現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「こんなもんかねえ」

 

思わず溢れた言葉と共に立ち上がれば、暫く同じ姿勢でいたからか。

独特の痛みと痺れが僅かに関節から響き、ぱきぽきと凝った身体の一部が解ける音が聞こえる気がする。

 

手元に揺れる幾つもの袋に詰められたのは、根の髭まできちんと取った草々。

そのどれもが同じような形をしていて、けれどよく見れば少しだけ色合いが違っているモノ同士で纏まっているのに気付くだろう。

と言うか、気付けないのなら勉強し直してこいと頭をぶん殴られる。

 

「ひーふーみー……うん、多分これで七日分はある、よな」

 

定期的に頭の上がらない人達に頼まれるからか、いつも余分に取っていく癖が付いている。

本来は自然状態、採取後三日程度で効能が()()してしまうらしいこれらの使用目的は単純に薬。

それも『探索者』向けの、俗に回復薬なんて呼ばれる類の傷を癒やす薬等に用いられる迷宮でしか採取できない低級の薬草と毒草だ。

 

丸薬状にして飲み込み、ある程度長時間治癒効果を高める薬。

塗り薬にして傷口を覆い、明らかな速度で外傷を塞ぐ薬。

液体状にして一気に服薬し、最も短時間で、最も効能を低く用いる薬。

 

使い道は様々で、けれどその効果は効果時間と即時性の等価交換(トレードオフ)

だからか、持ち運ぶ薬はその『探索者』毎に比率を変える傾向にあり。

どれもが常に求められ、けれどその素材が安価であるからか訓練期間生(いちねん)や落ち零れが集める傾向が多い……らしい。

 

らしい、というのは人聞きだから。

俺にとっては入学した頃からとある人達に半ば専属で頼まれていたからか、学校に卸さず直接取引の経験しか無い。

一応その日の売却価格は公開されているから、それより少しだけ高値を付けて貰えているというのも大きな理由の一つか。

 

空間解錠(オープン)……っと」

 

だから、一分一秒でも空気中に保管しておくべきではない。

のでいつも通りに口にするのは、各『探索者』に基本能力の一つとして備わっている空間の展開。

 

中には薬の数々や道中に倒した生物の有用な部位などがある程度の煩雑性を持ちながら整理されている。

ぼとり、と落ちた()には一旦目もくれず。

先に手元の袋をその空間に収め、再びに同じ言葉を繰り返して施錠する。

 

本来、この部分に収まっているのはそれぞれに与えられた武具。

けれど、一応は配慮してくれた結果なのか。

弓や遠距離武具など、どうしても消耗品を用いる可能性があるモノを与えられた『探索者』は同程度の強さの能力者と比べ、この空間の領域が広い傾向にある。

併せ、汎用性が低い(と何が定めているのかは知らんが)特異性に応じても広がるこの空間。

それらが合わさって、普通の同級生に対しては数倍近い空間を保持する俺にとっては丁度良い物入れとしても利用していた。

 

落ちた(ぶぐ)()()()()()()()()()()()()()()

手元に来たそれを右手に持ち、小さく溜息。

 

幼い頃――――最初に見た時と比べても、大きくなった手に合わせるように巨大化している妙にトゲトゲした石。

本当にこれが与えられたものなのか未だに半分疑っているのだが、長年の付き合いで相棒のような感傷を抱いている俺もいる。

 

(なんか偶然その辺に落ちてたのを俺だけテキトーに選びましたー、みたいなノリじゃねえよなぁ……)

 

空想小説(フィクション)なんかでありがちなそれを思い描き、小さく首を振る。

そもそも何が、どうやって、どういう基準でと言った部分は何一つ解明されていないのだ。

だからこそ大多数による集合知で様々な動き方が解明()()()()()今現在。

俺達のような外れ値は、どうしても自助努力を強いられている面は多分にある。

 

石を片手で弄びながらも草原沿いの林から顔を出す。

必要な薬草を集めるのに、結局二周目の三階とかいう中途半端な周回を強いられた。

此処からだと進むも戻るも半ば同じ。

迷宮(このなか)』の空の色はどの時間帯でも同じとは言え、それなりに時間も経っているはず。

 

再びに空間を開き、機械仕掛け(アナログ)な懐中時計の時間を見て軽く顔を顰める。

学校終わり、午後からの探索開始とは言えもう十九時。

全て片付ければ余裕で二十一時は回ってしまう筈。

明日以降学校の授業が始まるまでは任意計画とは言え、後一度か二度は生活費の為に潜りたいことを考えると……。

 

(今日は一周で留めておくべきだったかねえ)

 

時間確認に対する小さな失敗。

まあ、後に回すか無理するかの二択であったことを考えれば一概に失敗とは言えない、と自分をフォローしつつ。

下に進めば生物の生息数が増えるという側面を鑑みれば、進む方向は上一択へと切り替わる。

同じように意識を切り替え、同時に手元と衣装を一度確認する。

 

片手に腕くらいまでの高さの棒。

片手に石。

制服姿で、その上から羽織るのは周囲に溶け込むような緑一色の保護着。

傍目からすれば珍妙過ぎる俺の格好だが、今の予算と自分の特異性を鑑みるとこれがベスト。

 

(んじゃまあ、戻るついでだし数が少ないのがいれば――――)

 

よし、と小さく頷いて。

一歩二歩と元来た順路……よく使われる扉と扉の合間の道へと戻ろうと歩み始めた矢先のこと。

 

()()()()()()、と騒ぐ喧しい声と。

幾つかの逃げるような足音、それに大声で叫び掛けるやや甲高い声。

そして幾つか、金属のぶつかるような物音が耳に届く。

 

「……厄介事かー?」

 

まあ、此処まで低階層で規則を破る阿呆は早々いないとは思うんだが。

聞こえていて手助けしないのもまた処罰の対象に成りかねないことを思い出し、もう一度溜息。

少しだけ、進む道筋を順路から曲げた。

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