数時間後。
『迷宮』十二層、最奥部。
「あーあー……また集結してるわ」
「何が見えた?」
少しばかり離れた場所で待機を兼ねた休息を挟んでいたところに、雄二のやつが戻ってくる。
『扉』前の最後の広場の状態を確認しに行った後のこと。
戻ってきて早々に面倒くさそうな顔をしていたから、多分速攻で終わらせられるタイプではなさそうだが。
「ドワーフと蟻人、後は……ありゃなんだ、多分属性蝙蝠か吸血種のどっちかだとは思うが」
「また勢揃いだなおい」
完全に姿を隠すタイプの特異性との違い……と言うか弱点。
対人に於いては特に強く効果を発揮するが、生命体に関しては此方をある程度一概に認識する以上強く効果を発揮できない。
だから、どうしても遠巻きに監視しつつの遠眼鏡で索敵するといった道具に頼ることになる。
ある程度肌感覚で生命体の種別を判断するからには、近付けないと言うのは大きな弱点になりかねない。
この辺に関しては配られた手札でどうにかしないといけない以上は文句を言えるもんでもないが。
「奥に逃げたのを追撃した……ってやつです?」
「いんや、ありゃ多分半ば共生関係に近いんだろうな」
一つ上の階層で出会した例を口にする小鳥遊。
ただ横に首を振ってそれを否定し、推察になるが、と前置きしながらの考えの整理。
その生命体の生態に関しては把握しておくに越したことはない。
獣は基本的に火を拒絶する。
鳥であれば直線的な行動が基本になるし、案山子に似た罠で誘き寄せられる種別もいる。
このあたりの応用性の利かせ方は文字通り千差万別だろう。
『蟻人って何を食べるんでしょうか?』
「多分鉱石じゃないかな……近くでドワーフを見掛ける事が多いって話を資料で見た」
ふと首を捻る天音ちゃんに、自分ながらの考えを伝える。
蟻人。
節足類に属する昆虫の前半分辺り……大凡四足程度を持ち上げ、上半身だけを反ったような形の生命体。
何よりの特徴は殆どが錆びた鉄や銅ではあるが、人間……探索者と同じように編成を組んで此方に立ち向かってくる所。
一つ上の階層で良く見かけた獣とは違う、低レベルながらも正しく人に寄った知性を持つ生命体。
今後も似たような存在が出てくることを考えると嫌になるが、『迷宮』を此処まで潜ったなら誰しも思うことがある。
つまり、「この場所を作り出した存在……或いはこの場所其の物には意識がある」ということ。
何らかの意図を持って深くへ、更に深くへと誘う心理。
深淵への手招きと言われても強く否定は出来ずとも、その真実の一端を掴む為に潜る人種もいる。
其処まで崇高な理念なんて持ち合わせてはいないが……何となく、呼ばれていると思うことは無いと言えば嘘になる。
(そういう意味じゃ、深淵を一度覗いたからには向こうから覗き返され続けてるって話も強ち否定出来ねーよな)
小さく首を振って思考を追い出しつつ、もう一つの思考で余計なことを考えていた俺自身を一度否定し
心配そうに見詰める二匹の獣を軽く撫でつつ、宙に浮いたままの欠けた破片を一列に並べて飛ばしやすい位置へと調整しておく。
『ああ、成程……蝙蝠はその手伝いを兼ねてお零れ狙い。或いは独立して、ですか』
「吸血種なら分かりやすいよね。ドワーフも蟻人も、血を吸う存在じゃないわけだし」
鉱石食と雑食。
血液を主にする存在でないからこそ成り立つ共生。
或いは炎や氷などを放つ属性持ち、亜種の可能性はあるけど恐らくは主体としては吸血生物に近いのだろう。
もし此処にゴーレムとかがいたら更に謎は深まったが、幸いなことに見当たらなかったらしいし。
「しっかし」
「?」
ふと思ったことを口にする。
そういや第一階層に潜り始めて出会ったこと無いよな、と記憶を確かめた上で。
「雄二が前遭遇したっつーゴーレムの事思い出してね。今まで一回も出会ってないし、上で言う子鬼みたいなもんなのかね?」
寧ろドワーフにばっか遭遇するのは何なんだ。
一応彼奴等レアな筈だろ。
「あー……ありそう」
「だよな?」
まあ正直な所遭遇しないでよかったと思ってるんだが。
併せて飛行可能な存在も出てきたりなんかしたら対処は厄介なんてものじゃない。
「まあ、最悪は手伝って貰えば良いんだが」
「ただ、なんか負けた感じしねえ?」
「言いたいことは分かる」
こそこそと話す
そんな話し合いをする俺達を、三人の先輩達が眺めている。
何処か懐かしそうな色合いから察するに、昔を思い出しているのかもしれん。
「なんか懐かしーな、こういうの」
「私達の場合
「そ、創作者は仕方ない、よ?」
いや半分違った。
この人達にとってはゴーレムは作業になるレベルで相性がいい相手なんだった。
九十九先輩と東雲先輩は言わずもがな、多分恵先輩も薬を使えば簡単に腐食出来る。
相手が金属なら相性がいい化学反応を発生させればいいだけなんだし、寧ろ筋肉ムキムキな方が苦手か。
「ただ無理をして怪我をするのもなんか間抜けだよな」
「庇われ続けてずっと後ろにいるのも何か嫌だ」
「お前のそれは見栄だろ阿呆」
まあ冗談半分で言ってるから深くは突っ込まんが。
後輩二人がじとりとした目で此方見てるし。
「……ま、見栄を張りたい気持ちも分からんではないし」
少しばかりは先輩らしいところを見せたいって気持ちは分かる。
少しだけ、良いところを気になる相手に見せたいって感情も分かる。
だから、ぽつりと零すだけにして。
「いつも通り俺が掻き乱す、後は随時対応……で、先輩方は逃さないように対応お願いします」
頼らなければやっていけない場所までは、四人で何とかしてみよう。
一人で、と言えない辺りが俺の限界点なんだろうけれど。