現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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基本的に、『迷宮』にある程度慣れた探索者達は大きく分けて二種類の装備に分かれると思ってる。

つまりは軽装備と重装備。

一撃を受けないことを前提とする防具か、一撃を受けてでも耐える防具か。

 

それで言えば俺達の周りは何の因果か軽量装備のみ。

重装備を着込んだ純粋な前衛枠の知り合いは誰もおらず、いても動きを阻害しないように皮装備か編んだ金属防具。

 

「さて、と」

「相変わらず思いますけど、その装備の薄さで大丈夫なんですか?」

 

そんな中で……本日同行する恵先輩は他の知り合いを含んでも一番軽量装備。

革装備すら付けない純粋な布防具。

制服よりも更に動きやすさを突き詰めたらしい、やや魔女にも似た紺色の三角帽子にローブ、小さな(ショート)スカート。

唯一腰回りに付けたベルトと、それに張り付いた瓶だけが目立つそんな装備一式。

 

先輩の『探索者』としての正式装備を身に纏い、やってきたのは学校の校門前。

何故か受付を介す前に此処で少し話がしたい、と。

彼女の言葉を受け入れて、合流したのは受付が空く朝を避けたお昼ちょっと前のこと。

小さく祀られた、道祖神と朱色の鳥居の前だった。

 

「大丈夫だよ?糸の時点で染み込ませてるし」

「それが出来るのは創作者特権ですよねえ……」

「って言っても、最後に手を掛けてくれた店主(マスター)のお陰だけどねぇ」

 

普段……と呼んでいいのか分からない自室やあのビル内部とは違い、先輩は外に出るとそれはそれできっちり見せようとする。

ただ性根自体がだらんとしているからか、幾らか気を使わないと覗かれかねないっていう欠点があったりもする。

ロングスカートにすればいいのに、足が絡まるからとか言って履かないから捲れるんだよなぁ……。

 

「はあ……まあ良いですけど」

「にへへへ、零くんも少し興奮してたりする~?」

「してるかどうかで言われれば多少は」

 

余り構いすぎると調子に乗るのである程度は雑に対応。

ただ、先輩の言う通り楽しみにしていないかと言われると首を振る。

 

「ただ……まぁ、何でしょうね。諦観もあります」

「まぁ、それは私達誰でもそうだよ」

 

()()()、という感情。

その上に蓋をする形で足掻いてきて、これからの道を見据えるときだからこそ思ってしまうこと。

下手な感情を隠しても、妙に見抜いてくる観察力が高い人だからこそ口にする。

胸襟を開くじゃないが、心を大っぴらにしないと自然と離れていく人だから。

 

「でも、天音ちゃんに岬ちゃんは違うんでしょ~?」

「それはそうですが……っていうかそんなに仲良くなったんですか?」

「いちおー、先輩後輩だもんねぇ」

 

面倒見はいーのよ面倒見はー。

そんな言葉を口にして、何が楽しいのかくすくす笑う。

休日故に殆ど学生の姿は見えないけれど、「運動部」と言う名の訓練用の部活は存在しているから。

そちらで汗を流す男女には奇妙な目と、微妙な目を向けられる。

 

「そればっかりは能く能く知ってますよ、恵先輩」

「へへ」

 

はぁ、と漏らす溜息と。

俺の唇を押さえる人差し指が同時に重なる。

吐息が指に当たりつつ、けれどじっと目を見て何かを告げる。

 

「……やっぱり、言っておこうかな」

 

何を、と問う前に。

良くしてくれる男の子だから、なんて言葉が風に紛れて聞こえた気がした。

 

「一つだけ、助言しとくね」

 

其の為に此処に呼んだのだから、と口走る。

 

それに関して、聞き返すことは許されず。

口を閉ざして聞け、という意味だと捉えて押し黙る。

 

”魔女”の託宣。

信じるか信じないかは別として、聞くこと其の物に意味があると付け加えられた預言者の言葉。

姿形だけの紛い物――――けれど、その内面はまた別の何かが灯って浮かぶ。

 

「階層を超える時は、自分が欲しいものを思い願って潜ること」

 

信じるかどうかは任せるけれど。

そんな言葉を再び付けて。

指を離した彼女の目は、何処か少しだけ普段と違う気がした。

 

「それは――――」

()()()()()()()

 

決してそれ以上でもそれ以下でもない。

強調するように、恵先輩は繰り返す。

 

「皆そうやって伝えてきた、ってだけのこと。

 最初の『扉』は資格者を定めて、次の『扉』は決意を見て。

 『扉』は、越えようとする度に相手の何かを見て決める」

 

聞いたことのない話。

他の誰からも、どの文献からも。

見た覚えも聞いた覚えもない、けれど何処か真実味の残滓だけが混じった言葉。

 

「私は未知を、千弦くんは汎ゆるモノを利用する力を求めて『扉』を潜った」

 

周囲の声が、音が。

何処か遠く聞こえるような、不思議な錯覚の中を漂う。

 

「天音ちゃんは伝え、知る力を。……零くん、君は何を願って最初の『扉』に触れたの?」

 

何。

俺が潜ったあの時に思ったのは、何処か納得と理解の二文字。

憧れと、妙な焦燥と。

追い立てられるような感覚の中で、潜れない可能性を恐怖しながら。

得ることを当然としながらも、得た後を……何を求めて得るのかを何も考えずに通り抜けた。

 

だから、()()()()()()()……そう言われれば、答えは一つしか無い。

 

()()。潜れるものだと当たり前に思っていて、それから先を夢想しているだけでした」

 

髪の色。

魔女姿。

何故か目の前の先輩に空想した(かさねた)のは、全く以て今の似姿と違う格好。

 

神と結び、神を奉り、神を介する存在。

巫女。

 

「だから…………」

 

何、と口に出来なかった。

その姿形を言葉にするのに、何故か引っ掛かりがあるようにも感じて。

口籠った俺を見ながら。

そっか、と。

何処か嬉しそうに微笑みながら、付け加えた一言。

 

「なら――――()()()()()?」

 

俺は、その彼女の問いに。

無意識に、最初に浮かんだたった二文字の漢字で答えた。

 

強さではなくて。

全てではなくて。

 

()()、と。

 




魔女は言う。
『求めるものを、口にせよ』。
巫女は言う。
『何を求めて、命を賭けるのか』。

言葉は違えど、聞くべきことは同じ。

                 ――――忘れられた碑文
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