兎の足を刎ねていたのが首に。
鳥の頭を砕いていたのが引っ掛かり落ちて。
凡そ午前中、十時頃。
目前に広がるのは三階に繋がる『扉』。
「いやー……想定よりサクサク進んだなぁ」
何処か満足そうな表情を浮かべている天音ちゃん。
彼女の能力の発展性はどうやら糸の長さ其の物にあるようで、二階に降りて以降少しだけ射程が伸びたと伝えていた。
……触れれば即死しかねない攻撃の射程が伸びるって本当にどうなんだろう。
「念の為聞きますけど、先輩の考えだとどれくらいだったんですか?」
「昼くらいにこの『扉』、帰宅は深夜コースかね」
尚
実際のところ、最深階に近い場所ともなればそういった訓練が必要にもなるのだが。
それは主に
それより先に進むことを許可される程度に何らかの証を立てなければならないので今は考えるだけ無駄。
最悪は俺だけでも五階までは連れ添いできるので、想定を悪い意味で越えられたなら予定立て直す必要があったからそう言う意味では助かった。
「でー……流石に此処からは小鳥遊、お前も前だぞ」
「分かってますー……けど、私一人で前衛大丈夫です?」
「子鬼単独なら殺せただろお前さん」
アレ以上に危険なのは三階にはいねーよ。
四階……いや出現率を考えると五階にもなると多分二人は不得意な相手が出てくるが。
森の中にでも突っ込まなければその辺りはなんとかなる。
仮に出たなら新たに指示すりゃ良いだけ……まあ考えるだけ時間の浪費か。
『センパイなら守ってくれるから、大丈夫』
「まぁ、何かあっても背中は任せられるから大丈夫かな?」
僅かな時間だけど妙に仲良くなったな此奴等、と思いつつ。
妙に照れくさくて頬を掻く。
「そんな妙な期待されても困るんだけどなぁ……」
『事実ですし』
「助けてもらいましたもーん」
「小鳥遊は兎も角として、天音ちゃんはまた別口じゃねえかなぁ」
言葉がきちんと出せずに絡まれてる年下が見知った場所で困ってたなら助けるだろ。
……いや、今となっては助けるか少し悩むな。
まだやる気が欠片くらいに残っていた過去のこと。
先輩方と知り合う切っ掛けで、俺が未だに生き延びる事が出来るようになった契機のことを思い出しつつそう返す。
「まあ改めて言うけど、三階で湧くのは二角兎やら鳥の更に上位種、一回り大きくなった感じのやつ。
後は猪っぽいのは当たり前に湧くようになるし、希少枠で子鬼も出始めるな」
出現数其の物も増えるが、主な変化は強化個体が出始めること。
兎を例に挙げれば突撃してくる速度が上がったり、角飛ばしが最大二回飛んできたり。
これが三本になると何故か角が生え変わるからある程度手間取ってると連続で使用し始める。
別種と呼んだほうが正しい気がしないでもないんだが、学校の授業の中では一応同一種の強化個体として扱われてる謎。
「でもあの角って弾き落とせますし、大した事ないと思いますけど。
先輩ってなんでそんなに警戒してるんです?」
そんな説明をすれば、軽く挙手して自分の意見を述べる小鳥遊。
……何言ってんだこいつ、と思った感情が重なったのか。
天音ちゃんと目が合い、互いに頷いて言葉にする。
「うん、それはお前さんがおかしいだけだからな?」
『避けるのは出来ても、簡単に弾き落とせるとは思えないのですが』
下手に受ければ武器ごと持っていかれるくらいには衝撃が乗っているし、回転しているから軌道が其処までブレることもない。
一度だけ盾の側面で受けようとしたのを見たことがあるが、使用者が弱いのもあるのか……回転に巻き込まれて盾が持っていかれていた。
特に相対する距離によっては回避のしようがないクソ技分類の筈なんだが(だから距離を詰めて速攻で殺す)。
「ええ……普通に見て動けません?」
「少なくとも俺には無理だな、その前兆を読んで回避は出来るが」
『センパイと同じです』
ってことは此奴だから見えてるし回避できてる……ってことだよな。
速度の比較ははっきりとはできないが、少なくとも弾丸よりは遅く弓矢よりは早いくらい……だとは思う。
俺の石の浮遊操作速度との比較からしても、俺の見え方からすればおかしいと思う――――ん?
「……いや、あー、そういうこと、か?」
「え、何が何でなんです?」
『センパイ?』
少し思い返す。
確か小鳥遊が子鬼と殴り合ってる時、刃は特に雷を帯びていなかった。
つまり単純に発動していなかった、とすれば……の可能性。
「小鳥遊、お前子鬼とやり合ってる時特異性は使ってたか?」
「へ?あの時は……使ってませんね、アレを使うとどうしても
使い慣れていない、というのもあるんだろうが。
他人に付与できなかった、という朝方の話を思い返すと……。
「お前が兎の角弾き落とせんの、『付与』の影響じゃねえのかな」
「『付与』の?」
『……センパイ、まさかとは思いますけど』
飽く迄思いつきに過ぎないが、その本質が自身にあるタイプの『付与』だとすれば納得も行く。
要するに、だ。
「次の階で一回『付与』しながら戦闘と、しないで戦闘してその差を感じとけ。
多分お前の『雷』の部分が神経やらに作用して強化してる可能性がある」
小説とかゲームとか漫画であったらしい電気による自己強化。
無意識にそれを行使しているから武具への『付与』される電撃量が微妙になっているかも、という可能性。
もし、これがその通りであるなら。
彼女は、大きく分けて幾つかの方向性が見えることになる。