現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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少し顔を出してきます。

先輩方二人に声を掛け、再び研究……或いは対策を考え始めた二人へと背を向けた。

 

師匠。

八月朔日先輩と、店主(マスター)

その二人を同時に指す言葉にも関わらず、主体になるのが先輩というのがどうにも引っ掛かった。

 

(肉体的な意味では間違いなく八月朔日先輩だけど……考え方や根本は向こうのはずなのに)

 

そして、その事を口に出したことはなくとも二人は何となく察してくれている。

故に抱くのは違和感というか、俺の考えのそもそもが間違っているような錯覚。

 

(或いは、二人の名前を表に出さないといけない相手?)

 

疑問符は重なる。

一年時もそれなりに苦労はしたが、主体に為ったのはほぼ『迷宮』を単独踏破する為の訓練と矯正。

その考え方が二年になって無駄に広がったのは決して間違いではないが、その分考えが複雑化する。

 

そう、例えば。

国の命令であっても、探索者という立場の人間が「招集」という言葉に従う理由。

「超越者」という、既に一個人としての戦力を超越してしまった存在さえも一切反論すること無く従う理由。

その大元になる鍵を、未だに手にしていないような不安感。

 

(最初に聞いた時は「そういうもの」としか思ってなかったが――――)

 

本物に出会った後、燻っていた疑問。

本格的に火が付いたのが今と言うだけの話でしか無いはずなのに。

その潮流の中心に、自分がいるような錯覚/幻覚を感じる。

 

その答えを、誰かに聞いても良いのか。

或いは自分で導き出すのか……自ずと知るのか。

何となく、目標としていた十五階が鍵になるような感覚が脳裏に浮かぶ。

 

〚コン?〛

〚コォン、クォン〛

「ああ、大丈夫大丈夫」

 

気付けば遅くなっていた歩みを心配してか、二匹が顔を覗かせる。

つい先日まではいなかったはずなのに、今ではいることが当たり前にも感じるから怖い。

それ程までに依存……或いは、無意識下で受け入れているのだろうか。

結ちゃんに一度話を聞いてみても良いのかもしれない。

 

(何にしても、今の試練を越えなきゃ話にならん)

 

一つ一つを片付けていくだけの話だと自分を鼓舞しながら、目の前の扉をゆっくりと開く。

からんからんと鈴の音が二つ、聞き慣れた客を示す音。

厨房側でいつものように硝子を磨いている店主(マスター)は、此方をちらりとだけ見て小さく息を吐いた。

 

「来ましたか」

「そりゃあんな事言われたら来ますよ」

「本来なら、月見里くんはまだ関わるには早いのですがね」

 

私もそれを選ばなかった口ですし。

珍しく愚痴のように零した言葉は、俺の知らない何かを指しているように感じてならない。

 

「聞いても良いんですか?」

「深く潜ろうとすれば嫌でも理解しますからね」

 

才能、という意味なのか。

或いは『迷宮』の存在理由なのか。

何にしても、潜ることで何かを掴めるという情報を仄めかしている。

 

「二人は休憩室にいますよ」

「表ではなく?」

「気付きませんでしたか、今日は休業()()()()()にしています」

 

席を見ても誰もいない。

と言うか、客席側の電気が付いていないことに疑問を向ければ。

恐らくは親切心からか、或いはそれが当然なのか返る言葉。

 

……開店閉店を示す掛札を見逃したか。

小さく頭を下げれば、特段気にしていないように小さく首を横に振る。

 

「こればかりは知っている先輩が伏せるべきことでしょうからね」

「…………?」

 

何かを理解していて、当たり前のように助力する。

そういえば、俺は店主の過去について簡単にしか知らない。

引退に至る切っ掛けが、もしかしたら伏せられている何かが原因なのか。

聞くか聞かざるか、少しだけ悩んで首を振った。

 

「休憩室ですね?」

 

失礼します、と厨房側に入る。

その際に一言断って水道を借り、手を洗うことは忘れない。

 

実際此処で手伝ったことがある経験から、休憩室は厨房の奥だというのは知っている。

そして裏口からは直接其処に繋がっていない、ある意味では牢獄である意味では安全地帯。

今回で言えば、周囲に悟られないための安全地帯という側面が強いだろうか。

 

一度二度。

扉を叩けば、聞き慣れた……けれど何処か懐かしい声。

最初に出会ったのもこの店、店主経由だった。

 

「失礼します。…………?」

 

最初に鼻に届いたのは熱を通したトマトのような匂い。

次にベーコンと何かの熱気を帯びたスープの匂い。

恐らくはナポリタンとコンソメスープ、手軽に作れて余り洗い物も生まれない組み合わせの賄い。

俺自身も何度か食べたことがある組み合わせ。

少しだけ空腹感が誘発されたような気がする。

 

「おう」

 

そんな部屋の中。

ソファーに腰掛ける男女の姿。

片方は良く知る相手で、もう片方は良く知らない相手。

けれど、知っているかのような錯覚を覚える女性。

 

「……お久しぶりです」

「悪いな、俺が出向くわけには行かなくてよ」

 

そうでしょうね、と息を吐く。

それだけの評価を受ける資格がある先輩だ。

顔を隠す、とまでは言わなくともこの商店街を普段の格好で歩き回れば直ぐに噂が広がるのは間違いない。

 

「それで、予定が変わったと聞きましたが」

「雄二から聞いてんだろ?」

 

選別の間。

そう呼ばれる場所を超えた先で。

本来再会するのは、そこを超えた後だったはずだ。

 

「話せることと、話せないことがあるのは事実だが……先ずは、呼んだ理由から言っとくか」

 

一拍。

言うか言わないかを悩んだ末のような戸惑いの後。

 

「一度、俺達と動く気はねえか?」

 

そんな問い掛けが。

食事後の匂いを漂わせる、室内に響いた。

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