それから数分後。
「ぐすん」
「口で言っても意味ねーですよ恵先輩」
綺麗な金髪、と言うよりは
白衣の内側に伸びた寝間着、そして腰にはしっかりと幾つかの空き瓶を巻き付けるベルトを付けた珍妙な姿。
今の俺達は床の片隅に正座で座らせ、自己反省を促す状況へと変貌していた。
「先輩、これ何処に移動すればいいですか?」
後輩は一人、あっちこっちへとモノを持って移動中。
部屋中全体にお店が開いた状態では、流石に彼女も嫌悪感が凄まじかったらしい。
「あー……一旦生薬系は全部東側に固めといてくれ、細かい作用までは俺も分からん」
「はーい」
あの、とかその、とか言いつつ手をあわあわさせているのだが……。
こういう時の当人にやらせると絶対余計に時間が掛かるので触れさせない。
いい加減見慣れてるとは言え、改めて後輩と見比べると明らかに女性らしい肢体をした人。
そんな人を相手に、何が悲しくて子供を躾ける親みたいな状況に追い込まれなければならんのか。
「……で?」
「……?」
そこで分からない、と首を捻らないで欲しい。
自称女を捨ててる女らしいけど、こうして近くでしおらしくされるとマジで思考が狂う。
特に『迷宮』外の、余計なことを発散する時間だから余計に。
「何しようとしてたか聞いてるんですよ、普段あんなに使わないでしょう!?」
「あ、そうだそれ!ちょっと聞いてよ零くん!」
だから近い近い近い!
立ち上がって説明しようとすんな!聞こえるから!
なんとか手で追いやるが、それでも説明を止めようとしない先輩にいつもながら恐怖を感じる。
「回復薬を抽出する時の効能を濃縮する中間剤をもっともっと濃縮すれば安い薬草でも高効果にならないかなって思ったの!どう思う!?」
「出来るかどうか……は……はい、
正直。
正直なところ認めたくはないが、この人は
普通だったら可能性はあっても
努力し過ぎる天才が故に、他と目線が合わなくて落ちてきた人。
時代が時代なら……多分
「計算上は出来たよ!」
「実現性は?」
「普通の百倍まではいけたんだけどー……其処で何故か詰まっちゃうんだよねー意見無い?」
そこで止めろよ、と物凄い言いたい。
百倍の濃縮液ってなんだ、人間を再生しすぎの細胞死で抹殺でもするつもりなんですか。
というか流れるように意見求めるのやめてくれませんかね。
口に出してしまえれば良いんだが、そうすると物凄く萎れるから言えねえ……!
「そもそも百倍にして何作るんですか?」
「え、中回復薬を量産したり?色々作れると思うんだー!」
「市場破壊をサラッとやろうとするから目ぇ付けられるんですよ……?
今の中回復薬幾らで取引されてんのか知らんわけじゃないでしょうに」
自分の価値一番分かってないの絶対この人だよなぁ。
まあ必ず意見聞いてくれるだけマシではあるんだが。
「……アレじゃないですかね。濃縮しようとして途中で煮詰まり過ぎてる、っつーか。
一度に何十倍にもやるんじゃなくて何度か工程を挟まなきゃいけない奴?」
なので、せめてもう少し薄くなるように……じゃねえ。
危うく話に引きずり込まれるところだった。
「やっぱり一回じゃ出来ないのかな~。じゃあじゃあ」
「恵先輩、今日来たのはそれが用事じゃなくてですね……!」
更に更に、と普段だったら付き合うのも吝かじゃないんだけど。
先に紹介しとかなきゃ無視……とまではいかないが、今後の対応が面倒臭くなる。
唯でさえ人付き合い苦手な三人だし……。
「小鳥遊、そこ迄でいいから一旦此方来い」
「やーっとですか」
あせくせ働いている後輩に声を投げれば。
ちくちくと後頭部に刺さっていた視線の持ち主が床に荷物を置く音と、此方に近付いてくる音がする。
先輩の目線が僅かに上に向き、小さく震えるのが見えたが――――追求はしない。
「そうだよ、今後はお前も面倒見るんだからな?」
「見られるんじゃなくて……?」
いやまあ、言いたいことは分かるが。
それでもこの人の
「つー訳で……恵先輩、
「候補なんですか!?」
「いきなり採用されるとか思い込めてるお前のほうがすげーわ」
まあやれるだけやるってのは事実だが。
それに胡座をかいて何もしなけりゃ切り捨てるし、それくらいは理解しておいて欲しい。
「ほれ、挨拶」
「あ、そうでした。小鳥遊岬です、よろしくお願いします!」
ま、気楽にやり取りが出来て、それに乗っかってくれるだけまぁマシかなぁと思う基準が緩いのだろうか。
考えれば考えるだけ落ち込みそうなので思考を無かったことにする。
空気を読む力は確実にありそうだし。
「あ、え、お……?」
「はい、大丈夫です。先輩が苦手なタイプじゃないです、ええ」
「どー言う意味ですか!」
具体的には
歩みが遅いし、思考が飛ぶし、会話内容も覚束ない。
自分の興味があることのみを追求する求道者気質だからこそ、その摩擦は激しかっただろう。
だから、この人は切り捨てられて。
東雲先輩はそんな切り捨てた奴等を捨てて、この人と二人で先代に助けられたって話。
そんな話を教えてやるにはまだ早すぎる。
「……大丈夫?」
「大丈夫です、ええ」
「零くんが言うなら……うん、分かった」
少しだけの震えが収まって。
一度二度と息を吸い。
「
おずおずと、先程までの態度と真反対のような挨拶を口にした。
……にしては、距離感は一気に詰めるんだよな、この人。
先輩>後輩>天音ちゃんです。
何がとは言わないけど。