは変わっていた。

握り手の部分だけがきちんと金属製で、刃物の部分は暗く光を飲み込むような色をして。

近付きながらも刃先だけを向けて――――強く、握りへと力を込めれば。

至極それが自然のように、刃先が飛んだ。

 

音はない。

警戒はしていた。

それでも、本来あるべきはずの全ての影響も受けずに直線的に飛んできた刃先を防ぐには、コンマ一秒足りなかった。

 

自身の存在を軽くするには、目標に指定された相手と認識されている以上は難しく。

九十九先輩の拒絶を実行するには、雄二の存在其の物を否定出来ないが故に別のものを土台とする必要がある。

 

だから、間に合わなければそれはある種の必殺だった筈だ。

 

翼を挺し、肉体を挺し。

周囲の色合いに化けていた烏が、刃先を肉体で防ぐことが間に合わなければ。

自らの武具を贄に変えることが間に合わなければ。

 

「間に合ったよ、結ちゃん」

「は、ぁ…………」

 

()()()、と小さく彼女の背中の空間が波打った。

つい先程まで緊張しながらも平然としていた少女の足が折れそうになり。

近場の柱に手を掛け、幾つかの呼吸を繰り返すことで自然に戻っていく。

例えるならばそう、まだ慣れない長距離走を終えた後に体力を再び取り戻すような行動に近い。

 

手繰る先では、二度目の攻撃を繰り出しつつ離脱しようとした相手の末路を感じ取った。

正面は既に隠され、同時に四方全てを拒絶の壁が覆い身動きを封じた。

上下は建物其の物の天井と床が隠していることを考えれば、実質的に完全に行動不能。

……と言うより、暗殺に失敗して哀れにも捕らえられた刺客そのまんまの光景だが。

 

「よ……かった、です」

「お手柄お手柄、全く感知できてなかったもん」

 

多分気紛れに行われた行為なんだろうなぁ。

と言うかそうとでも思っておかなきゃやってられない。

 

……九十九先輩からすると、相手は見知った相手っぽいけれど。

怒りが沸点を飛び越えて何周かした時のように、僅かな身動ぎさえもしない立ち竦んだ状態っぽいし。

 

「ただ、今あの現場に近付くのはお勧め出来ないから……そうだな」

 

警備員を呼ぶ騒ぎから、こういった時の為に本来雇われている探索者を呼ぶ騒ぎに発展している。

向こう側に近寄らないようにしつつ、缶詰と適当な犬用ブラシを幾らか買ってさっさとおさらばしておいたほうが良さそう。

 

「彼奴の代わりにアイスでも奢るよ、それで今日は我慢しといてくれ」

「……あ、あの」

「うん?」

「が、頑張ってくれたし……カーの分も、良いですか?」

 

好きにしてくれ。

肩を竦めて、人が集まり始めた方角から距離を取りつつカゴを取る。

 

幾らか、目線が背中に刺さるような気がしたが。

見知った相手ではなかったので――――気にしないことにした。




※地味にこの危機察知で何度か助かっているので可愛がってるし頭が上がらない側面が男共にはあります。
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