現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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『Chapter3-3』

 

 

八月朔日先輩達と別れて数日。

たったの幾日かの経過で、周囲の状況は大きく塗り替わり始めていた。

 

例えば、学校の同級生以上の不自然な自主休学。

普段であれば学校に通うよりも『迷宮』に潜る方を好む例外と違う大半の人種。

「普通」の学生らしさを望んでいる生徒たちが露骨に通うのを取り止め、空席が異常に目立つ状態になった。

 

例えば、受付横の公式商店の品物がほぼ全て捌けたこと。

回復薬や毒消しなどの創作者が作成した製品を除けばほぼ常に品物が残っているはずの場所。

にも関わらず、文字通りの意味で開店休業中のように開いてはいるけれど何の商品も見当たらない場所に店員のバイトがぽつんと立っている奇妙な光景。

 

例えば、商店街を含めて見知らぬ男女が妙に増えた。

漂わせる雰囲気からして探索者であるのは明白だが、表の存在と言うよりかは裏の印象が強い。

笑って人を利益のために殺せるのだろうと察せてしまう人種が普段使う裏手の道端などに増えて、通れる道も減ってしまった。

 

先輩から届いているのは五日後に動く、という内容だけ。

明らかに治安が悪化しているこの街に後輩達を解き放つ勇気はなく、再び部屋の中に閉じ籠もる事が増えてしまった。

 

(……招集を掛けるにしろ、こんなに酷いことになるもんか?)

 

俺の認識では死地へ無理矢理に送り込まれる、という罰ゲームにしか思えない。

学徒動員なんて言葉が近い部分を秘めているだろう行為なのに、集まるだけの理由があるということなのだろうけれど。

その全てが即座に利益に反映出来るか、と言われれば首を捻る。

 

(青田買いとか、そっちの意図があるのかもしれんけどなぁ)

 

実際、一度だけ受付に後輩達と出向いた時に数人に声を掛けられたと聞いている。

俺には一切声が掛けられないのは見る目があると思うべきなのか、後輩達が異常なのだと呆れるべきなのか。

何にしろ、目に付く才能持ちを身内に引き込もうとする手が増えているのは確実だった。

 

がさり、と揺らすビニール袋を片手に溜息を吐く。

なんだか少し前にも似たような事をしていたような気がする。

足踏み……とは決して言えないが、それでも尚俺は知るべき大事な部分を知らずに此処まで進んできている気がする。

 

本来であれば先輩、先達から聞いて知るべきことなのかもしれない。

そうした伝手がなければ多分何処かで知る切っ掛けを経て、その上で先に進むことを選ぶのかもしれない。

その選択さえも出来ないまま……届かないまま、また次の戦場に巻き込まれようとしている。

 

「……ただいま」

 

ぐるぐると悩み続けるまま、自宅の扉を開いて帰宅の意思を伝えた。

答えがない問い程面倒なものだと改めて認識しながら、足りていなかった物品が詰まった多量の袋ががさりと揺れる。

 

「あ、おかえりです!」

 

キッチンに立って水を飲んでいたらしい小鳥遊の鋭い視線が一度此方へ向き。

家主である俺の姿を認めて、少しだけ和らぎつつ声も平常時へと戻る。

今はこれくらい警戒するくらいでいい。

そう決めて、そう命じたのも俺だった。

 

「特に何もなかったか?」

「あー、如月先輩から連絡がありましたー」

「彼奴から?」

 

なんだか緊急措置という形で此奴を引き込むのが定番になりつつある。

このままだとマジで同棲に近い状態になるし、早めに部屋を借りてそっちに追い出したい部分が半分。

そうやって追い出した後が怖い、と半ば親のような目線になってしまう自分が半分。

じわじわと侵食されている気がしてとてもこわい。

 

「先輩が言ってた通り、あんまり評判が良くない集団(クラン)が幾つか流れ込んでるらしいです」

「態々ぁ?」

「どうにもそれだけの利益が見込める、っていうか……知らない如月先輩を馬鹿にする感じで嗤ってたって言ってました」

 

現状、外に出る時は彼奴と先輩方に連絡してから出ることになっている。

何でもそうしないと安全を確保できないとか何とか言ってたが、今の裏側はどうなってるんだ。

出入りの数が多すぎて総数が把握できない。

 

「嗤う、なぁ……」

 

割と現時点で推察できることはある。

あるけれど、その一番の根幹部分の情報が不足している以上は何も言えない。

多分彼奴もそれが分かっているからこそ聞いたまま投げてきたんだろうし、ある種の常識に近い部分もあるんだろう。

或いは――――そうだなぁ。

 

「招集が掛かる案件は儲かる、って言ってるようなもんだよな」

「それだけ……なんですかね?」

「いやまあ、排除の為に集められた人員が大半ってのは間違いねーとは思うけどな」

 

集めるための代金を国が全て負担出来るわけがない。

なら普通に考え得るのは、潜ることで得る利益が身の危険と引き換えにできる程度には大きいということになる。

数日間創作者組が調べた結果、あの蟻の表面装甲はあれこれに流用出来る便利素材という情報だけは聞いてるし。

 

「証拠として提出した頭あったろ。アレでも調べた結果なんじゃねえかな」

「そうですかねえ……?」

 

まあその反面、生命体として活動している時に潰すのは苦労するだろうってのは今までの経験から分かること。

あのまま変異とかしてないなら良いんだが、そんな都合のいい事態は『迷宮』絡みなら先ず期待できない。

悪い方に悪い方に考えて多分丁度いい。少なくとも、俺達が潜る場所はそういう場所だ。

 

「ならお前はどう思うんだ?」

「んー…………あんまこういう事言いたくないんですけど」

 

利益だけをちらつかせて人を集めている。

そんなようなことを口にして、ああ、と。

多分、一番適しているだろう言葉を選んで口にする。

 

「囮か生贄とか、その辺りの扱いをするために呼んだとか無いです?」

「……ありそうで嫌だなぁ」

 

金だけを求めて潜ると破滅する。

身に沁みて分かってることだからこそ、その言葉への感情は妙に重苦しい色に染まっていた。

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