現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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当然、見える景色もまた別物。


142/E:見知らぬ変化

 

手元に感じる引っ掛かり。

刃物と言うよりも刃が付いた鈍器のような、壊れにくい事を優先した武器を振り回せば幾度も目前の「生命体」へと引っかかり、直ぐに消えていく。

 

ぐるぐると回転するように。

背後を取られないようにしつつも、唯の頭数だけで押してくるような()()()()()()()()な圧力。

疲弊と疲労と、後は面倒だという気持ちが強く湧き出てくる。

 

(軍勢型……いや、召喚型か?)

 

将軍のような形で、自身の配下を召喚しつつも引き連れる分類。

術師のような形で、自身よりも強い存在を呼び寄せる分類。

 

相手が単独、或いは数えられる程度で済まないのだから多分この何方かに属する……とは思う。

少なくとも、普段相手にするような奴等とは比較さえも出来ない弱さ。

だからこそ思い当たる、学んできた幾つかの種別。

 

仮に想像通りだったとしても、この徘徊する雑魚共でさえも後輩達に取っては苦戦する相手と認識して間違いない。

 

(どっちにしろ――――普段とは違い過ぎるのは確実、か)

 

普段であれば。

三十階よりも低階層であれば、俺と木咲の二人で大凡は何とかなる。

念の為に連れてきた、最終兵器としての側面を持つ彼女の妹……千里がいれば盤石と言ってもいい。

 

入口を守る、逆に進行される。

決して行われてはいけない行為を除くのならば何とかなる。

これは自信でも言い張りでもなく、経験上から来る単なる事実。

にも関わらず、今日の生命体はその主体となる動きが明白に違う。

 

俺達が最前線で暴れているのは数を減らすことも理由の一つだが、意識を此方に向けるという目的もある。

けれど、相手の意識……認識は、暴れる俺達の更に奥を強く見詰めている。

俺達よりも遥かに深く、重い。

そんな何か(■■)を与えられてしまった誰かが、後輩達の中にいるのは間違いない。

 

(誰……なんてもんを確認する必要は無いな)

 

この空間に踏み込む際、露骨に違った違和感への感想を思い浮かべれば答えは一つ。

 

最低でも、俺達が初めて踏み込んだ時と同じような感想。

(あく)では、恐らく生涯経験することがないのだろう違和感。

 

けれど、その代わりに負うのは敵対者に対しての絶対的な怨嗟と怒り。

その本質を知ってしまえば、この国に生まれ落ちた『探索者』ならば多かれ少なかれ理解する鎮護の願い。

 

――――そして、多分。

それを教え込む猶予は、全てが終わった後になるだろう。

 

はぁ、と小さく息を吐きながら進む方向を僅かに変える。

それと同時に、駆けるような足音と共に半透明の獣が足元に近付き、口を開いた。

 

『海』

「……珍しいな、戦場で()()を派遣するなんて」

『戯言を言っている場合ではない。 気付いているだろう?』

 

獣――――四本脚の、犬。或いは狼。

 

玄、と彼女が呼ぶ存在とはまた別物。

与えられた特異性と、拾った武器との相乗に依って呼び出される獣。

 

自らに宿すのではなく、共に並んで敵対存在に抗うためではなく。

その刃の名の伝承に記されたように、共に歩むモノとの連携――或いは他者へ宿すことでの()()()()――にのみ用いる存在。

切り札の一枚、としての運用を主体とするからこそ……三人で動く時以外では呼び出すこともない筈の札を切っている。

現状の異常さが、それだけで伝わってくる。

 

「俺達に一切興味を見せてない、ってとこだろ?」

『分かっておる、か』

 

度し難い、と。

獣が吐くにはおかしな言動に、思わず口元が歪む。

そういう人間なのだと、俺と彼女は既に理解している。

 

お互いの外面と内面。

考えの根幹を除けば、肉体的にも精神的にも幾度も接してきた。

半ば強制の部分があった婚約者という関係性ではあるが、今ではお互いのことを認めるくらいには落ち着いている。

 

だからこそ、こうした戯言を撒き散らしながら。

周囲に蟻の体液を撒き散らし、破片と肉片の上を踏みしめながら。

会話をし続けられるだけの異常性と余裕を、お互いに認識している。

 

「主は?」

『先程一匹が消し飛ばされた。そのまま先へ進んだ奥にいる女子(おなご)――――そして、その守護者だろうよ』

「……召喚型か」

 

この空間を支配する主、よりも強い何かを呼び寄せる術者。

 

『私が行くか?』

 

逆であれば単純な話、殴り倒せばそれで良かった。

ただ、守護者を呼び寄せる型の場合は()()()()()()()()()()()()()

これは世界法則……ある種のルールに従って作られたような、違和感さえも覚える絶対の法則性に従った結果だ。

 

「いや」

 

だからこそ、木咲一人では何が起こるか分からない。

そして、見詰めている先が後輩に対してであるのならば。

取れる手段は、一つ。

 

「千里と……後は、零の判断に任せる」

 

そう伝えてくれ。

それだけ言い残し、此方を呼び止めようとする獣の声を背に置いて走り出す。

 

刃を握り直す。

最終的には、投げ捨てるとしても。

俺の本領を発揮させない、枷としての側面を持つ武器を手放す前提条件が成立する。

 

――――久々に。

全力を出せる、という愉しみがあることは否定出来ないが。

それだけでもないのも、また事実だった。





合わせて八つ。故に八房。

           ――――「村雨丸」、銘に並んで筆で描かれた言葉
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