来月くらいまでは同じ感じになるかも。
「……どうなってんだ?」
「海」とかいう概念があることは知っている。
実際、塩を得る手段は未だに其処に頼っているという話だし。
沖まで出た遠海漁業という嘗ては行われていた当然の行動も、『扉』が生まれ落ちてからは行われることが無くなったというのも知っている。
そうして出向いていった大多数……割合にして七割、八割が
ただ、それでも『迷宮』の中で「海」に近い領域が存在するとかいう話だけは記憶している。
だからこそ、それ自体には違和感はない。
問題は、変わってしまったはずの――――消えてしまった筈の、「安全性」にも似た雰囲気を周囲から感じること。
「……先輩」
「分かってる」
迂闊に俺の能力を広げすぎないように気をつける。
目に見える範囲を基本とし、其処から少しずつ、少しずつと広げていく。
見えないものがいないか。
感じ取れないものがないか。
明らかに違和感を違和感で塗り潰された空間には、そうして警戒しすぎるくらいで丁度良いとさえ思う。
現状、白い砂と碧い海。
そしてそんな場所の片隅に少しだけ浮いている『扉』。
明白に妙なものが一つだけあり、けれどそれだけが見覚えがあるせいで少しだけ落ち着きを取り戻す縁になる。
皮肉、と言っても差し支えないだろう現状。
「どう思う?」
「一番厄介な輩ではなかろうな」
「……でしょうね」
ただ、そんな中でも此処に連れてきた側は落ち着いて見えた。
余り変わらない、平然とした態度。
周囲を見回し、確認する猶予。
経験しているという、ただそれだけの格差――――それだけとは、どうしても思えない。
「……で、先輩?」
「ああ、お前等も実経験は初めてだよな」
東雲先輩の問い掛け。
それに返すように、だからまぁ、と呟きながら俺へと目線が向いた。
ひっ、と漏れた声は誰のものだったのか。
見知らぬ誰か、或いは見たことがない後輩の何方かのものだったのかもしれない。
自然と変わった目の奥の力強さ。
誰もを同じく底辺と見る中で、唯一同じような
人外が、人外を見るような悪寒を纏っている雰囲気を残した。
僅かに人間性だけを残した、発展性を突き詰めた果てに行き着いた八月朔日先輩の「本気」の姿。
「先ずは撤退可能な範囲で周囲を潰す……要はこの『扉』を絶対防御、制圧する。
もう少し下なら頭数揃えて防御組を作るとこなんだが、この程度の
本来、それは二十五階を越えた探索者に知らされる事実なのだろう。
或いはもっと上が存在する部隊であったり、徒党であったりが代々伝え聞く事実。
それをこの段階で公開されているという時点で異質……或いは、これもまた縁が持つ力。
自然と向けられる目線に、軽く頭を下げることのみで了承の意を示す女性。
それはそれで良いのだが……個人的には、不安というか何と言うか。
腹の底に溜まる妙な感覚があるのもまた事実。
「……そういう方向性の特異性なんですか?」
「はい。……前衛がもう一人でもいれば、先ず確実だとは思いますが」
向けられるのは、俺達ではなく創作者の二人。
より正確に言えば、東雲先輩……ある種の万能性を持った、こうした時に特に役立つ能力者。
「なら俺はそっちに回るか……恵、お前は大丈夫か?」
「零くんに守って貰うし~?」
何故か守ること前提にされているが、深く突っ込むこともない。
普段と変わらない態度を崩さない、というのは立派に強いのだと理解できているから。
「で、後は片っ端から敵を潰す。
戦闘できるだけの猶予を作らなくていいだけ今回は楽だな」
本来なら既に突っ込んで戦場を荒らしているのがこの人の基本だ。
それが集団行動してくれていることに感謝すればいいのか、恐れれば良いのか。
少なくとも、戦闘が始まったらある程度距離を離さないと怖くて仕方ないのは事実。
『敵、ですか』
「……さっきも、海君が言った、けど」
呼吸を整え、ある種言葉を区切りながら盾を構えている九十九先輩。
怯えているわけでは決して無い。
ただ、短く言葉を区切ることで自身の応用技を発動しやすくしているだけ。
「全部、潰さなきゃ、駄目」
来るよ、と呟いた。
目線の先を、自然と追い掛けた。
白い砂が占める周囲一帯、視界の果て。
少しだけ黒ずんだ、或いは白い影が見える気がした。
無意識にそちらに領域を向け、その総数と状態を感知する。
(……人?)
二足歩行しているように見えた。
人蟻のように、人真似をしている存在には見えず。
その両手に何かしらの武具を身に着けているような気がして。
そして、その奥に何かが見えた。
此方に向かってくる、その集団のような何かを統率しているように感じる存在。
それを感じ取った時。
(……いや、関係ない)
浮かんだのは、ごく自然に選び取った選択肢。
けれど、そうすることを求められたような違和感と俺自身の感覚とが重なるような感覚。
殺し尽くさなければいけない。
そう思ってしまったのは、何かに導かれたからなのか。
自然と……破片を、宙に浮かせていた。