現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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一歩、二歩。

少しだけ離れた場所から翔ける姿には未だに慣れることがない。

 

(ミサキ、後二歩くらいで着地できるように動くぞ)

 

元々考えていた――けれど重量と脳の限界の関係で出来なかった――移動手段の二歩程手前。

 

戦闘時に空を飛べれば、なんていう空想。

その手前として考え、そしてある程度の負担を任せれば実行可能になった強襲手段としての一つ。

つまり、軽く飛び跳ねながら前進する際に少しだけ身体を持ち上げて()()()()()()()

身体全てを持ち上げようとすれば武具の浮遊に意識が届かず地面に落ちるが為に、交互に浮かせるような不格好さ。

それでも、この手段が取れるようになったことでの戦術的な幅は思っているよりも大きかった。

 

(クダ、先に蝙蝠を潰す。動く想定先に破片をばら撒く、用意を)

 

こん、こぉんと脳内にだけ聞こえる声。

地面を駆ける小鳥遊達とは別での移動。

少しだけ先行しつつも、飛んでいる相手の更に上を取る攻撃手段の確保。

 

これに成功するまで約一ヶ月。

一般的な……それこそ普通の探索者が集う集団(クラン)であれば当たり前に取れる戦術の一。

けれど、俺達の部隊にしてみれば更に一つ広がったと感じる部分もある。

 

本来であれば俺よりも雄二の方が本質的に噛み合う技。

けれど、彼奴がこの手を取る場合大きく二つの欠点が目立つから緊急時以外の使用を仲間内で禁じ。

その代わりに俺が色々取り組んだ成果が出始めたのが此処最近。

 

(見つかるし、緊急時の対応が取れないからな……)

 

(推定)殺生石の目覚めからより強く感じるようになった事象。

もしかすれば、感じているのは俺だけなのかもしれない……そう感じることもある事柄。

何かが刻一刻と近付いているという焦燥感。

 

ノルマ、という曖昧なものではなくもっと――――そう、()()に関わるような事。

鍛えれば鍛えるだけ強まっていく、鋭敏になっていく死に近付く感覚。

 

(出来ることを増やさないといけない、出来ないことを出来るようにしなければいけない……その踏み台だ)

 

希少と言われる生命体との遭遇率。

守護者、乗り越えなければいけない壁。

集落の主、異物を得る為に挑む方策を考える強敵。

 

明らかに、『迷宮』はその全てを乗り越えさせようとしていると思う。

余計なことを考えながらの、二度目の跳躍。

 

蝙蝠……本来は超音波、高音を発することで自他の位置を把握する存在が真下に見える。

けれどこの地下に住まう其れ等は、一つ上の階で見受けられた存在よりも悪辣に変異している。

 

口先が裂け、その舌はある程度まで伸びるように伸縮し。

足元の鉤爪は軽く触れるだけで簡単に皮を引き裂き、皮膚を露出させる。

これが『吸血蝙蝠』と言われて何処がだよ、と思ったのが懐かしくさえ感じる。

亜種にもなれば当然のように属性遠距離手段を併せて使ってくる以上、下手な前衛よりも先に潰さないと後々が厄介過ぎる。

 

(だから)

 

特異性を周囲へと放つ。

蝙蝠達が放っている超音波と僅かに干渉――――目線が此方へと向くのが分かる。

 

退化したはずの視線。

けれど、確かに此方を「見ている」生命体。

ただ、浮かび上がらせていた破片がその羽根に突き刺さり、声にならない悲鳴が周囲に響く。

 

途端に重力が働き、真下に落ちる。

ふらふらと蠢く蝙蝠を地面に叩きつけるようにして杖で押さえつけ、着地。

土台にした蝙蝠は悲惨な事になっているが、一瞬だけ早く自分の身体を浮かばせたことで反動は軽微。

 

(やっぱあんまり警戒してない生命体にはそれなりに有用だな)

 

残るはほぼ息をしているだけといった具合の蝙蝠一匹。

蟻人二個小隊八匹にドワーフが三体。

それぞれが小柄な盾や鶴嘴を持って、中央部に降り立った此方を警戒しているが……既に俺の仕事の大半は終わってる。

 

刺剣、或いは短槍のように構えた杖を両手で掲げる。

懐から浮いたミサキが嘶き、蝙蝠へと突き刺さったままの破片がぐりぐりと回転し致命傷を与え。

併せて回避を取れないように四方に散った武具が再び浮き、相手と同数以上に滞空する追尾弾倉と化す。

 

「次」

 

先手、斉射。

 

盾持ちはその盾を以て攻撃を逸らし。

武器持ちは振り回すことで飛んでくる破片を撃ち落とし、そして少しだけ方向を変えて再度下から襲い掛かる。

単純な防護手段を以てすれば殆ど影響を与えることも出来ない余技。

けれど、こうした対複数戦に於いては嘗てよりも有用に戦況を組み立てられる。

 

驟雨。

或いは五月雨。

鉄のような硬さを誇った、けれども軽い雨霰。

 

蟻人は節を潰さなければ殆ど意味がないので牽制に近い。

そういう意味では嘗ての重さの単弾の方が効果はあった。

けれど、今はその破片一つ一つから漂う猛毒こそがその代理となる。

 

この技に名前はない。

ずっと昔から使い続けてきた基本技の発展に過ぎず。

ただ行うことも以前と変わらず、一撃の重さと弾数が変化させただけ。

だからこそ、取る動きも白兵技と組み合わせて動ける。

 

(しかも、今の俺に気を取られればそれだけ周りが動ける)

 

突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀。

昔の人は良く言ったものだと扱っていてそう思う。

内側に仕込んだ刃が重りの代わりとなり、それなりの威力の打撃手段として働いてくれる。

 

相手へ傷を負わせることではなく、陣形を崩すことを優先して弾くように貫く。

杖の頭部分に片手を置き、手首を捻りながら突くことで杖自体を回転させる。

単純に真っ直ぐ受け止める攻撃よりも、僅かに円を描くことで衝撃が妙な形に変化、足を僅かに後退させる。

その足元に更に追撃しての破片の群れ、一番真っ当な形で受け止めさせないことだけを優先する。

 

(三、二――――)

 

視覚ではなく特異性で周囲を把握する。

当然に行っていたことを少しだけ発展させる。

武具と仲間の立ち位置と、併せて有為な方向に向かせることだけを考え脳内で数える(カウント)

 

零、のコンマ一秒前に一歩だけ後ろに下がる。

本来であれば索敵役である蝙蝠が潰れているからこそ戦場の霧の行方を俺達だけが把握している。

だからこそ、すぐ目の前に走った雷光と白黒の螺旋が背後から全てを抉り出すのは当然に把握できていた。

 

「遅いぞ」

「無理言わないで下さいよー!」

『センパイ、なんだか無茶言うようになってませんか?』

 

口々に文句、そして飛び散る体液と『魔石』。

けれど、二人の目にはまだまだ余裕が見える。

 

第一階層で積み重ねてきた修練は、少しずつだが形になり始めていた。

その実感を抱えつつ。

 

それでも足りない、と感じる何かが……不安で仕方がなかった。

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