現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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唯の訓練回。


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「んじゃあやるかぁ」

「やりますー?」

「ああ、頼む」

 

家に後輩を引き込んではいても、何もしていないわけじゃない。

もう隠し札を知っている相手だからこそ、確認して貰えることがある。

 

夕食を終え、着替えた上で移動するのは鏡部屋。

常であれば自分の武器を振るう姿を鏡に映して、その型を確認するための部屋。

客観視しなければ妙な癖が付く、とは戦場で腕前を磨き続けた先輩の談。

決して参考に出来ない鍛え方ではあったが、口にする内容には全面の信頼を置いている。

 

考えの根本にあるのも結局二人から伝え聞いた事を咀嚼して、自分なりに取り込んだ結果。

そしてまた一つ学べる相手が増えた、というのが今の現状だからこそ。

変に凝り固まっている今の自分の殻を砕くにはちょうどいい機会。

 

空間から取り出した仕込み杖。

通常の杖術として扱う武器とはまた少しだけ違う刃を秘めた武器。

 

「それじゃあ何から行きましょうかぁ」

「前の続きからでいいだろ」

 

内側に鉄棒を仕込んだ、戦場で振るう一般的な杖よりも扱い難く折れやすい欠点と相手の虚を突ける唯一点の利点を持った俺の愛刀。

それを使って何をするかと言えば、剣術を学んできた後輩を三人目の師としての剣術の派生技の学習。

より正しく整理するなら、その技の構築から俺が扱える部分だけを取り入れるという作業。

 

「こないだは~組手術でしたっけ?その次まで行ったんでしたっけ?」

「後はお前んとこの根幹についてだな……取り入れたいっちゃ取り入れたいんだが」

 

主体になるのが刃か杖か、という大きな差がある以上その全てを組み込むのは無理。

なので取り入れることにしたのは、普通に学んできた体系にあったという()()使()()()殴打術。

普通であれば槍や薙刀と言った長物を振るうのが嘗ての戦場だったとは言うが。

首を刈る際に相手を組み伏せて叩き潰す、意表を突く技として脈々と受け継がれてきた方策の一つ。

 

立ったままではなく、互いに絡み付いた状態で振るう技。

俺の特異性がある以上、近付かれないに越したことはないのは確かなのだが――――それでも、学んでおいて損はない。

ただ単純に振り下ろすよりも、明確にどういった場所を持って力を込めるのが理想なのかが分かっていれば余計な時間を要さずに済む。

それこそが、武術を学ぶ利点の一つなのだと俺は思ってる。

なので、最初に教わったのがその技で……次に学んでいるのが棒振りの仕方。

 

「って言ってもなぁ……先輩、今から私のとこの足取り下手に取り入れると弱くなっちゃいますよねぇ」

「お前の技の大元からしてなんかおかしいからなぁ……」

 

ただ、小鳥遊の流派の根幹は俺が噛み砕いた限りで二本の矛盾した柱を持っている。

 

一撃の威力を優先し、刃の速度を最重視した剛剣とも言える刃。

人を殺す最低限度の挙動を優先し、自身の立ち位置を常に変えていく柔剣に近い足取り。

 

その何方も基本になるのは「脚」の踏み込みだと思っているから、どっちをどの程度学ぶのかは自分で見出していく事を求められるのは間違いない。

前にポロッと零していた、『初代の夢』とやらを叶える為に前者を追い掛けつつも生き延びる為に後者を伸ばしたのだろう。

ざっくり見る限り、小鳥遊の強さは足取りを優先しつつも威力面を特異性で補強しているから成り立っている……と思う。

 

それに対し、俺はどっちを重視すれば良いのかがはっきりしていない。

杖の扱いを最優先にするのなら剛剣になるだろうし、特異性を伸ばすなら柔剣。

はっきり言って今がどっち付かずだからこそ、いいとこ取りが出来ている……とも取れるらしい。

なので今此奴は悩んでるという話。

 

「やっぱ足取りに関しては口出さないほうが良いですかね~?」

「まあ無理なもんは無理でいい。なんか助言できると思ったらしてくれ」

 

強く足を踏み込んでの一撃。

常に脚を動かしての連撃。

 

その何方も無意識に振るっているからこそ、大成するには自分で気付くしか無いと後輩は言う。

まあ念の為助言できるならしてくれ、と言いつつ杖を大上段に持ち上げる。

 

普段は槍や棍のように先を相手に向ける形で持つことが多いが、組手術の場合はもっと扱いは単純。

上から下に振り下ろす、正直に言えば後の行動に制限が掛かるから余り好きじゃない攻撃手段。

単純に打撃を加えるだけなら石でも上から下に叩きつければ済むわけで、距離を取る行為が最近は癖になっていた。

のでその矯正を兼ねている……のだが、やっぱ違和感があるのは否めない。

 

「あー……先輩、やっぱ利き手側に力込めがちですねぇ」

「見て分かんの?」

「姿勢がどうしても狂いますからねー、まあこの辺は皆そうなるんですけども」

 

もうちょっとこうしてみて下さい、と。

手を取られ、腰に触れられて少しだけ姿勢を矯正される。

 

歩幅を少し縮め、握る両手の距離を少し開けただけの差。

そんな少しだけの変化でも、ちょっとだけ動きやすくなった気がするのはやっぱり才能の差だろうか。

 

「うん、どうです?」

「あー、ちょっと楽になった、かも?」

「戦闘中に常にこうしろ、とは言えませんけど訓練中くらいは気をつけてくださいねー」

 

身体の芯が歪む、と戦士の少女は口にする。

矯正できるうちにするべきだ、とも併せて告げられ小さく頷く。

 

「じゃ、まずはゆっくり五十回から行きましょうか!」

 

ただ、まぁ。

その教え方は大分キツく、下手な弟子は裸足で逃げ出しそうだなとも思う。

 

「やっぱお前は教師には向いてねーな……」

「あれ、今なんで私罵倒されたんです?」

 

才能持ってる、粘り強くやれる相手以外には教えるには不向き過ぎる。

何処まで行っても本質は自ら戦う戦士なんだな、と改めて思いながら。

ゆっくり降ろした杖を、再びゆっくりと持ち上げて姿勢を戻した。

 

また、滝のように汗を吹き出すのだろうと。

近い未来のことを思いながら。

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