現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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翌朝、払暁の時。

時間帯で言えば朝の三時から四時に差し掛かる頃。

ある程度大枠で時間を揃えていたから集まる人数がまばらで、けれどそれが良かったのだろう。

特段誰にも目を付けられること無く、集合場所には全員の姿があった。

 

「出揃った、か?」

「揃いましたね」

 

九十九先輩まで含めた普段の探索仲間。

向こうは男子一人に女子()()

元々増えるとは聞いていたが、その相手が妙な外見をしていれば首を傾げたくもなる。

 

「そちらが聞いていたもう一人、ですか?」

「ああ、腕は保証する」

 

見た目からして親類縁者なのだろう。

”獣の女王”の外見に良く似た、けれど顔を縦に半分だけ隠すような外見の女性。

吊り目に対して垂れ目、とでも表現すれば良いのか。

見た目の差異の一番大きいところを別とすれば、多分それが一番正しい表現なんだろう。

片顔を覆う髪から僅かにはみ出して見えるのは眼帯かガーゼか、白い髪に白い布が少しだけ見える。

顔色もやや悪いのか肌白く、周囲の背景から浮いているような錯覚を覚えてしまう。

 

千里(ちさと)、とお呼び下さい」

 

問い質した俺に頭を下げながらも、もう片方の瞳で見られている気がする。

服の内側の二匹もまた――主にクダの方が――目線を向けているような気がするのは、何かに気取られているからなのか。

向こうもまた、妙に俺に視線を向けてきている。

ぼそぼそと話す感じの雰囲気は、嘗ての天音ちゃんの雰囲気に酷似しているような気もする。

 

「顔合わせはこんなもんでいーだろ、周囲が安全なのは保証出来るし潜る前に確認して行くぞ」

「お願いします」

 

目線だけを天音ちゃんに向けた。

一度だけ此方へ向き、口元だけを和らげて東雲先輩の傍に佇んでいる。

あの表情は……怒りじゃなく、納得や同類を見るような色。

なら先ず関係性は無いと思って良いのか、良かった。

 

「これから突っ込むのは十三階、普通に考えるならこの面子なら余裕だが全く油断はできねえ」

「そりゃまあそうですけど」

「その原因……発生要因に関しては今は黙っとく。

 何にしろ蟻が異常に湧き出て、探索者を食い殺してるってことだけ理解出来りゃ良い」

 

今度は八月朔日先輩の目が俺に向いた。

そういうことだから今は黙っておけ、という意味だと読んで小さく頷く。

完全に黙ったまま良いように扱うつもりなら別だが、一応言う気はあるということで信頼を担保にしておく。

俺達の関係は、そんなもんで丁度いい。

 

「んで……俺等は二番手、ってことになってる」

「二番手?」

「夜刀のやつが逆走で入るって言うんでな、そっちを任せる代わりに順番を譲ったんだ」

 

逆……つまり十四階から入る形になった、先行者がいる。

と言うか、普通に考えるだけなら「最初」と言うのは利点も欠点も何方も強い。

特に今回の場合は解決すること自体が前提な訳だから、自分の身を守れるかどうかで順序決めは大事な気がするのだが。

俺等がそんな初手を貰って良いもんなんだろうか。

もっと先行するべき相手がいる気がする。

 

「あの、先輩」

「ああ、譲ったって言ってもちゃんと理由はある」

 

それを問おうとすれば、もう一つの疑問を回答する言葉は放たれる。

特に俺以外の誰もが質問しようともしない姿は不気味とさえ思えてくる。

 

「彼奴は周囲に他の探索者がいるほうが全力出せないから、ってな。

 ついでに言えば、俺等が二番手を選べてる理由もちゃんとあるぞ」

「と、言うと」

「参戦を希望した超越者(おれたち)の中に、其処出身がいればそいつが出撃順序を選ぶ権利を得る。

 ……まー、そういう()()()ができてるってことよ」

 

……この言い方。

つまり半ば日常的に似たようなことが起こっている、と思って良いのか。

緊急招集、という名前で伏せられたのは表に出ている一部に過ぎない、と。

 

多分考えてることを読み取られてるんだろう、と思いながらも思考を回す。

これを考えさせること、その事自体に何らかの意図があるような気がして。

 

「まあ、出る時に連れて行く相手は知り合いしかいねーのが普通なんだが」

「……要するに、俺達が出張ること自体が例外みたいなもの、と?」

「まあ半分は、な」

 

正しい事を言っているけれど、嘘と言うか意図して口にしていないことを含んでいる。

先輩を見る女王の瞳は冷徹で、何を抜かしているのか、とでも言いたそうな目力がある。

……もう一人の、千里、と言ったか。

この人は相変わらず俺から目を離さないんだが。

 

「おい、海」

「あー?」

 

そんな折に、女王が口を開いた。

見た目と違わず、何処か冷たさを交えるような色合いの声だった。

 

「招集の簡単な定義位は伝えて良いだろう。卒業資格持ちならば知らされることなのだから」

「珍し。お前が規則破るのか」

「あんなもの()が勝手に制限している自治に過ぎん。分かっていないならば矯正するぞ」

「へーへー」

 

其処から発された言霊は、何故か俺等を慮るもの。

言われた八月朔日先輩が目をぱちぱちと見開いていることから、その物珍しさが伝わる。

……何故か、気を使われているような感覚。背筋の辺りがむずむずする。

 

「まあ、お姫様がこんな事言ってるから言っちまうが――――外に漏らすなよ。

 聞けば何で見知らぬ連中が寄ってきてるのかも自然と分かることだし」

「……言われなくとも」

 

聞いておけば、少しだけは覚悟できる。

そうした本心を込めた返答に、言いたくなさそうな顔をしながら一言。

 

「まあ……なんだ。

 二十五階よりも上で起きた《特異化》に対する出動令が緊急招集、ってやつよ」

 

つまり。

少しの間を空け、全員が理解するまでの時間を取った上で。

 

「二十六階以降になれば必然的に見ることになる前例。

 本来なら十五階で一度経験する、その覚悟と力を試す場所を飛ばして今こうして呼んでる」

 

相応に覚悟がいる場所だと。

つい先日味わった、集落での戦闘を思い出すような気がして。

 

()()()()は――――最悪、援軍(そこの)が保証するしな」

 

向けられたのは、千里という人物への投げ掛け。

当たり前のように頷き、そうしてもう一度俺へと目が向けられた。

 

「……なーんも変わってないですね、鬼畜っぷりは」

 

そうして、全方位から向けられた目に。

当たり前に崖へと突き落としてくる選択を選んだ、師匠(おに)に対して。

小さく息を漏らして、内心を示す証とした。

 

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