『Chapter1-2』
武具を飛ばす。
ただ単純な行為で、今までは死角から急所を抉る為に運用していた第二の攻撃手。
けれどそれが切り替わると、思ったよりも使い勝手が変わるものだと実感する。
「これ、でっ!」
洞窟入口、少しだけ進んだ辺り。
木々の枝と幹、併せて一抱えと何本かを伐採した直後のこと。
草狩り用として用いていた
片方は特異性で、片方は唯の腕力で。
制限に掛かる以上は操りようのない、けれど殺傷力の極めて高い武器。
制限に掛からず、今日ついさっき発展したばかりの武具。
相反する其れ等が、生命体からすれば何方のほうが危険に見えるのか。
『キキィ!』
「先ず一匹!二匹!」
今までは石、と呼んでいたが鉄塊、とか呼んだほうが良いのだろうか。
真っ直ぐにしか飛ばず、物理法則に従って放物線上に落ちていく刃物。
その下を狙って投げ付け、けれど唐突に上空に跳ねた鉄塊が生命体……蝙蝠に似た群れの中心部分を食い荒らし。
壁に当たった刃物が虚しい音を立て地面に落ちる。
(こりゃあ近接型は不利っつーか準備必須になるわ……!)
上下左右自由自在、けれども思った動きより少しの
どうにも振り回される感覚に舌打ちしつつも、腰に巻き付けた
洞窟がある、という事実から持ち込んでいた電池式の明かり。
明らかに邪魔にしか感じないそれを、暗視に近い能力か道具を持たない限りは持たざるを得ない環境。
それでもまだ、俺は楽な方だ。
此方に飛び掛かってきた一匹を躱し、視界の奥で鉄塊を高速で走らせる。
同時に腰から一本の瓶を取り出し、上空に射出。
視界ではなく、恐らくは聴覚……超音波の反射で位置を捉えるという蝙蝠と同じように、異物を回避したがその先にあるのは洞窟の壁。
ばりん、と異音を立てて砕け。
唐突に極寒がその周囲数メートルを埋め尽くすのを脳裏の一つで認識し、更に一歩奥へと踏み出す。
恵先輩に作って貰った属性付きの投射系消耗品。
当人は『アイスボールⅠ』とか呼んでいるそれに付与されているのは、単なる属性だけではない。
『
一種類に付き10本セットと多量に作って貰ったのもあり、惜しみなく投射するそれは相手の血液と皮膚両面を凍結させる。
(杖がまともに使えてりゃ消耗しなくて済んだな、今のは)
脳裏で操作する鉄塊と、状況を俯瞰する目と。
そして現状、戦闘を行うことで漸く気付いた変異した能力の先。
(だから、此奴も!)
僅かに滑るようにして伏せ、足元に転がっていた石塊を投射。
無論、こんな下位階層では普通の動物とは比べ物にならない耐久性と性質を兼ね備えているが。
同じ場所に纏まっているなら、恐らく今の俺は天音ちゃんと同程度に動ける自信がある。
真っ直ぐ飛んだ石塊と、現在も動かしたままの鉄塊。
向かった地帯はほぼ同じで――――そして、其れ等が
(止めるな、円を描け、砕けたらその破片毎ぶん回せ!)
目に力が加わる。
脳裏に熱が走る。
今までとは違う何処かを急速に回し、慣れている実感が身を浸す。
恐らく、変わったのは今分かっている限りで二つ。
一つは
今までは浮遊させ、操ることが出来た総数も一つだったけれど。
意識さえ出来れば総重量に比例した数まで操作出来る。
もう一つは
状況を把握し、その場その場で幾つかの補助思考を回すことで操作していた特異性。
けれど変わった今では、自身を中心に360°の範囲内を把握し、先読みの為の挙動を理解することが出来る。
(多分、重量判定其の物も変化してる気がする)
戦闘用の思考が一つ。
見落としがないように操る補助思考が一つ。
能力、特異性を俯瞰し、見極める補助思考が一つ。
意識して磨いてきた
振り回される武具で発生するのは、空中で行われる鉱石による
(素材は今回は捨てて良い、明らかに想定以上に湧いた生命体だ)
息絶えたのか、或いは意識を失ったのか。
飛ぶことを諦め、『モノ』と化した物体をそのまま武器にと転換して更に回す。
現在位置の混乱、羽根への被害、或いはそのまま殺傷。
こうして完成してしまった状態から抜け出すことを許さずに、只々その場を維持しながらも周囲を見回す。
(追加無し、後ろに通したのも無し、残数無し!)
乱入……追加で現れた生命体への対応が不要というだけで少しだけ気が楽になる。
同時に球体を解除すれば、ぼとぼとと落ちる崩れた石の破片と蝙蝠の死骸。
そして、そんな相手に叩き込んでも変化が一切見えない鉄塊。
(どんだけ丈夫なんだよ…………)
「戦闘、終了……!」
絶対これ鉄じゃなくて別の何かだろ、と疑い始めた
そして気付けば止めていた息を大きく吐き、漸く一段落したことを精神ではなく肉体に告げる。
妙に疲れた……いや、緊張した戦いだったのは間違いない。
多分それは、文字通り『探索』であり『冒険』だったからなのだろう。
(消耗品の数の確認済ませて、用意整えて、後は……)
ぜいぜい意識して呼吸すれば、背後から聞こえるのは一人の拍手。
誰がしているのかなんて見なくても分かるし、何故そうしているのかも分かってる。
だから。
「恵先輩、少し休んだら進みます」
「はいはい、伐採とか採掘できる場所を見落としてたら口出すからね~」
何がそんなに面白いのか、と問い掛けたい。
声が奇妙に反響する洞窟内で、そんなことを思いながら息を吐き切り。
只々じっと見られている、という奇妙な状態から目を逸らし続けた。