現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「大体この辺に採掘場がある、と……」

 

かりかり、がりがり。

 

進んできた道程を簡単にメモに纏める。

折れた道、大体の進んだ距離、その間に気を付けなければいけない場所。

誰かと共有するわけでもないから、今回書いているのは自分にだけ分かる簡単なモノだ。

 

「で、どういうのが採れるんでしたっけ?」

「私本職じゃないから詳しくないけど、装飾品の素材とか……運が良ければ宝石とかも出るって聞いたかなぁ」

 

壁に立てかけた鶴嘴の足元、幾つか掘り起こした石の塊に目をやりつつ。

中身を見なければ何なのか分からない素材の原料を前に、厄介だなと小さく漏らす。

 

「ってことは量が必要になるってことですか……」

「だからその鶴嘴貸してあげてるでしょぉ?」

「お二人の協力で作った物品ですよね?」

 

何故自分一人の成果のように堂々としているのか。

ジトッとした目を向けた先は、同じく採掘場で精を出していた恵先輩の色々と不味い格好。

 

涼しい現場ではあるが、採掘作業はどうしても全身運動という側面からは避けられない。

ローブ状の両腕を捲り、少し大きめの上着を腰の辺りまで持ち上げ縛り上げて炭鉱夫スタイルと言い張る人。

俺と友人と東雲先輩(だんせいじん)からすると呆れるか見せたくてやってるようにしか思えないんだが、彼女曰く最適スタイルとかなんとか。

この人は羞恥心を何処かに投げ捨てつつ妙なところで女を取り戻すから、未だに何が引っ掛かるか全容が分からん。

 

「効果を付けたの私だよ?」

「でも振りやすくしたのは東雲先輩でしょうに……」

 

手に入る数を一つ増やす(さいくつすうぞうか)』とかいう『探索者』垂涎の効果付きの道具を当たり前のように貸し出してくるのは価値を理解しているのだろうか。

一応借りている扱いではあるが、事実上貰ってるようなもん。

何しろ、一人一本専用の道具を作り上げ渡してくる人達なので。

 

「そんな事言うなら使わなきゃ良いのに~」

「誰も使わないとは言いませんよ、こんな便利なもの」

 

ブツブツ言いつつ手を伸ばそうとする彼女の魔の手から、慌てて身を挺して守りきる。

まあ、使わない理由が『モノ』だからではない、とは絶対に言ってやらないが。

気恥ずかしいし。絶対調子乗るし。

 

「で、どうです?」

「なにがぁ?」

「先輩の方の採取……採掘?まあ素材回収ですよ」

 

完全に手が止まっているように見える。

いやまぁ、止めたのは俺の質問が切っ掛けではあるんだが。

何が違うのか、同じように鶴嘴の周りに転がる量は倍以上にも思える。

 

「ん~……実際のとこね?」

「はい」

「これ千弦くんへのお土産って部分が大きいから私そんなに要らないんだよね~……。

 この外回りの土?石?の部分はちょっと弄ってあげると薬草のプランターの水捌け石に丁度いいんだけど」

 

何をどう改造してるのか、と聞いてはいけない。

聞くと目をキラッキラさせて何時間でも語り始めるが、その根拠其の物を理解できる土台を持っていないから。

ただ単純に相槌を打ち続けるロボットになるのは二度と……ああいや違うな、出来ればゴメンだ。

 

「なら第一階層だとどの辺の素材がメインになるんです?」

「十四……くらいかなぁ、洞窟に泉が湧いてて、その周辺の月光を浴びた薬草とかね」

 

まあどうしても訓練地帯に比べれば生えてる総数は多くはない。

集める場所も必然的に偏る……って感じか?

 

「となると、集めるの大変ですよね?」

「一応6,7箇所くらいは記憶してるけど……似たようなことしてる人と譲り合いにはなるよねぇ」

 

少なくとも()()()()ではない、というのはよく分かった。

同じような役割の集団(クラン)メンバーに奪われたり、或いは場所を占領されたり。

少なからず良い経験ではない内容が入り混じっているのは、彼女が浮かべた苦笑の色合いから読み取れる。

 

「大丈夫、誰もが隠し持ってる場所ってのは一つや二つくらいはあるんだから」

 

そんな内心を読み取られたのか、先輩が告げたのは寧ろ嗜めるような言葉。

ふと浮かんだ内容を取り消させるような言葉に、小さく頭を下げて謝辞を示した。

 

「うんうん、そういう顔してるほうが私は好きかな~」

「誂うのはやめてくださいって」

 

少し困った顔。

いつも彼女に向けている顔を、多分今見せているはずだ。

だから、そのままで捉えていいと思いながら。

ふと思ったことを問い掛ける。

 

「で、実際のところ……隠し持ってる場所、って用意できるもんなんですか?」

「用意……用意っていうか、なんだろうなぁ。()()()()()、っていうのが近いのかも」

 

はて。

『迷宮』が探索者毎に中身が入れ替わるなんて話聞いたこともないけれど。

 

「困っている時、何処を探しても見つからない時。

 私達みたいな『創作者』だと、そういう時にこそ自分の場所を見つけられるんだ」

 

首を捻る俺に、いつもの如く教えてくれる内容は。

本来は秘伝とか、一子相伝とか。

そういった、数が限られた相手にだけ伝える内容なのだと思っている。

だから自然と押し黙り、言葉をただ咀嚼する。

 

他の創作者(だれか)に言ってはいけない。

そんな直感が脳裏を擽る、そんなことを口遊む。

――――ただ聞く俺に、彼女自身が楽しみを覚えるかのように。

 

「でも、それだけを目当てにしてもダメ。

 本気の本気、最後に困ったときに見えるちょっとした手助け。

 少なくとも、私はそう思ってる」

 

それって、つまりは。

 

「『迷宮』は、分かり難いけど助けてくれる……ってことですか?」

「実際はどうか分かんないよ、唯単純に植生とかが変わっただけかもしれない。

 元々生えてた場所が荒れたから作り変えただけなのかもしれない」

 

でも。

 

「そう考えるほうが、夢があるでしょ?」

「それは……はい、そうですね」

 

だよね、と。

微笑みを浮かべる彼女にこそ、本質が浮かんでいると思った。

 

帰りましょうか。

帰ろっか。

 

そう言い出すまで、後もう少し。

手持ちの鉱石が、もう少しだけ増えるまで。

二人きりの探索が終わるのは、そんな現実が手元に戻るまで。

 

ただ――――いつもどおりに。

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