現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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翌々日、早朝。

丸一日を休息と準備に当てたその次の日。

『迷宮』入口を兼ねる建物内、壁沿いには俺を含め三つの影。

 

『おはようございます、センパイ』

「おっはよーごっざいまーす!」

「無駄に元気だねお前さんは……」

 

ツイン後輩が各々の格好を整えて元気溌剌とばかりにやる気全開。

ふぁあ、と欠伸をしながらもそれぞれの格好と荷物量を確認する。

……うん。東雲先輩は自宅に置いていかれたらしい。

まあやたらめったら構うだろうし仕方ないと言えば仕方ない。

 

「こないだ言った通り、今回は五階までの突破……要するに帰還通路(リターンポイント)からの帰還を目指すってのは理解してるよな?」

『一階からですよね』

「分かってますって!」

 

小鳥遊は一般的な制服……ブレザーにスカート、その上には店主(マスター)からの贈り物として渡されていた革の鎧。

背にはそれなりにこんもり詰まったリュックサック、腰にはベルトが巻かれていて武具の存在は現在見えない。

まあこの辺は当然のマナーとして、危険物を外に出して歩けばそれだけで警戒されることだから普通に空間格納してるんだろう。

接敵時に即座に其処から抜くか、常に持ち歩くかは割と人それぞれな所あるし。

重めの武具を与えられた『探索者』は持久力との兼ね合いもあるから千差万別なんだよなぁ、周り見てても。

 

天音ちゃんは制服ではなく、袴のような和服仕立ての服装に身を包んでいる。

布其の物を加工し、特異性を染み込ませた特注の布の防具。

絶対先輩の贈り物だよアレ。

腰に巻くのは幾つかの回復薬と()()()()

別に必要とするとは思えないんだが、在って困るもんでもないのはそれはそう。

ただ、彼女の場合の問題点は対応に1テンポ遅れること。

それを補う手段があるとは言っても、決して先行はさせられないのは変わらない。

 

俺は……まあ普段と変わらん。小鳥遊と同じ制服をベースに少しだけ布地を強化した装備。

メインになるのが石と杖、白兵戦になる以上は鎧とかの重みになる装備は一切採用できない。

どっちかってーと後衛専門で動くか、ある程度遊撃として対応するのが一番便利な扱いなんだろうな。

荷物持ちとして採用されたりすることのほうが多かったが、誰かが守ってくれるわけでもないし。

 

「なら、細かい部分は中で話すわ。行くぞ」

 

そんな言葉を掛けて、未だ生徒の影が見えない受付口へ向かう。

まだ始まったばかりだから、この辺を熱心に活動する生徒の数は殆ど無い。

逆に言うと、学期末になると泣き喚きながら潜ろうとしたり助けを求める声で溢れるのも日常茶飯事なんだけど。

 

学年が違うから、潜れる階層が変動可能だから。

念の為俺を主体として三人で潜る形を申請すれば、受付に物珍しいものを見る目をされる。

普段は先輩に付き添うか、単独の二択が殆どで誰かを引き連れるという経験自体が極めて珍しいからだろう。

そんな視線を意図して無視して、『扉』の前まで移動。

 

「ほい」

 

片手を伸ばせば、先んじて動いたのは天音ちゃん。

その手を取り、もう片手を小鳥遊へと伸ばし、間に挟まれるような形を取りながら。

 

『よろしくお願いします、センパイ』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ん、無理はしないでね」

 

小さく頷く。

そんな俺達のやり取りを見て不思議がりながらも、彼女の手を取り。

 

『よろしくね』

「うわぁ!?」

 

唐突に聞こえた声に大げさに反応し、周囲の視線が集中する。

気恥ずかしいのか、顔を伏せ……僅かに頬に赤みが見える。

情けから敢えて其処には触れてやらず、引っ張る形で『扉』の奥へ。

余り彼女の能力に関しては口外されたくない。

特に、この辺は本質じゃなく強引に使ってる応用に近い扱い方だから。

 

水面に触れ、粘着質の扉を越える。

途端に現れるのは明らかに異世界……に近い『迷宮』。

何故生まれたのか、何のために存在するのか。

それらの調査は一向に進まない、けれど生活に根付いてしまった特異点の入口――――僅かに横。

 

「え、ちょ、なんですかこれ!?」

「騒ぐな騒ぐな……聞いたろ、天音ちゃんの名前を聞いたことはないかって話」

「そりゃ聞かれましたけど、なんですこれ!?」

 

周囲に迷惑を掛けない場所に移動したからか、急に捲し立ててくる後輩。

久しぶりの反応だからか、少しばかりの苦笑いが天音ちゃんの無表情を僅かに崩している。

こうして共に動く以上、能力をいつまでも伏せているわけにはいかないし。

意図して集団から離れて単独を保ち続けていたらしい彼女の本質を知る同級生は、此奴が初めてになるってことだし。

 

『音の震えを伝えてるだけだよ、喉からはちゃんとした言葉にならないけど……』

「いや、それにしたって……先輩、天音ちゃん何なんですか!?」

「俺に聞くなや、当人がいるだろ」

 

もしかすると意気込んでいたのかもしれんなこれ。

寝不足……ってことは流石にないと思うんだが。

第一歩目から躓いたから、その分のエネルギーが溢れ出してる的なやつかも。

 

「別に話すつもりが無いわけじゃないだろ?」

『はい。こうしていても、お話は出来ますけど……何の意味もありませんし』

 

肉体越しでも使用できるけれど、能力の本質はやはり武具と特異性。

その噛み合わせで行える幅の広さか単純性故の特化性か。

……出来ることはそれなりにあっても、『便利』の幅を超えない辺り地味なんだよなぁ俺は。

 

彼女が触れ、自然と伸びたのは巻取り機から伸びた()

しゅるしゅると伸ばせる範囲は未だに短いのか、目の前を漂う程度でしか無いが。

これの発展先を想像するだけで、下手をすれば恐怖心のほうが先に出る。

 

『聞こえたのは『廻糸(かいし)』。与えられた武器は『振動糸』、得た特異性は『()()()』』

 

本質は鉄斬糸に近い、相手の表面を刳り刻むことを可能とする糸。

その在り方は、相手の体内を蝕み破壊する過剰な生体反応。

相手が生命体であれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

癒やすも殺すも自在な殺戮の天使。

 

『私が傍にいるなら、殺させはしませんから』

 

『探索者』の中の極一部、記録を作る者達(レコードホルダー)の資格を持つもの。

けれど、それを望まない心優しい口を閉ざした少女。

それが、彼女という本質だった。




今作随一のぶっ壊れ枠です。
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