現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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蟻の巣の中。

ただその一言で言い表すには高さや横幅が広く、手掘りのトンネルのような装い。

そんな中を、前後衛に別れた先輩方が警戒し。

中央辺りを俺達が。

――――より正確に言うなら、俺と天音ちゃんと小鳥遊を護衛している。

 

「……なんだったんですかね?」

「知らん」

 

笑ってるだけだった気がするあの人から余計に目が向けられ始めてる気がするし。

後衛、女王と共に並んでいる未だ能力名さえも分からない女性の視線を後頭部に感じる。

 

(……前例がそういうだけ、っていう話じゃねーのかなぁこれ)

 

実際に手足を突っ込んだが、その直後に起こった反応は人それぞれだった。

 

小鳥遊は僅かに震えたが直ぐに慣れ、入ろうとした時と同様に首を傾げるだけ。

天音ちゃんは何も感じないように地面に降り立ち、此方を見上げて疑問符を浮かべ。

俺に至っては特異性の端っこで何かを押し退けるような感覚と、外面を触られているような感覚だけがあった。

 

ついこの間、風の力で周囲を調べられた時よりも生々しく……もうちょい力強い感触。

()()()()()()

だからこそ、三者三様で感じたことを口にすれば呆れを通り越して真顔で守られるような態勢を整えられた訳だ。

 

〚コン〛

「お前等がなんかしてんじゃないよなぁ……?」

〚???〛

 

名前は力を持つ。

言霊と呼ばれる原理と同じく、名前其の物も意味を持つという名付けという儀式。

そんな意図を持たずに名前を付けたつもりはないが、それでもこうまで色々と切り替わってくると疑問が浮かぶ。

せめて話せれば……なんて無茶苦茶なことを思いつつ、改めて周囲を見回した。

 

(先輩に……後は雄二には有利だが、俺には不利な地形って理由もあるよなぁ、今の陣形)

 

その特性上、一番戦いやすいのは最前衛で突貫する役割。

特に多対一よりも一対一のような真正面の殴り合いを得意とする八月朔日先輩。

何方かと言えば万能寄りの前衛、という感覚だけがある女王。

そして、何も知らないが後衛だろうと思っているもう一人。

 

彼女が雄二のやつにしたことは単純。

その肩に一度触れ、そして離れただけ。

それだけで先程のような反応をすることがなくなり、一番驚いていたのは雄二当人。

 

(まあ、九十九先輩は頬膨らませてたが)

 

露骨に嫉妬してたが、アレはそういう意味はないと思う。

普通に男にも女にも同じような態度で近付く、ある種の医療用の対応に近い気がする。

多分その大元はあの顔面……明らかに隠しているあの髪の下からくる自身に対する諦念とかその辺が要因。

自分に対して諦めているからこそ、誰に対しても均等に、対等に扱おうとする結果。

そんな内心を、にこやかにしている表情と目の動きから察する。

 

対人戦としての技術。

と言うよりは人に対しての技術か。

 

天音ちゃんから教わった、全身の動きと意識を傾けている場所から来るその場その場で考えていることの想定。

心理学が大元とは言うが、多分頭おかしいクラスの知性から来る観察眼もその要因のひとつなんだろう。

俺も軽くしか学び取れず、複数思考の一つを全力で回すことで何とか表面の模倣が成立している技。

こんな事を当たり前に処理できる彼女の脳は、やはり代々引き継いできた何かで異質な形に進化しているように思う。

 

「ただ、言っときますけど~」

「んだよ」

 

普通の方向性に成長しているとはとても思ってない。

ただ、明らかに遠巻きに見守られるような形への変異を遂げたつもりもない。

だからこそ、僅か半年ちょっと離れていただけの超越者から変な目で見られる理由こそが疑問。

ではあるのだが、そんな思考を遮る小鳥遊の言葉。

 

「多分、あの人の負担を軽減してるのは先輩の影響ですからね?」

「……何の話?」

 

目線を向けたのは、後方を歩む千里と名乗る女性。

前衛方面でがさりがさりという物音の直後に破裂音が聞こえ、努めて無視した。

何となく何が起こってるか想像は付くし、実際特異性で感じる通りに蟻人が這い寄ってきた直後に弾け飛んだ。

いや、弾き飛ばされたか。体内の液体も含めて消し飛んだ、でもいい。

そうなるだろう、という想定はあったし、事実その通りになったので一旦気にしないことにする。

 

「こういうのって外から言われないと分かんないんですかねー……?」

「いや、だから何の話だって」

 

前に出ることを此奴が望まないのは珍しい。

何と言うか、力を貯めていると言うか。

今刃を振るうべきではないと感じているように見えるその足取りは、歩幅を安定させずに進んでいる。

 

「先輩の特異性の内外で、多分掛かる負担の差はかなりあると思いますよ?」

「えー……」

 

これは確信している、とでも言いたそうにしている。

まあそれが真実だとすれば、疑問が浮かぶ事が無いわけではない。

実際、周囲の空間に影響を及ぼしているのは事実だし、その言葉に一理があるのは認めつつも。

 

「ならお前等はどうなんだよ」

 

自分にだけ、或いは武具を介さないと能力を正しく発動できない二人。

その二人の影響が薄い理由に納得がいかない。

 

「ん~……勘ですよ?」

「お前の勘は勘じゃねえからなぁ……まあ良いけど、教えてくれ」

 

ただ、それにも何某かの解答を見出しているらしい。

答えろ、と促せば顎に手を当て、一言。

 

「私は多分慣れる理由があって、天音ちゃんは多分慣れるとかそういう以前の問題だからだと思います」

「……なら俺は?」

「跳ね除けるなにかがあるんじゃないんです?」

 

何となく納得できるような、出来ないような。

幾らかの疑問を混ぜながら。

なんだか吹き飛ぶ物音が激しくなってきたのを感じて、戯言を話す場合ではないと前を向き直した。

 

多分、目的地まではもうすぐ。

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