一階で現れる生命体は其処まで種類が多いわけではない。
粘液、獣、或いは鳥。
一部を除けば”動物”と分類されがちな存在たちが巣食う、傍目からすれば平穏にも思える領域。
本来此処で学ぶべきなのは『長期間歩く体力』『気を張る精神力』、そして何より『生命体を殺す事への慣れ、覚悟』。
地図の書き方、次の場所への検討の付け方。幾らでも学ぶことは在っても、最初に慣れねばならないのはこの三つ。
文字通り最初も最初、前衛であっても後衛であっても一度は此処で自らの手で命を奪う、という経験をしてきた筈だ。
さて、そんな俺達ではあるが。
「じゃ、各々の出来ることを確認しておくぞ」
この階でやるべきことはそんな前提を一歩通り越した先。
『能力』における現段階での可能範囲の確認。
階層を更新すれば何かしらの影響が武具と特異性に出るとは言え、普通にやっている限りでは一年間付き合うことになるモノだ。
何にしろ、死ぬまで連れ添うことになる自分に与えられたものを確認しておくのは物凄く大事。
「あの、先輩は?」
「俺は十一階まで更新しねーと変異はしねーから先にお前等だお前等。
地上で触れたり振り回したりしたことはあっても、実戦は初だろ……あ、後輩は別か」
「なんだか別の意味で特別扱いしてません?」
いやぁだって、二階まで攻略してることは分かってるし。
子鬼と最低限打ち合って持ち堪えられた以上、自分に合ってない武具ってわけでもないだろーしな。
「……まあそう言うなら先にお前でいいか」
「あ、ほんとに特別扱いされてる気がする」
「良いからやれることとか、自分で分かってることを言ってみろ」
特異性が特異性と呼ばれる最大の要因は、『使用者の認識に由来する部分とそうでない部分』があること。
俺が便利使いしている『浮遊』一つ取ったって、「刃が付いているもの」に関しては一切操作ができない制限がある。
なので、下手に鋼の中に突っ込んで
この辺は直感で理解できる部分とそうじゃないのがあるのも面倒な部分で、訓練期間を通して自分の制限への理解を深める、というのが裏目標。
殆ど――――きちんと動こうとする『探索者』は、意識してるか否かは別としてもこの部分をきちんと理解している。
万が一の時に想定外が発生する、なんて危機への対策を深めているわけだ。
故に。
「えーと……そうですね、武具に関しては特に面倒な制限も無いと思います。
強いて言うなら別の武具と併せて持つのは難しいかなー、ってくらいですねー」
「筋力的な意味でか?」
「腕力でもそうですし、両手持ちから伸ばして片手持ちとかの変更が難しいので」
まあそりゃそうか、と小さく頷く。
面倒な制限がない方が普通なんだが、どうしても自分のを見ると疑ってしまう。
この石塊一つ取ったって、当初と比べれば少しだけ尖ってきている変化はあるのだし。
今後のことを考えればこれ一本……或いは万が一、不得意な相手向けのを併せて二本程度が限度ではなかろうか。
「特異性の方は?『付与』って聞いたが」
「【雷】です。少なくとも今は……痺れさせるって言うよりは、反射を引き起こせる程度の威力ですけど」
「俺達のにはいけるか?」
「ごめんなさい、まだちょっと難しいかも」
そして、『付与』は幾つかの属性、派生先に振れるか一点に特化するかの大まかに二択。
他人の武具に付与出来るタイプと出来ないタイプともいるので、割と汎用的な特異性であるのは間違いない筈だ。
「基本は個人完結……後々でまた試して貰うが、一旦はそう考えていいな?」
「はい!」
ってことは文字通り『雷剣』、単独で完結した雷を帯びた剣、か。
今後武具が強化されるのか特異性が伸びるのかは分からんが、純前衛運用で間違いなかろう。
「天音ちゃん……の方はまあある程度は把握してるけど……。糸の長さは最大でどのくらいだ?」
『多分三メートルくらいです、特異性の最大距離も今はそれくらい……?』
「いや、唯でさえ見えにくい振動で斬る糸が三メートルってかなりヤバイと思ってるんだけど」
「私は斬らないでね!?」
糸に触れている間であれば伝えたいことは伝わる。
与えられた当初
『危なくても声出せないから……気をつけてね?』
おずおずと告げられる
流石に身内を攻撃することは無いとは思うが、お前さんが突っ込んできたら分からないんじゃねーかな、後輩。
魔法と呼ばれる類のモノだって、与えられた特異性に応じて得意不得意の幅でかなり違いが出るんだし。
「最初は俺が見ておくが、お前さんもそのうち慣れろよ?」
「頑張ります……」
「俺にとっては勿論、誰にしても超貴重な相手だからな?冗談じゃねえからな?」
一応回復薬で補える範囲の傷で済むとは思うが、強めに言っておかないと後が怖い。
唯でさえ『回復』に類する特異性は希少も希少。
だからこそ深層まで潜るのに回復薬の携帯が必須と言われているわけで、天音ちゃんのこれは秘匿しとかないと結構不味い。
ただ、基本が『過剰』にある以上、治癒はその応用。
どの程度なら対応できるのか、その加減は段々と強化されていく中で常に適応しなければならない。
そう言う意味だと難しい能力ではあるよなぁ。
「でもぉ……」
「なんだよ」
そんな中で石をぶつけるだけの俺が妙な立ち位置なのどうなんだ。
いや、荷物は預かって持ち運ぶくらいはやってやってもいいが、なんて思いつつ。
「先輩、妙に気を使ってくれますよね」
「唯でさえ上と下の異性がアレだったからな……!」
気付けばこうなってたわ。
影法師でもなけりゃあ気を使って当然だろ、と怒るべきなのかこれは。
そう詰め寄ろうとした矢先。
『……私、アレですか?』
そんな中。
糸越しにぽつりと漏れた言葉に、背筋が凍った。
やっべ。