現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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後輩B顔見せのターン。


013

 

結局一時間ほど掛けて、室内の片付けを終え。

恵先輩に頼んだ茶葉の加工は片手間でパパっと対応して貰って直ぐのこと。

ぴんぽん、ぴんぽんぴんぽん。連続した鈴の音。

がちゃり、と扉が開く音が続けて聞こえる。

 

「そう言えば思ったんですけど……」

「んー?」

 

まともな器もないので瓶に淹れたお茶を片手に、三人での対話をし始めたくらいのタイミング。

この一時間足らずでするりと先輩の胸元に入っていた後輩は、やっぱり対人的なところだと()()()要素何もなかったと思うのだが。

やはり運か。おのれ運。

 

「先輩、この建物妙に音が響きません?」

「ああ……普通なら室内と区切るもんな、それは態とやってんだよ」

 

少しだけ汚れたシャツのまま、少しだけ崩した正座(おんなのこすわり)で腰掛ける後輩。

()()()()()()一枚のシートの上に座る俺達は、端から見たら奇妙な光景としか思われないだろう。

まあ、部屋の都合上畳も茣蓙も、或いは机や椅子を置けないのだから致し方ない。

 

「わざと、ですか?」

「二人共熱が入ると全く聞こえなくなるし、そもそも裏側は他人が入ってくることを想定してねえからな」

 

身内だけなら気にしない。

表側のシャッターが開いていたときでも、そちらにやってくる客は大概は顔見知り。

そもそもあの接客性の悪さを飲み込める人間でもなければ、一期一会で片が付く。

そういう意味合いでは、三人もまた店主(マスター)の同種。

あの人の伝手と、幾つか持つ善良な知り合いとのやり取りと納品とで暮らしているだけの創作者集団。

 

「入ってきたら……酷いことになるからね」

 

ふひ、と語尾に付きそうな笑み。

思わず白目を向けながらに問う。

 

「……また改造したんですか?」

生きる粘液(スライム)の酸性を強アルカリ性にしてみた」

「また変なことを……」

 

時間を掛ければ何でも溶かす。

そういった生命体なのか細胞体なのか未だに論争が続く何か、生きる粘液(スライム)

俗に言う属性系を持つ『探索者』でもなければやってられない存在達は、地味ながら一階から現れ始める。

下に潜れば潜るほど酸性が強化される、ということに気付いた最初の人は何を以て実感したんだろう。

 

「アレってそんなに面倒なんですかね?」

「俺は見掛けたらマジで利にならんから逃げるぞ」

 

対処手段が幾つかある奥の手しかねえし。

後は打撃武器だとか格闘主体の奴等も嫌う存在だし。

何より核を潰さないと酸性の液体が()()()()からな、只管にヤバい。

 

「……で、後輩」

「はい?」

「お前さんの今後について、最低限紹介しなきゃいけない子があと一人いる」

 

目立っていない、ということは彼女は自主的か排他されたかは別として一人でいる筈だ。

恐らくは能力を使ってみせる、と言う部分さえも伏しているか――――誤魔化しているか。

『二つ名』があるとは言え、アレは個人情報の一種だから公開するかどうかは任意だし。

 

「ひょっとして、さっき言ってた『天音ちゃん』ですか?」

「そうそう。ちゃんと確認した後になるが、普段はお前さんと二人でつるんでくれると助かる」

 

俺が表面上は友人と組んだりしているように。

授業の中で最低一人は同級生がいないと非常に面倒なことになる。

この辺、クラス移動的なところは仲間との都合もあるのか申請さえすれば異様に簡単になってるのは助かるところ。

 

「本来だったらもう少し色々話を通してからにしようと思ってたんだが……制服のこともあったしな」

「それは……ごめんなさい」

「謝ることじゃねえよ、此方にとっても助かることだしな」

 

で、可能性は低いが恵先輩にも聞いとこう。

 

「何か聞いてます?」

「何にも。……()()()()だろー?」

()()()()()よ、それでも聞いとくべきでしょう?」

 

首を傾げる後輩。

まあ……こればっかりは仕方ない。

 

「東雲先輩が可愛がる、大事にする理由ってのも相応にあるって話さ」

 

かん、かん、かん。

俺達が上がって来た時と同じように、階段を昇る音が響いて聞こえる。

音は一つ……東雲先輩は多分矯正されてそのままにされてんな。

 

「理由……」

「取り敢えずは黙って見てろ、そうすりゃ多分お前さんなら気付くはずだし」

 

少なくとも事前に説明はしておきたくない。

それだけデリケートな問題を孕む部分も大きいから。

 

扉が此方に開き、開いた暗闇の向こう側。

 

眠たげな(まなこ)をそのままに、長い黒髪を腰元まで。

いつも通り簡易な着物を身に纏った、何処か浮世離れした少女。

等身大の和服人形のような雰囲気を背景にする少女が、闇を裂いて顔を見せた。

 

「おかえり、天音ちゃん」

「おかえりー」

 

少しだけ目を開く。

見知らぬ相手がいたからか、或いは想定外の俺がいたからか。

そんな僅かな変異ではあるが、普段の彼女からすればとても珍しい差異。

そしていつも通り口を開こうとし、けれど押し黙り。

ぺこり、と一度頭を下げた。

 

「…………?」

 

何故答えないんだろう、とは思ったはずだ。

ただ、それを口にすれば天音ちゃん側が負担を負ってしまう。

だから、事前に閉ざしていたと言うだけの話。

 

「天音ちゃん、紹介するね――――」

 

だから、後輩から話しかける切っ掛けを今から作る。

 

彼女。

東雲天音(しののめあまね)が背負ったものは、古くから伝わる『家』と言う名の重しが一つ。

そして、もう一つは――――心の傷。

心因性失声症、という重すぎるハンデだった。

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