現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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普段通りに何処か沈んだ雰囲気を醸し出している『迷宮』。

にも関わらず、降り立った十三階の目前には奇妙な物が作り出されていた。

 

「……なんです、これ?」

『壁……?』

 

『扉』を越えた先、次の部屋へと進む道前。

ついこの間九十九先輩に足止めをしてもらった場所には人工物が大きくそそり立ち、俺達の通過を阻んでいる。

 

壁、としか表現できないもの。

或いは封鎖するための置物、と呼んでも良いかもしれない。

中央に引き戸のような扉が視えている以外は一面真っ黒に塗り潰されたナニカ。

見た目からは何となく金属製だとは分かるが、それ以上は俺の特異性では持ち上げられない事以外何も分からない。

 

「……招集が掛かる程度ではこのようなものが有用なのか?」

「どーだろうな、下なら……まあ一秒か二秒は稼げるんじゃねえ?」

「かもな、一瞬は足止めできそうではある」

 

そして、同じように見上げている先輩方も同じようなことを言っている。

ただ、その目線は遙か先を見るもの。

有用かどうか、で数秒にしかならない――――と言うのは最早魔境なのではなかろうか。

深く追求するとげんなりしそうだがある程度で踏み止まっておくけれど。

 

「九十九先輩も見たこと無いんです?」

「……無い、かな」

「つーかこんなので足止め出来るのか……?」

 

うぇ、とでも言いたそうに目を細めている。

そして雄二が口にしたのは、あの生命体共の異様な暴れっぷりに対する感情。

多分全員が同じようなことを思っていた内容で、自然と視線は誘った三人へと向けられる。

 

「あー、多分効果はある。そういう金属で出来てるのは確かだ」

「でもさっき先輩方不安になるようなこと言ってませんでした?」

「俺等が普段潜るような場所での話だ。あんま深く考えんな」

 

……ううん。

まあここから更に倍以上は下ならそれなりに納得できなくもないが。

口で言う「倍」という表現以上に格差があることを再認識させられ、少しだけ気持ちが重くなる。

 

「まあ話を戻すが……この金属は、なんつーか……アレよ。一定以下を遮る蓋みたいなもん」

「蓋」

「そう、蓋。成分的に、と言うよりは概念的に通れないって意味合いを混ぜ合わせた蓋だな。

 勿論、加工した相手の腕や特異性も反映されっから一概にどの程度ってのは言い切れねーけど」

 

そう言われてもう一度視線と意識を向ける。

特に弾かれる感じはなく、単純に重すぎて持ち上げられない感覚。

まあ彼処から通れ、ってことだけは言われずとも分かるが。

 

「だから」

 

指を向けたのは、やはり扉。

より正確に言うなら、多分ドアノブ其の物だと思う。

 

()()()あのドアノブを捻って中に踏み込め。それだけで分かる」

「一人一人……ってことですか?」

「ああ。多分自分で自覚するよ。少なくとも俺の友人の半分は駄目だった」

 

あっけらかんと口にされる言語に一歩引く。

ただ……何となくの基準であることは言われずとも分かる。

多分これは、鍛えようと思っても鍛えられるようなものではない何かを探る為の仕掛けなんだろう。

 

「……扉を開けるだけでいいんですか?」

「体調が悪くなるようなら言えよ。

 こればっかはマジで生まれ持ってのもんだから、慣れ不慣れって問題じゃないからな」

 

そして、それは扉で防がれている奥にあるということ。

半ば封印に近いんじゃないかとも思うが、そうしなければいけないというのならそれに従うだけだ。

 

他の全員が足踏みをする中、先へ進む。

じっと見つめる目線が三つ、唯その色合いは否定というよりも期待の色が強いように感じる。

ドアノブに手を掛け、捻る。

 

僅かな抵抗、そして少しだけ開いた空間から空気が一気に流れ込み。

重圧とも、圧力とも取れる重みが全身に降り掛かった。

 

「ぉ……お!?」

 

強風に対して真正面から受け止めているような感覚。

少しでもたじろいでしまえば後ろに転がってしまうような錯覚。

しかしそれでも、そうはならないだろうという理解不能な納得が心の中に浮かんでいる。

 

(受け流す……でもないか、どうするのが正解だ?)

 

考える余裕さえもある。

身動きが取れないだけで、思考を回したり……或いは意識を向けることくらいは出来る。

体調は全く悪くない。

ただ、何かをしなければ動けないと無意識に思い続けているだけ。

 

(指は動かないし……いや、違うか。此処が『迷宮』なら……)

 

身体を動かそうとして、そうではないと思い直る。

意識を向けられるのなら。

もっと能動的に特異性を展開すれば、それだけで意味を成す。

 

名前を呼ぶ余裕もない。

多分顔を出すこともない。

ただ、それでも胸元から返答が二つあるような気がして。

その声に合わせるように、自身の操作可能圏内を拡大化する。

 

少しずつ、重みが圏内の外面に押し退けられるようにして消えていくのが分かる。

自分の物体操作可能範囲が広がっているのは分かっていたが、今こうして感覚で理解すると認識していた範囲よりも広がっている。

空間の中央に立つ俺が、辺りの空気を跳ね除けて佇む光景。

それが周囲からすればどう見えるのか、という問題。

 

(……これで良いのか?)

 

明確に自他を区分ける能力。

これは扱いとして間違っていることだけは分かるが、事実そういう現象が起きているのは確か。

 

だからこそ、謎が謎を呼び積み重なり。

完全に開いた扉の奥へと当たり前のように足を踏み出す勇気の欠片くらいは持つことが出来た。

 

()()()()()

それがどういった意味を持つのかを、先程聞いたばかりだと言うのに。

気付けば、脳内からすっぽりと抜け落ちていたのだ。

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