現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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学校が終わり次第、荷物を掴んで教室を飛び出す。

 

周囲の噂と目線が少しずつ此方に向き始めているのが分かる。

早退、という形で帰宅するやつもいた。

彼奴は……もう少し話の方向性を調整すると言っていたから任せて良い。

 

後輩達を待つこともなく、少しだけ小走りでビルへと向かう。

 

(昨日言ってた通りなら、二人は先行して調べてくれてる筈だ)

 

自主休学……いや、休み、でいいのか?

もう一つ持ち帰った頭部を色々と弄ってみると言っていた二人は、昨日言っていた通りなら今日は学校に出ていない。

多分携帯さえも覗かずに色々と試してるだろうし、早めに踏み込んだほうが良い。

いつも通りのノックの後に合鍵を利用して中に踏み入る。

 

何かがあった時に、とこの間渡されたばかりの信頼の証。

その最初の出番がこれとは思ってなかったが、多分出番が何も無いよりは良い……のかもしれない。

 

駆け上がった階段、叩いたドア。

併せて内側から開いた扉の向こう、恵先輩の実験室の真ん中に敷かれた蟻の頭部。

腕を組んでいるのと机に向かって何かを乱雑にメモする男女。

ある程度想定はしていたが、順調に進んでいるとは到底思えない状態が眼の前に映る。

 

「おう、終わったのか?」

「ええまぁ……色々学校も酷い状態ですよ」

「だろーなぁ」

 

組んだ腕の片手で携帯をひらひらとさせている。

成程、この人はこの人で話は聞いているというわけか。

 

「天音は?」

「小鳥遊に任せてます、正直今の現状でちょっかい掛けるアホは何も情報掴めてない落ち零れでしょうし」

「俺の知り合い経由でも回ってきてるが、雄二のやつがあっちこっち出張ってるらしいな」

「彼奴の伝手の全容までは俺も知りませんからね……」

 

飯の種、或いは何かあったとしても知らないと言い切れるライン。

彼奴はそうして、自分で線引した向こう側から情報を投げてくる事を厭わない。

だからこそこういう時に信用できる情報源として立ち回っているのだろう。

 

ただ、その殆どが薄暗い灰色の世界の住人と言うのは……一友人としては苦言を呈したい。

他に手立てがないのだし、致し方はないと思ってるが。

 

「恵先輩の方は?」

「ううん、真っ当な方法じゃ厳しい……ってのが分かったくらいかなぁ~」

 

気付けば筆を止めて……机をペンでぐりぐりと弄っていた薬師へと話を振る。

何処か悔しさに似た感情が滲み出ている口調に話し方。

何時になく真面目な顔をした先輩の横顔を改めて見詰めながら聞いてみる。

 

「真っ当?」

「零くんはさ、蟻を全滅させるならどうする?」

「……子供っぽい残酷な事を言うなら巣を水没。

 もっとスマートに言うなら蟻に毒餌を与えて殺しますかね?」

「だよね、そうなる……けど、あの巣の大きさに対して前者は難しい、ってのも分かるよね」

 

ええ、と頷く。

 

恐らく水没させ切る前に蟻が外へ逃げ出し、それこそ大混戦が起きるだろう。

他に手段がない……或いは時間がかかり過ぎれば犠牲を覚悟にそうするしか無くなるだろうが。

最初からその手を取るだけの利点が、今は見当たらない。

 

「だから、私も毒餌を考えた――――けど、幾つかの理由で厳しいってのが本音」

「一応お伺いしても?」

「先ず一番分かりやすいとこから言うなら体格差かな。

 普通の蟻と全く同じ体内構造をしてると仮定しても、体積だけで考えたら持ち込める量を超過する」

 

脳内で比較し、目の前の死骸をもう一度眺めて思案する。

恵先輩の机の上には何処で採取してきたのかその辺の蟻が数十匹入った瓶が置かれている。

 

目測で考えるだけでも数百倍近い……うん、まあそうなるよな。

ただ、それは普通に対応した場合の話ではないのか。

 

「それは……毒の効果を高めても?」

「それが第二の問題」

 

はぁ、と小さく溜息を零して立ち上がる。

向かった先は蟻の頭で、軽く叩くように拳の裏で叩けば妙に響く硬質な音がする。

 

「生きてる時に確かめなきゃはっきりしたことは言えないけど、普通の蟻から進化……変異してる。

 蟻人みたいに反った四足歩行じゃなく、人に近い形になろうとする残滓がある存在……ってところかなぁ」

()()()()()()()()()()()()()?」

「神経毒は多分効くけど、殺せるところまではいけない。多分だけど自分の生存能力向上を最優先してる」

 

……まあ、言いたいことは分かる。

蟻という昆虫類である以上、通常のままであれば効く成分なんてものは既に判明している。

『迷宮』の内部で起こった現象故、詳細は全く分からないが生き延びようとする変異するというのはまあ飲み込めることだった。

 

「ついでに補足しとくと、此奴等の皮膚……というか外殻だな、これも普通の蟻のモノじゃねえ」

「音から何となく察してはいましたけど……東雲先輩が断言するレベルですか」

「強化プラスチック……っつーんだっけか?軽くて丈夫な大盾に似た特性がある」

 

俺には関係なかったのが分かっただけマシ、だと。

幾つも上がる面倒臭すぎる生命体の情報の中で、ほぼ唯一と言って良い救いの情報。

 

「どうするんですかね?」

「突っ込むしかねーだろうな。それでも道筋作るだけで相当な被害が出るし、その分の準備はしとくが」

「私も、外殻溶かせる薬とか作れないか試してみる……けど今日は眠たい、です」

 

しゅたっと手を挙げて宣言する。

その気持は良く分かる。

 

「徹夜ですか」

「零くんも似たようなものでしょ~。一緒に寝る?」

「凄い抗い難いですけど今日は無理です」

「ちぇ」

 

今の多分マジの問い掛けだったな。

頷いてたら引き込まれて抱き枕にでもされてた気がする。

 

「ああ、そうだ零」

 

何抜かしてんだこの馬鹿は、という視線が貫いて。

知らん顔する恵先輩へと溜息を一つ漏らした後で、東雲先輩が口にしたこと。

 

「店主が呼んでた。出来るだけ早く顔を見せろとよ」

「は…………?」

「予定が変わったから、って伝言付きだ」

 

――――お前さんの師匠の動きを伏せるためにな。

 

そんな言葉に。

激流の中に既に放り込まれていることを、改めて自覚した。

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