正直言って、俺が知ることは穴だらけだ。
先輩がふとした時に漏らしたこと。
天音ちゃんが筆談で語ってくれたこと。
それらを継ぎ接ぎし、自分の脳内で纏めただけに過ぎない。
大災害発生前、ある種の名家とでも呼ぶべき存在として在ったらしいのが「東雲」という家。
彼方此方に根を張り、親戚という名の結び付きを様々な場所に結び付けることで旧態らしい財閥という在り方を残していた家系。
けれど、その全てが滅び去ったのがあの大地震、『大災害』。
その本家の一粒種、姫として生まれていたのが天音ちゃん。
その傍系も傍系、しかも不倫の果てに生まれたらしいのが東雲先輩。
互いを奪い合う骨肉の争い。
主家という立場を奪い合う中で、朧気ながらに覚えている最初の光景が
その後――――彼女を得たものがその立場を得るのだ、と王冠のように扱われ始め。
そして全てを捨てて逃げ出したのが八年程も前。
その惨劇から二人を庇ったのが
何故助けてくれたのか、その理由はずっと教えてくれないと言うが。
想像と現実の剥離は相応に重い一枚の表裏にあると思っている。
「ええっと……あの?」
小さく頷き、手元に持った小さなメモ帳に何かを記す。
普段はホワイトボードか通信端末か、そのどっちかで
その何方も持っていないか電池が切れている時の予備として持ち歩いているもの。
『はじめまして、先輩方のお友達ですか?』
そんな言葉が黒ペンで書かれていて、その文面を捉えて。
「え、ええ……友達、というか、後輩というか……」
何をどうすれば良いのかと俺に目を向ける後輩。
そんな言葉に首を捻り、良く分からないと態度で示す天音ちゃん。
素直に世話になる一年だって言えば分かるのに。
「まぁ、見て貰ったとおりだが」
「何がとおりなんですか!?」
「言葉が話せないんだよ、殆どな」
えっ、と漏れる言葉。
反射的に顔を見、二人の視線が噛み合うのが見える。
恵先輩は何かを思いついたのか、草木を指さして確認し始めてるから頼るだけ無駄。
「天音ちゃん、そいつは今年の……俺達の同類、みたいなやつ。
昨日拾ってきてね、本来は先に伝えたかったんだけど」
『気にしないでください……そういうことですか』
僅かな合間を開けての言葉。
別に俺は能力で伝えて貰っても構わないのだが、初めての相手に実行するには流石に勇気がいるか。
「結局公開しなかったってことは一人でいるんだろ?」
『一人でいるのは嫌いでは無いので』
「そうじゃなくてだな……あー、」
どうしても発生する
ほれ、と小鳥遊の背中を叩いてやれば。
もう、と頬を膨らませてその行動こそに文句を付ける。
その気安さに戸惑う天音ちゃん、とまぁ色々と変化が見える。
「初めまして……って今日だけで何回言ってるんだろ。
小鳥遊岬、昨日から月見里先輩にお世話になってます!」
笑顔で挨拶、頭を下げる後輩。
彼女は手元のメモ帳に何かを記す……途中に一度止まり。
ちらりと一度俺を見た気がする。
「?」
何事かと問おうとするが、その前に書いていた何かを塗り潰し。
新たに書き記すまで十数秒。
速筆とかいう技術があったと聞くが、ある種それを必要性故に身に付けているようなものなのだろう。
相手に読めるような書き方、という意味では多分別物に成り代わっている気がするが。
『■■■■■■ 私のことは聞いてますか?』
「いえ、今日ちょっとだけ!名前も初めてです!」
『 そうですか』
これで良いんだろうか、とちょっと迷う部分がないわけでもないが。
二人のことは二人に任せたほうが絶対後で上手くいくだろう。
『迷宮』に潜るのだったらまた別だが……ってそうだ、これも言っておかないと駄目か。
先輩方の卒業条件を満たす上でも、純粋な戦闘要員として後輩が使えるほうが後々便利だろうし。
俺も今のうちにやれることはやっておきたい、のでまずは下から底上げしないと。
「で、普段の授業は二人で組めばいいと思うんだが」
視線が改めて此方に向いた。
片側は内容を知りたいと興味を強め。
片側は何処か助かったと言った具合の目の色。
普通の対話しているくらいに感じたけれど――――深く聞くのは野暮なのか。謎。
「『迷宮』の最低限のノルマを熟す上で、出来れば二人……或いは俺とか先輩とか、彼奴を混ぜて何人かで片付けるのが確実だと思うんだわ。
勿論出来るできないはその時次第だと思うが」
こうして除外された者同士で作る
毎年毎年面子は更新されつつも、細い線が上から下まで繋がっている集まり。
今年の分はこうすれば良いんじゃないか、という提案に過ぎない。
先輩方のノルマに関しては改めて聞かないといけないが……。
未だに最深階層は五年前から一階しか更新されていないはず。
ならば一年を通して何階か……だとすれば、最速で一年のところを攻略させるのが正解、の筈。
この辺りはまともに頭が回ってる時の恵先輩とか
「それってやって良いんですか?」
「成績、ノルマとして認められるのは学校に所属してる間だけどな。
一応上が面倒を見る、って名目で一人でも達成してる場所までなら付き合って問題ないってことになってる」
要は俺がいるなら最深二十階まで、先輩を含むなら更に下まで現段階で開放される。
小鳥遊は二階まで攻略してる筈だし、天音ちゃん次第かな……。
「まあ、細かいとこは飯食いながら相談しようぜ。
天音ちゃんも充電してきなよ」
これが上手く行かないなら行かないでまた相談する必要がある。
……と言うか、俺一人だと十一階以降が超絶不安だから頼りたいという部分も大いにある。
だから、まぁ。 単純に言うなら。
「相互扶助、ってこういう事言うんだろ?」
『少しだけ、違う気もしますよ。センパイ』
手痛い修正の言葉。
でも、確かに彼女の頬は緩んでいるようにも見えた。
『手助け、でいいんですよ。多分』
そう、付け加えながら。