現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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『迷宮』前①。


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一日、二日。

迂闊に動くことも出来ず、ただただ時間が浪費されていく。

 

普段であれば潜っている『迷宮』に関しても体調を完璧にするためには潜ることも出来ず。

ただ軽い訓練に近い形で腕を錆びさせないようにするだけの日々。

そうであればどれだけ良かったか。

 

(まぁ……仕方ないとは思うが……)

 

そんな戯言を他所に、世界(しゅうい)は加速度的に回っている。

 

『迷宮』に潜り、戻ってこなくなった同級生は両手の指の数を越えて余り始めた。

裏道で屯していた、どう見ても柄の悪い集団の一つや二つが消えて無くなった。

今更警察沙汰にさえならないが、近隣のマンション――()()()()女子が住まう場所――と結び付いた先が入れ替わった。

 

どれが真実でどれが嘘かは分からない。

ただ伝え聞こえる情報は一定の真実を帯びているのだけは確実だ。

 

だって、まあ。

 

「どう見ても雑魚の俺に一蹴されんのはどうかと思うぞ……?」

『相変わらずセンパイの自意識どうなってるんです?』

 

裏道の片隅で積まれた気絶した探索者達。

 

全く以て見覚えのない、ついでに言えば周囲に余り良い印象を抱かれない格好をした男子集団。

昔で言えばチンピラ、とかそういった言葉が似合うらしい輩が意識を失って倒れている。

と言うか、倒した。

邪魔だから道の端っこへと蹴飛ばして移動させながらぼやく。

 

「いや、だって武具一切使ってねえんだぞ?」

 

余技と言うか、後天的に身に着けた技だけで薙ぎ払えた事に割と疑問感が強い。

 

こうなった理由は単純。

家にずっと籠もっていても何も変わらないし、事前準備が出来るわけでもない。

ついでに言えば携帯食の残量が目減りするだけで何の得もない。

だから、後輩に留守番を任せてビルに出向いて現状の確認。

 

それに合わせて色々と用件があるという天音ちゃんの護衛を引き受けて十数分後。

表の道から裏道へと折れた辺りで彼女に声を掛け……ようとする前方の少しだけ年上の青年。

恐らくは協力してだろう、何処からか追跡されていたのか。

後方から頭を狙って殴り掛かってくるやべーやつが二人程。

 

だから、護身用に袖に仕込んでいた杖を差し出して顎を強打。

そのまま横に振ってもう一人も脳を揺らして二人撃破。

背後では天音ちゃんが伸ばした黒ずんだ糸が青年の脚に絡み付き、体内をちょっとだけ弄ってやって意識喪失。

 

この間、多分一分も経過していない。

ころころと転がっていく打撃武器は何処か黒ずんでいる気がする、多分武具。

何故かは知らんけど相手は大体俺を侮ってくれるから奇襲がしやすくて助かる。

 

『とは言っても、センパイ武器は使ってるじゃないですか』

 

蹴飛ばされた身体を跨いで通る彼女は、特段気にしない。

ある意味で慣れている、とも言う。

 

彼女が武具を使ってるのは咎めない。

一見して認識しにくいという隠密性を含めての武具なんだし、身を守るために使っただけだし。

顔が普段の笑顔を通り越して極寒になってるのは深く追求しない。怖いし。

 

「唯の仕込み武器だっての、大したもんじゃないのは天音ちゃんも分かってるでしょ」

 

子鬼相手にさえ使えない、ずっと昔に東雲先輩に加工して貰った親指から伸ばした人差し指程の長さの棒。

材質だけは少しだけ丈夫な木を使っているが、内側に何も仕込んでいない唯の棒。

ただ、軽いからこそ腕を強く引けば手元に現れるようには練習してある。

何かがあった時にと作って貰ったが、これで出番は何度目だったか。

僅かに射程が伸びる程度ではあるが、案外気に入っているから折れたら多分泣く。

 

〚コン!〛

「そーだな、お前の先輩みたいなもんだな」

 

反対側に潜んでるクダ。

もう反対側に仕込んだ棒。

気付けば俺の服の内側こんなのばっかだな。

 

『……それはそうですけど』

「にしてもなぁ、最近は全く見かけなかったのに」

 

これをぶん回していたのは一年になる前。

つまりは学生として色々学ばされていた四年間の間、見下されていた頃が主だった。

色々制限が多い中、素手と杖術を叩き込まれた過去を思い出すと遠い目が浮かぶ。

こうした……どっちかと言うと暗器術は、店主に見て貰いつつ自分なりに落とし込んだ結果だから誰にでも出来る「技」にはなってない。

だからこそ有効って側面もあるので、考えるだけ無駄なんだろうけれど。

 

『そうですねぇ、義兄さんに殴られる人も大分見なくなってきましたし』

「昔は酷かったよなー……」

 

ずっと昔のことを知っている、共有している。

思えば、この辺の治安がある程度落ち着いたのも此処数年。

より具体的に言えば八月朔日先輩が入学して暴れ回り始めてからな気がする。

あの頃はぽんぽんと人が空を飛ぶ、なんて冗談が真顔で広まっていた時代だった。

ついでに言えば冗談ではなく真実なのが恐ろしいところなんだが。

 

『でも、センパイは何にも変わりませんよね』

「変わってほしいの?」

『いいえ』

 

もう少し先に向かう先がある。

九十九先輩が生まれ育ち、結ちゃんがつい最近まで肩身を狭くして暮らしていた孤児院。

俺が生まれ育った孤児院は……いつだったか、不審火で燃えたとかなんだとかでもう残ってはいないはず。

思い出そうとしなければ思考に浮かぶことさえない、そんな場所。

 

『私を助けてくれた頃から、ずっと変わらないでいてくれて嬉しいです』

「ならそれでいいでしょ」

 

消えるものはある。

変わるものもある。

ただ、決して変えられないものも残っている。

例えば、彼女の復讐心だとか。

 

『だから――――』

 

一歩だけ先に出て。

くるりと回って此方を向く。

手首から伸びた糸が、俺の手首を縛り付けたまま。

 

『これからも一緒に()()()()、してくださいね?』

 

一つだけ、今日聞いていたことがある。

 

彼女の遠縁の家が一つ、奇病で一家丸ごと死んだらしい。

原因不明の謎の病気。

呪いとか恨みとか、色々噂されているとかなんだとか。

 

「……善処する」

 

まあ。

どうやったかは知らないが、本腰を入れ始めたのだろう。

 

ついさっき弾き飛ばした輩のことも忘れることにして、ただその満面の笑みに浸っておくことにした。

深く考えれば、深淵に引き込まれる気がしたから。

 

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