現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「……つまり、俺等が鍛え上げてきた全てが無駄になると?」

「基本的には、な」

 

苛立ち混じりに口にする。

その気持ちが良く分かるのか大きく二度三度頷き、溜息を吐いた上。

八月朔日先輩は、懸念した事項を肯定した。

 

「ただ、当人が左右出来ないだけで補填は出来る……いや、出(・)来(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)し(・)た(・)」

『した……?』

「先程海が言ったろう、本質の上書きはできないと」

 

ただ、それだけで話を終えなかった。

侵入を一切弾き飛ばすだけではない、と付け加えたのだ。

恐らく、その手段を持つのが今回連れてきた女性……ということなのだろうか。

 

思わず目線をもう一度向ければ、僅かに微笑むだけに留め。

直ぐ隣りにいた小鳥遊が二の腕を摘んでくるので何だお前、と目線を逸らしてしまう。

 

「代わりに一部の特異性で侵入出来るように出来る、ってとこまでは分かってる。

 んでもって……俺等がこういう緊急招集絡みに積極的に動くのも二つ理由があるんだが」

 

一つは直接見た上で聞いてくれ、と。

踏み込むことを大前提にした言動を聞きつつ、致し方ない部分を含んで小さく頷く。

 

「まあ大きい理由は此方だわな、他の場所から探索者を集められる理由も此処に繋がる」

「……と言いますと?」

 

一度目線を合わせるのが分かった。

ちゃり、と小さく鎖の音を立てながら胸元の時計を見た上で告げる。

多分、後続が来るまでの時間が差し迫っているとかそういうやつか。

 

「あんま時間がないから端的に言うぞ。

 俺等は端的に『侵略者』と呼ぶが、そいつらを潰すと能(・)力(・)が(・)強(・)化(・)さ(・)れ(・)る(・)」

 

ぇ、と言う言葉が漏れたのは俺以外の誰だったのか。

同じように喉元から零していた俺の耳に聞こえた異性の声。

次々に追加される情報の波に溺れないように咀嚼するのが手一杯。

 

「強化!?」

「階層進んだときの進化とはまた違う、その侵略者に関係する形で能力を得ることが殆どだけどなー」

 

……ああ、成程。それなら幾つかの事象が腑に落ちる。

 

最初から与えられた能力を直線的に、純粋に強化していく階層の進行。

その能力の応用、本来得られない部分を外部要素(リソース)を得ることで補填する。

今回みたいな特例……先輩が言う通りなら侵略者を撃破することで、その不足した部分を継ぎ当てる。

 

そして以て、補填できるようにした、という言い方から察するに――――。

 

「入れる人達が……その、侵略者を倒すことで得た派生先で……入れなかった人を、一時的に入れるようにする?」

「勿論だが、こんな事出来るやつは特殊型以上に希少だ。

 大抵自分以外への補助能力から発展することが多いらしいが」

「それでも、集まる理由は納得しました」

 

超越者が優先で呼ばれるのは、多分対処に慣れてるから。

つまり、三十五階付近にもなれば当たり前のように起こる事象として一度は経験しているから呼ばれている。

其処まで潜れず、当初の方針と違って足踏みを強いられる集団は少なかれ存在するだろう。

 

それよりも浅いところで能力を突き詰められる可能性を得られるなら。

本来得られないはずの可能性に、もう一度手を伸ばせるかもしれないという希望。

 

無論、普通に入れる人を補助するよりも負担は大きく、それでいて効果も薄いのだろう。

それでも仲間の重要さを理解できている相手であれば、それこそ誰を殺してでも手を伸ばす。

そんな甘い罠が、俺達を見つめているのが分かる。

 

そして、この千里とかいう人がその「希少」に当たる人だと聞いて納得した。

強さは見るだけでは分からないのは当然だが、それでも……何方かと言うと直接的に戦うような体付きではなかったから。

後衛だろうな、とは想定していたが其処までだとは誰も思ってない。

 

「で、話を戻す」

 

余り時間もないしな、と。

付け加えられた言葉に頷きながら、一番近場の穴……少しばかり開けた、蟻の巣の入口のような場所まで移動する。

それに付き従う俺達ではあるが、何か嫌な予感がした。

 

「攻略していくのは大抵こういう穴や壁の変な扉。普通には存在し得ない変なもんを越えた先だ。

 当然だが帰るには徒歩か、一応侵略者を打倒できれば『迷宮』が一方通行の道を開いてくれる」

「道……?」

「普段使ってる『扉』の簡易的なやつだな。一人につき一回だけ通れるようになってるし、見りゃ分かる」

 

じっとその穴の奥を見詰める。

なんかこう、背筋……いや、脳の付近か?

むずむずするような感覚があるが、これか?

 

「雄二」

「はい?」

「今なら安全だから……次はお前だな、穴の地面より下に手を突っ込んでみろ」

「はぁ……そう言うならやりますが」

 

途端に九十九先輩の目が鋭くなった。

それでも意に介さず、やれという命令は続行している。

だから恐る恐るに雄二のやつは手を伸ばし、指先が穴の入口に掛かった辺りで。

 

「ん…………んんんっ!?」

 

全身を震わせながら手を引き抜き、後ろに転がる。

無様な姿ではあるが、誰もそれを咎めようとはしない。

寧ろ先輩方全員が安心したような、納得したような顔をしている方が印象的だ。

 

「分かるか?」

「なんですか今の。肌を、舐められた…………?」

「外部出力してない特異性持ち特有のアレだな、良くある」

 

頷いているのが何人かいるが、説明しろよ。

まあ流石に今度ばかりは何も言わずに動いてくれているから、気にしないで済む範疇だと思うが。

小鳥遊からの信用相当落ちてますよ先輩。

 

「全員……特に初体験組は一回同じように経験してもらうが、視線なり触感なり何らかの違和感があるはずだ。

 その度合である程度『愛され具合』が判断できるんだが……まあ、そうされるのも当然の話でな」

 

目線が俺に向く。

……俺?

 

「『侵略者』共は周囲か自身の内側かは別として、必ず『この迷宮』に対応するための空間を作ってる。

 本気でこればっかは行けば分かる、としか言えねえのが難点だが……そうさな」

 

零の特異性が一番近いか。

そんな零した言葉に、周囲の目が改めて俺に向く。

 

「『迷宮』の中に『迷宮』を作ってる。そういうもんだと思って、覚悟して手を突っ込んでくれ」

 

……その言い方だと。

俺の特異性が異常って聞こえるんですが、気の所為ですか?

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