現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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仕事変わったりで諸々ありましたがやっと落ち着いてきたので再開していきます。


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びしり、と。

地面に光の線のような何かが走った。

 

多分それが何を示すのかは、彼女が持ち得る特異性を把握しきっている人物だけが理解すること。

ただ、空間に左右する側面を持つ俺の何かが引っ掛かる。

 

上から見下ろしているような、その線に触れている空間から伝わってくるものがある。

 

「吾は自身の歩み百歩分を内側と定義す(さだめ)る」

 

多分、何(・)か(・)を明確化するための印。

縦横無尽に走り続けるのではなく、左右に走ったそれが幾らかの凸凹を含めながら円状に形成されていく。

 

線の上に佇んでいた蟻人もいた、筈なのに。

気付けばそれを超えるか、その手前で留まるかの二択へと絞られていく。

それが収まるまでに掛かった猶予は、一呼吸が終わるかどうか程度の速さ。

 

そして、それを口にする彼女の一人称(じにん)が重複して聞こえるような違和感。

 

「礎(さだめ)る」

 

二度、同じ言葉。

奇妙な二重音声は、何故か別の言葉を思わせる。

相手に聞こえるように口遊む言葉は、或いは彼女の持つ制限に近しいものなのかもしれない。

本来であれば、言わないほうが有利に運ぶ――――そう思わせる雰囲気が、彼女から放たれた線を越えるか否かを二分したような感覚。

 

「吾の認めるモノ以外が踏み込んだ際、罪を負うものとする」

 

一方的な物言い。

そうするだけの権利がある、と言い放つだけの態度。

それは……違和感の、見えていないはずのナニカが持つモノなのだろうか。

 

言葉として放たれる刃を耳で聴き、脳で理解する。

そんな僅かな合間……或いは空白であっても、本来は動くべきはずなのに。

それを聞いてからにしたほうが良い、と俺の中の直感が囁き続けている。

 

「罪には罰を」

 

踏み込んだ敵は、今直ぐ殺さなければならないと直感で感じた側で。

踏み込まなかった敵は、ほんの僅かにでも警戒……躊躇した側で。

それでも、割合としては踏み込んだ相手のほうが明確に多い。

意識してなのか、それとも自我という概念が薄れているのが原因なのか。

そもそも持ち合わせているのかも分からないモノを、相手の動きから見取っていく。

 

(……突っ込んで来てるのに、何処か余裕が見える)

 

前方で戦っていた先輩方や後輩共の隙をすり抜けて。

或いは優先順位を此方に傾けて。

『門』へなのか、何かを実行しようとする千里さんに向けてか。

駆け出している集団の足の速さは、遠目で見るからこそ分かりやすい。

 

普段ならそうさせないための立ち回りを心掛けているからこそ余計によく見える。

囲まれるのではなく、意識して囲む立ち回り。

相手の意識を石へと向けさせる行為其の物を一種の技として成立させているからこそ。

今のこの現状に危機感を覚え続ける俺と、何も思ってないように見える彼女との差異が浮かび上がる。

 

「罰には贖いを」

 

特異性を、能力を押し付けるだけで優位性を取れるようなモノではないからこそ。

相手が見せた特徴を見て、感じて、考えてしまうのは……悪癖に近いものもありつつ、決して捨てられない戦い方として骨身に刻み込まれている。

 

「故に。 吾はこう宣託す(つげ)る」

 

後数秒もあれば伸ばされた腕が、武器が彼女に接する。

それだけの速度で駆けてくる生命体。

……遠距離から投擲などが無いだけマシなのかもしれない。

半ば反射的に、先頭を切る相手の足を横から刈ろうとし。

 

「規定成立――――『黒白(こくびゃく)』」

 

そんなものは不要だと、すぐさまに理解した。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAADKJ!?」

 

もう一度だけ、地面の光が瞬いて。

足……と呼ぶべき、地面と身体を支えていた後方二本の部位が弾け飛んだ。

 

その直後に放たれた悲鳴のような、幾つもの騒音を撒き散らしながら。

胴体側に残った、大腿に近しい部位が宙を掻き毟る。

やがて、そのまま地面へと落ちれば同じように弾けて体液だけを地面に残す。

後に残るのは、身体を構築していた破片と体液溜りのみ。

直ぐにそれらも潮風に飲まれるように蒸発し、現場を見ていなければ何が何だか分からない状態になったのは間違いない。

 

「告(つげる)」

 

ふぅ、と一つだけ呼吸する音がした気がする。

 

そして次に放たれた言葉は、この現象を引き起こす切っ掛けとなった何かの宣(・)言(・)。

 

す、と伸ばされたのは降ろしたままだった片腕。

指を向ける――――その先は、先程俺が戻ってきた方向。

 

「吾はこの腕からの左右二十歩分を内側と定義す(さだめ)る」

 

そんな御言葉を呟いた当人の視線が、僅かに俺の方へと向いた気がする。

同時に光が、真っ直ぐに線を描いて突き進んでいく。

 

(光の中を進め、と?)

 

言葉で問い直す……余裕はまるで無かった。

ただ、導かれるように走り出す。

 

身体の奥底に溜まった筈の疲弊が何処かに消えるような。

そんな錯覚と、そうすれば良いと思ってしまう直感に従った。

 

「吾の認めるモノ以外が踏み込んだ際、罪を負うものとする」

 

同じ言葉が、背中の向こうでもう一度聞こえた。

 

だから。

走り始めた。

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