(……作るの面倒くせえ、彼処でいいや)
『探索者』という仕事がある程度時間が定まった仕事でないからか、二十四時間営業の店は幾つかある。
そのどれもが大体食事、兼ちょっとした回復薬とか健康関係の薬が並んでいるコンビニに近い小さい店舗。
けれど小腹を埋めるために選んだのは、夜にだけやっている顔見知りの小さなラーメン屋の屋台だった。
「らっしゃい」
「ん?」
「チャーシュー麺、大盛りにライス付きで」
暖簾をくぐり、木造りの椅子に腰掛けながら注文。
餃子はー……あんま気分じゃないしこれでいいや。
他に頼むものは無いのか、という目に頷いて注文を確定。
「なんだ、零じゃねーか」
「ん、あれ、東雲先輩」
先に客が一人いるな、とは思ってたが。
そんな声掛けに隣を向けば、目立つ金髪のツナギの先輩。
昨日見たときより彼方此方の汚れが目立ち、足元には珍しく工具入れが一つ。
「外での仕事だったりしたんですか?」
「外っつーかアレだ、屋上の排水パイプが錆びたのか雨漏りが酷くてな」
「あー」
普通に業者とかに頼めばいいのに、この人は自分の城だからと周囲の手が入るのをマジで嫌う。
多分そう言い張るのは義妹……天音ちゃんへの害意を出来得る限り抹消しようとしているからなんだろうが。
半分は本音、というか身体を動かすこと全般が好きなんだろう。
「それでだ、零」
「あ、天音ちゃんなら後輩が送っていくって言ってたんで多分もう自室か恵先輩のとこかと」
「ならば良い」
ならばってなんですか。
無駄にオーラというか殺意と言うか、言葉の裏に意味が見えるんですけど先輩。
そんなんだからたまに邪険にされるんですよ先輩。
「あー、そうだ。俺からもいいですか?」
「うん?」
互いに注文の商品が届くまでの余白の時間。
先輩にとって生命より重い事実を確認したからか、少しだけ気楽な状態に戻ったのでちょっと聞いておく。
「第一階層以降で
少しだけ目をぱちくりし、俺が言った根幹に思い当たったのか口を開く。
「ああ、学年が変わったから開放されたのか」
「です。っていうか先輩もそうですよね?」
「恵のアホがまた徹夜でなんか作ってたからまだ行けてねーんだ、都合が付く相手もいねーんでな」
あの人今度は何を作った。
文字通りの昨日の今日で徹夜してるって何してんだあの人。
「今度一発殴っても許されますかね」
「やめとけ、あんなのでも一応種別は雌だ」
「せめて性別って言いましょうよ」
マジで男女の仲には絶対にならない、って互いに言ってる間柄だからか扱いが酷い。
ただ、先輩方結婚……いやそれ以前に彼氏彼女が出来ることとか今後可能性だけでもあるのか……?
やめとこう、考えるとちょっと嫌な気配がする。
「んで何だっけ、下の武装強化用の素材だったか?」
「そっすね、今は上ので作ってますけど
「一合二合は持つだろうが、それ以上は中身毎へし折れるだろうな」
ちょっとだけ授業で聞いている。
十一階以降は草原ではなく洞窟地帯、或いは鉱山地帯のようなモチーフへと移り変わるらしい。
禿山に生えた木々、或いは耐熱性に変異した植物、と言った具合に植物其の物の性質が移り変わる特徴があるのと同時。
それを改良した武器それぞれも相応に格が強化されるのだとかなんとか。
「強化……というか混ぜ合わせることは出来なくは無いが、推奨は作り直しになるんじゃねえかな」
「やっぱりそうなりますかぁ」
親父さんが麺を茹でる時間を確認し始めた、そろそろ出来上がるか。
会話内容には余り聞き耳を立てないでいてくれるのが非常に助かる。
「何だ、金なら別に分割でもいいが」
「いや、それは別に貯蓄あるんでいいっす。あんま迷惑も掛けられないんで」
普段遣いのコスパ的に訓練地帯のを利用してるだけであって、更に下に行くなら変える意思自体はある。
どう足掻いても与えられた『武具』を除けば、消耗品でしかないのだから。
特に万が一近接をしなければならない、という事態の備えとしてはそれなりの強さを保っておかないと寧ろ怖い。
「ただ、手に馴染むかが不安でしてね……主な使い方がアレじゃないですか」
「あー、歩行用だもんな」
山道、傾斜のある道を昇り降りする時に体重を掛けやすくする為。
少し怪しい場所を探る際の先行探索棒として利用する為。
便利使いしつつも……という無茶を言ってるのは分かってる。
「取り敢えず俺から言えんのは、純粋な強化は無理ってことだな」
「やっぱりかぁ」
「代わりに鉱石だとか木材さえ持ってくりゃ作るのはやるぞ」
「そりゃバランスとか一番見知ってるんですし任せますけど」
単独で潜って回収出来るかどうか、と言われるとすげー怪しい。
ある程度周囲の状況が落ち着いてきたら彼奴や先輩と同行してノルマを達成する、それ自体は問題ない。
ただ手に馴染ませる余裕があるかどうか――――実際問題一番気にしてるのは其処だ。
今の杖ももう何代目か忘れたけど、初代を握り始めて半年以上は経過してる。
最初は違和感しかなく、けれど数ヶ月掛けて能力と共に馴染ませた武器。
『迷宮』が与えるものではなく、人が作り出した後天的な武具を扱うには最低でもそれだけの時間を要する。
「在庫は無いんですか?」
「ねーな、俺の戦闘手法的に毎回回収するようにしてるがそれでも喪失しちまうし、その補填もあるしでよ」
「ああ……」
そうなるとやはり後輩を育てて一緒に行くのが一番安定するだろうか。
ただ、そうなると唯でさえ短い期限で初見の『迷宮』を本格的に調べ回る必要があるわけで……。
「ンな顔すんなよ、そのうち付き合うからよ」
「先輩方は先輩方で第二階層の探索ノルマあるでしょうに……」
「一年通して二十五までだからヌルい方じゃねえか?いやまぁ、深く潜りゃ潜るだけ強い
まあそりゃそうかぁ……。
最深がどん詰まりの現状、中間層はどうしても同じような辺りに漂ってる。
其処をぶち抜きたいと思ってるのは活動してる『探索者』なら誰もが思うこと。
だからこそ起こるのは……勧誘だわな。
「ああ、東雲先輩。言うまでもないとは思いますけど後輩二人は例外側ですんで」
「わーってる、天音も理解してるとは思うがもう一度言っとくわ」
特に強引な勧誘だとか圧力だとか。
それで頷くとは思わないが、構えておいて損はないだろうし。
「へいお待ち」
と、同時に並べられたのはラーメンとチャーシュー麺。
先輩のには普段に比べて一枚多いチャーシュー。
「ま、お前も大変だろうが無理だけはすんなよ」
「うっす、あざっす親父さん」
なんだかんだ、愛されてる人だよなぁ。この人も。
併せて、俺も一礼をし。
ほぼ同時に口をつけ、腹を満たし始めた。