現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「どうしたいか」。

 

そんな事を問われて、脳内に最初に浮かんだのは感情論(ぎもん)だった。

 

対応できるのか。

アレは何なのか。

貴女は何故付いてきたのか。

 

その全てを包帯の下で隠すような姿勢に、内心で苛立ちが沸かなかったかといえば嘘になる。

 

ただ、それでも。

そんな無駄なことを考えるような猶予が無いのは明白で。

或いは、また俺達の何も知らない場所で何かが進んでいくのは確実で。

否定の言葉を発する前に、無理矢理に言葉を選んで繰り述べる。

 

誰も、何も。

全てを教えてくれるはずがないのは、今までの経験上理解していたから。

 

「どうにか、出来るんですか?」

「微力を尽くすことは約束しますが、それ以上は貴方次第になる、かと」

 

一部肯定。

けれど、その殆どの責は俺にあると言い放つ。

 

口調は違えども、その本質は――未だに話した機会は僅かだが――『獣の女王』と同じような圧を持つ。

いや……下手をすれば、それ以上の重圧。

端的に告げただけなのに、言葉一つ一つに重さが乗っている。

 

「つまり、俺が望むなら手伝ってくれる気はあるんですね?」

「はい」

 

こんな会話している間に、仲間達の疲弊は溜まっていく。

故に、本来は関係なく強引に引き立てなければ不味い状態。

にも関わらず、こうしたほうが良いと感じたのは……包帯の下からの目線と、後は口にした内容。

 

自分からこうする、ああすると言った言葉がない。

希望的観測も、悲観的な意見も無い。

可能性に縋るような言葉が一切ない。

励ますような言葉でも、或いは蔑むような言葉も……感情も、恐らくは無いままに僅かに口を開いている。

 

(……いや、逆か?)

 

それを、彼女が背負った特異性(へんか)なのだと読み取るのなら。

口にしないのではなく、口にできないのだと仮定するのなら。

時折、敵の軍勢を貫く極大の刃が振り下ろされるような現象が『武具』なのだとするのなら。

事情を話()ないのではなく、話()ないのだと――――するのなら。

 

「望むなら」。

 

その言葉は、何かを選んで何かを選ばないことの意思決定。

何も知らないままでも良い。

ある種の選択肢として残された決定権。

そんな物を選ぶつもりは、毛頭なかった。

 

「なら」

 

どん、と背中で爆発音。

聞き慣れた、使い慣れた音は恵先輩特性の爆薬だろう。

分かりやすい悲鳴もない、唯荒い息だけが聞こえるのは彼女としても限界に近付いているが故。

 

ぐしゃり、と潰れる音。

圧壊するような物音は、恐らく死角に入っていた東雲先輩のもの。

使い潰すような特有の戦い方は……あの人にとっても形振り構っている猶予が失われている印。

 

時間が削れていくのを感じながら。

それらを当然のもののように受け入れながら、目線の端で何かを消し飛ばすのを感じながら。

多分、彼女は……先輩達を含めて。

言葉だけでなく、何かしらの行動とを併せて問い掛けているのだろうと感じた。

 

だから。

 

「それを望むなら、何をすれば良いんですか?」

 

余計な親切。

過保護。

幾つか指し示す言葉はあるのだろうけれど、直接言わない代わりに内心で吐き捨てる。

感謝の気持と、舌打ちと。

相反するような感情を無理矢理に飲み下しながら、返る言葉を待った。

 

千里、と名乗っていた彼女。

それ以外に何も話さないことから半分忘れかけていた、そんな相手の目と反応を待って。

 

「――――()()()()()?」

「何を」

 

先程から変わらない、感情を混ぜ合わせないような淡々とした口調。

『女王』とは違う、見下すような色合いから発する言葉ではない。

恐らくは、()()()()()()()()()ような強弱が微かに混ざっている気配が残っている。

そうしてみれば、彼女との違いをもう一つ見つけられたような気がした。

 

じっ、と見詰められ。

半分だけ顔を隠れさせていた……隠していた髪が解け、奇妙な潮風に混ざるようにその下を映し出す。

 

「貴方は、仲間を見捨てて『迷宮』(ここ)から去ることはない」

 

そうした誓いを、と述べる。

 

片目を覆うような眼帯状の白い膜。

口元周りにべたべたと貼り付けられた包帯とガーゼ。

火傷の痕のような、凸凹とした顔と……瘡蓋のようにひらひらと漂う皮膚の端。

 

端的に言ってしまうならば醜女と呼ばれるような相手。

けれど、悪感情は何も抱くことはなく。

何となく、似たような気配を……懐かしい雰囲気を感じながらも。

 

()()()()()()

 

返す言葉は端的に、率直に。

そして、当然過ぎる言葉なのだと飲み込んで。

心臓に、何かがちくりと刺さったような気がした。

 

目が揺れるのが見えた。

固定されているはずの、何の動きも見せなかった眼帯が自然と外れていくのが見えた。

同時に、小さく頷くのも見えた。

 

何となく。

必要な儀式なのだろう、と思う自分がいて。

 

請願は告げられた(けいやくはなった)

 

何故か、二重に聞こえる声色を当然のものだと思う誰かの意識を感じて。

 

(つげる)

 

隠されていた、瞼の下の瞳。

逆五芒星のような、瞳の輝きが見開かれるのが分かった。

 

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