「だりぃー……」
学校終わり。
いつも通りの週半ば。
学校が午前中で終わる時間帯に、授業を終えて机に突っ伏す。
「お前な、今週から一応先輩だろ……?」
苦々しい言葉。
ただ、混じる感情は半ば以上が同感といった感じの言葉。
あれから5年。
扉に入れたことで『探索者』として生きていく以外の道は完全に絶たれた後のこと。
分かっていたことではあるが、翌年から求められたのは『国立第一探索者学園』への強制進学という道一本のみだった。
国内でも何個かある『迷宮』の入口に面した学校。
将来も何らかの形で接することを求められる半ば動員令。
それを通せる程に切羽詰まっていて、そして通ってしまったからこそ覆すにはまだ年数が浅すぎる法律だとかなんとか。
「んなこと言ってもよぉ、分かるだろ?」
十歳で入学、そこから三年間は様々な技術や戦闘手段を模索し。
十四歳以降は学園に所属する一人前の『探索者』として二十歳まで(半ば強制的に)奉仕する。
そんな身分になって以降、最低限のノルマと目標以上を達成できたことは一度もない。
まあ、それは隣のも同じなんだけど。
「まあ、言いたいことは分かるけどな」
そんな学園への進学時、同じ迷宮入口で見掛けた同類っぽい此奴と再会。
それ以来の付き合いではあるんだが――――それでも、俺と此奴とじゃかなりの差異があるからこそ深くは追求しないし、俺もしない。
与えられた能力……武具と特異性を併せてこう呼ぶ……の違いは十人十色とは言っても、此処まで地味な組み合わせはかなり珍しいと伝え聞いた。
そこから、昔あったやる気の根幹がへし折れた気がしたのは多分事実だと思う。
(孤児でもなければ選択の自由はあったらしいけど……)
はぁ、と思い切り溜息を零しつつ。
実際そんなことを思っても仕方ない、と理解する自分がいるのもまた事実。
大災害で親兄弟子供を失った人間が大多数。
特に大都市と言われていた幾つかの人口密集地での被害は凄まじいものがあったらしい。
俺が住んでいたのはそこから少し離れた場所、地割れの直ぐ傍だったらしいが一人で生きていくことには変わらない。
戻った先で能力に関してある程度説明……
受付の担当さんの何とも言い難い表情をしていたのは多分一生忘れない。
「今学期のノルマどんなもんだっけ?」
「第一層の三階までって聞いたけどどーなんだろうな」
どうでもいい会話、どうでもいい内容。
ただ、生きる為に潜り続ける必要性はある。
生死を賭けた争いを幾つも乗り越える必要がある。
だからこそ、どうでもいい部分で気を抜くようになったのは多分慣れてきた『探索者』なら誰でも同じこと。
「トップクラスって今どこまで行ってんだっけ?」
「進行制限掛かってたんだから二十階までだろそりゃ」
「はー、嫌んなるわー」
俺達よりも十階層も潜ってやがる。
それだけ差があれば武具も強化してるだろうし、将来も明るいのはまず間違いない。
もう少し目立つ能力だったら。
そう何度思ったことか分からない。
多分、隣の此奴も同じ。
一階から十階までは『能力』の鍛錬。
自分が受け取った武具と特異性とを確認しながら、自分にあった武器へと
故に、この学園が指すノルマの『階層』とは、十一階以降を指す言葉。
具体的に言うならば、十六歳である今年の一学期の合間に最低でも十三階層までの踏破を必須とする、ということ。
但し、これは
自分で噛み合う相手がいるのなら二人でも四人でも、
そんな本当の意味で最低限度の要求ではあるが――――俺達は殆ど誰にも誘われず、誰を誘うことも出来ない落ち零れとして名を馳せていた。
「まあ、今更言っても仕方ないだろ」
「そう割り切れるお前がすげーよ」
少しだけ口元を上げる独特の笑い方をする、周囲に埋没しそうな雰囲気の唯一の友人。
割と堂々と文句を言っても何も言われないどころか、可哀想なものを見る目を向けられる俺。
……いや、実際には幾らか嫌悪感も混じってそうだけど。
そんな俺達だって、望んでこんな身分になったわけじゃない。
では何故こうなったのか。
理由は単純。
能力が極限までに
前者が俺で、後者が此奴。
どうしても能力が強いか、或いは合わせることで数倍の実力を発揮する組み合わせはある。
けれど、目立たないと言うだけで一般的な能力は幾らでも転がっている筈なんだ。
例えば『砲弾』の能力使いとして幾つかの属性……火や水の塊を砲弾にして放出する『魔法使い』。
例えば『剛力』の能力使いとして大斧、或いは大盾なんかで一撃必殺するなり攻撃を防ぐ『戦士』。
そんな俗称に近い能力として呼べるくらいにある程度汎用性がある……似た能力持ちがいる中で。
態々俺達を優先する同級生はおらず、それなりに我慢して固定の仲間として組んでくれる相手がいなかったと言うだけ。
……まあ、臨時の仲間として呼んでくれる人がいないわけでもないんだが。
それを踏まえても俺達は先に進むことが出来ず、ずっと足踏みをしながら一人で最低限の生活費を稼いで糊口を凌いでいる。
だってバイトさえも禁止だからな、この学校。
そんなことを思いつつ再びの溜息を零せば、がたりと隣から立ち上がる音。
見上げなくても分かる。
愚痴を言い合っていた(と言うか聞かせていた)相手が立ち上がった音だ。
「行くんかー?」
「ああ、もうちょい貯めれば軽銀の鎧下買えそうなんでな」
「重いの使えないのもキツイよなぁ……」
「それはお前もだろ?」
まあ、それもそうなんだが。
同じく立ち上がり、鞄を手に取る。
幾らか残っていたクラスメイト達の雑談音が潜められるのはまあいつも通り。
遠巻きにされてるなぁ、と思うのもいつも通り。
「なら俺も行くかねえ……」
「今日の目標は?」
「一階から五階くらいまで潜って草集め。いつものやつでもやってくるわ」
「アレなぁ~またいつもの人か?」
そうだな、やっぱり。
幾つか言葉を交わし合い。
何方ともなく教室を出ながら、背中越しに聞こえたのは。
幾らか罵倒するような、下に見るような言葉の数々だった。
いい加減聞き慣れてるっつーの。
と言うか……聞こえないとでも思われてんのかね。