現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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翌日、早朝。

未だ黎明とも呼べる時間帯、雄二(アホ)との電話越しの雑談直後に携帯端末から響いた二つの音。

 

一つはややけたたましく、もう一つはやや静かに。

普段聞き慣れない音が同時に鳴れば、流石に表情にも出てしまう。

 

〚クゥン?〛

「起きちまったか?飯早いけど食うか?」

〚コン〛

 

何故か服の内側に潜むことを好む二匹が顔を見せる。

先程までは身動きを取らず、小さな呼吸音だけがしていたから寝ていたのは確実。

普段よりも早い時間帯に一人動き出していたのも……まあ、それなりの理由あってこそ。

異性にバレると面倒臭いので口に出すつもりは毛頭ないが。

 

若干うつらうつらとしながらも頷いた二匹を引きずり出して、テーブルの下に置く。

だらんと地面に垂れるミサキとクダを他所に缶詰を二つ開けて目の前に。

後は気付けば勝手に食うからこれでいいとして、届いた連絡に目を通す。

 

一通目はまあ予想していた通り。

今週末を以て『迷宮』十一階以降への一時探索の禁止と、二学年全体への強制招集。

目標は十三階に起きた異変の解決と、併せて出現するだろう変異体の討滅。

支払われるのは今学期のテストの一律免除とまあ一日潜れば儲かるだろう平均額。

 

それは良いとして、問題になるのは()()()()()()()()()()()()()()()

事実上の足切りの宣告、多分阿鼻叫喚の地獄が起こってるぞこれ。

今から詰めようとしてた奴等は準備を他所に潜ろうとするだろうし、何処かの集団に紛れようとするだろうし。

俺は縁をぶった切ってるようなもんだから良いが、今頃雄二の携帯は鳴り止まない連絡で一杯になってることだろう。

 

そして二通目へと目を通し、その件名に少しだけ違和感を覚え。

 

「おはよふございまふ……」

「おう、取り敢えず前のボタン止めろ痴女」

「朝からなんてこといふんですかこの人」

 

ふああ、と欠伸をしながら部屋から出てきた後輩に声を返す。

寝ていた時に外れていたのか、多分気付かずに出てきたんだろうシャツの一番上と下から二つが外れている。

そんな格好で出てくるもんだから当然の返事に文句、そして自分の格好を見下していそいそと止め始める。

最初からそうしてくれ、と思いつつゆっくり飯を食い始めた狐を他所にもう一度携帯の文面を見る。

 

上から下へ、繰り返すのを二回。

書いてある内容を脳内で変換して解読、言いたいことを翻訳して小さく溜息。

やっぱり公式発表される内容は必要最低限でしか無いか。

そうした伝手やら向こうからお伺いを立ててくるようになるのを求めてる――――ってのは穿ち過ぎだろうか。

 

「あ!そうそう、朝の連絡なんだったんです?」

「あー、やっぱあの音で起きたか?」

「ですです」

 

横から覗き込んでこようとする小鳥遊に画面を向けつつ、簡単に説明だけしてやる。

自分のを見ればいいだろ、と思うが何故か此奴は俺のものを横から見るのが癖になりつつある。

追い払ってもいいんだが、次にもまた同じ事してくるから何の意味もないんだよな……。

 

「予定通り強制招集が掛かった。月曜から学校は半ば休校だな」

「えー……どれだけ大事なんですかー……」

「知らんよ。八月朔日先輩なら知ってそーだが」

 

テストに関しては言ってやらない。

多分事実を知れば両手を上げてガッツポーズ、勉強とか投げ出す気がするし。

 

「で、此方が俺等にとっては大事な部分」

「もう一通ですか?」

「言ったろ、先輩に誘われたって。その準備を兼ねた通達だよ」

 

絶対に外で言えないこと。

それだけの重要性を秘めていて、且つこの短期間でどう調べたのかを教えて欲しい量。

疑問点が無いわけではないが、一旦それは横に避けつつ説明しておく。

 

「今異常が起きてるのは十三階だけ、それ以下には何の影響も出てないらしい」

「え、それ大事ですか?」

「大事も大事……らしいが、こればっかは伝聞なんだよな」

 

先輩曰く、「その階だけで物事が収まってるならまだ何とかなる」らしい。

そんな言葉が内容に添えられていたから、俺の考えは簡単に読み取られていたと思うべきか。

まあ散々あの人には俺の考え方ぶつけたし、分かって貰えてると思っておこう。

 

「で、実際に動くのは月曜……の明朝よりも前、夜明け前に喫茶店集合だとさ」

「今くらいの時間ですかねえ……?」

「だと思っておけばいいと思うぞ」

 

一通目の連絡を見る限り、此方の時間帯は通常の学校開始頃に集まる事を要求してる。

ただこの二通目がある以上は此方を優先して良い、筈。

変に時間帯確認なんかすれば疑われるから口に出すことも出来ない、背反状態だがこれくらいは気を使ってくれてるはず。

 

「あと一つ、俺等と先輩方に加えて追加で一人合流するとよ」

「……他の有名な方々は?」

「特段書いてねえな、各々動くんじゃねえかな」

 

超越者だけが先に潜る権限を得ている、と読み取った場合。

それだけ美味しいと読み取るよりも、下手な探索者が一緒にいるのが不味いのだと考えるほうが筋が通る。

時間帯を前後させているのもその手の保険のため――――なのだとして。

幾つか自分に都合がいいように解答を導き出しながら、純粋な疑問が一つだけ残る。

 

()()()()()()()()()()()()()()、ってどういうことだ?)

 

言われればそうするだけではあるが。

此処にまとめているのは公開されている情報や自分なりの推測、後は異物やら伝承やらのネット上のデータを保存しているだけ。

携帯で確認できる形に変換しているから確認自体は容易としても、先輩方の知識のほうが重要度は上だと思うんだが。

 

「……分からん」

 

ぼそり、と漏らした言葉。

欠伸をしながら屈み込み、尻尾を振りながら朝飯を食べてる二匹の獣の頭を撫でる後輩。

 

残りの日時が判明し、猶予が定められても。

今の時間だけは、妙にのんびり過ぎているような気がした。




最早扱いがペット。
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