現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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吹き飛んでいく体液と黒い破片、後は砂煙。

先程までは風光明媚とさえ思っていた、けれど実際には悪意に満ちた巣だった空間に降り立った、敵にとっての悪意の象徴。

最前線へと緩やかに出向いていった「師匠」――――海先輩の両腕には、身の丈を二回りほど超えるような人外の()()が握られている。

 

()()を引っ張り出すってことは……どう強くなったのかは分からんけど、本質は変わってないか)

 

見覚えがある。

良く見知っている。

 

それを振り回す時がどういう状態なのか。

まだ本領を発揮するときではない、というのが目に見えて分かりやすいからこその安心感。

故に、大きく一つ呼吸をして脳に酸素を回す。

 

(それに対して……)

 

もう片側。

「獣の女王」が出向いた先では、半透明な獣が駆けていく後ろ姿が見えていた。

総数は八つ。

片手に刀を、もう片手には爪――――のように見える伸ばした何かを構えた異種二刀流。

 

()()が何かを思い出す中で、妙に硬質だった皮膚を当たり前のように引き裂く姿に冷や汗が出る。

同じようなことを出来るはずがない、そう分かっているはずなのに。

何故だか刃を向けられた時を想像してしまっただけの、自己防衛と言うか自爆の結果ではあるのだが。

 

「え……っちょ、先輩!?」

 

どんな回答をするのが正しいのかは個人的な差異としつつも、多分この空間でアレを知らないのは唯一の純前衛(みさき)だけ。

だから、空気感が彼女と俺達との間で差が出るのは致し方なし。

此方を向こうとする程度には余裕がある……余裕が出来た、か。

 

押し潰そうとしていた敵の敵意、憎悪(ヘイト)が前方に向かっていくのが良く分かる。

俺達よりも余程危険だと感じたからなのだろう。

知性を持ち合わせる相手だからこそ、優先順位を付けてしまうことの脆さがモロに出ている。

 

対群戦での対策はやっぱりいるな、とは思ってしまう。

出来る探索者がどれだけいるのかは完全に別問題としても、次から次に求めるものを探してしまうのは悪癖の一つ。

 

〚コン〛

「ああ、そうだよな……お前等も気になるか」

 

少しだけ広がっていた防衛戦の間合いを整え直す。

ついでに言えば水を舐めるくらいの余裕は出来る。

 

「…………」

 

多分、それは……背後で無言で立っている残った一人に周囲の人蟻が近寄らないように見えるのと関係があるのだろう。

じっと、視線が後頭部に突き立っているのを感じながら目線を向けない。

 

気付いていることに気付かれているのは間違いない。

それでも、後ろを向こうとしないという姿勢を見せるのが大事だと第六感が囁いているから。

 

「……はいはい、水飲んで、呼吸整えて」

『……す、すいませ……ん』

 

それぞれが短いながらも相応の疲弊を見せる中で、流石の九十九先輩は汗一つで耐えている。

が、後輩達は明白に体力差が出ている。

殺意其の物は受け流せても、能力を起動したまま……術技を使用しながらの強敵相手の戦闘は体力と精神其の物を急速に奪っていく。

 

やっぱり個人差が出るのは仕方ない、ともう一度思いつつ。

目前で吹き飛んでいく姿を中空に見ながら、その後姿に切り傷を。

軍勢の中を掻き回すように破片を操作しながら、空いた思考で疑問符を浮かべた一人と一匹に口にする。

 

「海先輩があの巨剣を振り回してるなら、その程度の相手ってことだ。

 ……少なくとも、あの人にとっては、だが」

 

()()ではない、

あの人に与えられた本来のモノは対単体に特化し過ぎている。

俺のように、他の行動と組み合わせて成立させるような戦いも必要ない……押し付けるだけで相手を肉塊に変えるだけの力を持つ能力。

ただ、あの巨剣を振るえているのもまた特異性の応用。

……少なくとも、正しく利用した場合にのみ振るうことが出来るだけの重さを秘めた馬鹿みたいな武器。

 

(本気――――に関しては言う必要性はないわな)

 

今は何処まで行き着いているのかは分からないが、見せてもいいと思える領域に限定して戦っているように見える。

何というか、足取りが重く見えるから間違いない。

 

「……あれで、ですか」

「あれで、だ」

 

皮膚を抉る感覚を脳裏の片隅で覚えながら。

ぽつり、と漏らした若干の泣き言にも思える台詞を聞き流して、そう答える。

 

恐らく、剣士としてはある種異端であり王道。

正しく身体能力に優れた人間が、彼方此方から摘んだ流派の技術を自分用に改造した結果身に付けるであろう開祖のやること。

その直弟子に当たる俺だからこそ、こんな言葉を返せるのだと思う。

 

「多分、お前には直接教えてくれることはないと思うが――――」

 

盗むことは出来るだろう。

それ以上は決して口にせず。

消し飛んでいきつつも、減ることのない頭数の奥底を見通そうとして。

 

「……見る機会があれば、見とけ」

 

誰かが、俺を見ているのだけは分かった。

 

じっと。

後ろからではなく、更に遠くから。

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