現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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「私は――――」

 

その言葉から、少しだけ合間が空いたように思う。

目を瞑り、何かを逡巡し、決意したかのように口を開く。

 

「お願いします」

 

目を開いたときの色合いは、露骨なまでに真っ直ぐで。

紫電を思わせる紺色の色合いへと移り変わっていた。

 

人体に影響する変化。

 

そんなものに聞き覚えがあるはずもなく……けれど、その言葉の重みに呑まれる。

 

「先輩、一緒にいさせてください」

 

あの夜と同じ、何かを望むこと。

 

あの時は、自分自身を差し出して。

今は、自分自身の中で何かを定めた。

 

外側と内側と、それぞれで一度ずつ。

口にした言葉は同じでも、その意味合いは遥かに違う。

 

「……そうか」

 

ただ。

そう決めたというのなら、俺自身がやれる範囲ですべてを行うだけだ。

生き残るために、全てに手を伸ばし、折れてきた過去と同じ。

 

どんなに細い通路(みち)であっても、生き延びる為に行う最初の一歩は決意であり、動作である。

重荷が増えただけのことで――――今更、何を後悔してももう遅い。

 

()()

「わーってるよ……ただ、いつまで誤魔化せるかは分からんからな」

「それで良い、一日でも長引けばその分楽が出来るからな」

 

覚悟を決めて、口を開く。

はぁ、と漏らした溜息は友人のもの。

また負担をかけてしまうのは事実だが、互いにとって利益になる側面は確実にある。

 

俺達が得るのは時間。

此奴が得るのはコネと恩。

 

何度と無く互いにやり取りし、背中を預けるに値すると思える程度には情報を漏らせる相手。

だからこそ――それこそ『友情』なんて目に見えないモノではなく――互いに『信用』できる。

 

お互いがお互いに最大利益を求めようとしたときに、最高の状態になる。

囚人のジレンマの真逆。()()()()()()()()()

 

「で、そうなるとどうするんだ」

「調査の手が回り始めるのはどんなもんだ?」

「普段通りなら……いや、こればっかりは俺も師匠からの聞き齧りなんだが、調べ終わるまでで()()()()()()

 

篩にかける、という意味で。

それだけの期間があれば突出した才能は明らかに目立つし、他の探索者から邪険にされるか擦り寄られる。

上振れて最も探索効率が高まった、という結果ありきではなく。

今後を踏まえてそれだけの間を掛けて絞り込み、上位陣から下へと情報入手速度を変えていく。

 

そんなことを口走るのを聞きながら、頭の中で考え込む。

 

俺の情報経路は大きく三つ。

店主(マスター)、此奴、後は先輩方の創作者経由。

少なくとも前者二つの調査基準が大きくブレることは無いと思うが、後者はもしかすると下から調べ始めるかもしれない。

 

何しろ。

後になればなるほどにノルマという目に見えた制限時間が迫り、その分切羽詰まるのは目に見えていること。

俺も体感し、半ば身を投げ捨てながら突破した経験があるからこそ理解できること。

 

「となると……どんなに遅くとも今月中には俺等の階層まで入らねえと不味いな」

「だな、早けりゃ早いほどに良い」

 

正直なところ、二人の基準に達する程の新入生の数は流石に想定しきれない。

豊作な年もあれば不作な年もあるだろうし、それに応じてどれだけ対策しているか、裏に付いているのがどうなのか。

仲間としての引き込みやすさ、引き込み難さ。

つまりは差し出せる利益と、引き抜けない場合に相手に掛けられる重圧の可能幅。

この辺りまで含んでの調査なのは読めるから、後は運任せになってしまう側面は多分にある。

 

隣の手に軽い感触。

向いた方には、どうすれば良いのかと目を向けた天音ちゃん。

 

「君も、良いんだな?」

 

今手を取らなかったとしても、彼女はまだ猶予が残される。

俺から離れたとしても、先輩方という恐怖の双璧がいる。

だからこそ手を取るかは彼女が選ぶべきなのに。

返った答えは、手の甲に軽く突き立てられた爪による傷。

 

『侮らないでください……()()()()()

 

其処から伝わったのは、怒っているような振動の伝播(ことば)

問う事自体を非難する行動に無意識に頭を下げて、痕を刻むようにもう一度爪を立てられた。

そうなると、彼女にしてほしいことも結局変わらないのだが……。

話だけは先輩方に通さないと不味いな。二度目かよ。

 

「…………仕方ねーか」

 

こうしてしまえば後には引けない。

ただ、突き抜けてしまえば手出しもされない。

彼女たちにも当然に負担が掛かるし、そのための用意も出来るだけ伏せ。

それでも尚無理を行う必要性がある。

 

唯でさえ、小鳥遊には見捨てた借金を貸した相手という重しが残っている。

そちらから手繰られれば直ぐに繋がる。

単独になってしまった有能な『探索者』、という見方をされてしまえば最後。

手が伸びるのは存外早い筈だ。

 

「なら、一つ手法がある」

 

本来ならノルマギリギリになってから増えてくるだろう行動。

今その行為を取ること自体が優秀であるという証に近い、けれど調べられることを覚悟するなら負担は消える(ノーデメリット)行為。

 

「やっぱそれしか無いか?」

「ああ、今の俺が出来るのはこんくらいだわ」

 

どっちにしろ準備とかの負担は先輩方に甘え倒す。

ならば、今日中にそれ以外の準備を済ませて可能なら明日、無理でも明後日からは実行に移す。

そんな無理を言って――――聞いてくれる人達だから、絶対頭が上がらないんだよな。

 

「……何を?」

「単純な話さ、後々出しに行くから後で誰が担任かは教えてくれ。

 ついでにこの後……あー、今日と明日もかな、寮には帰れないと思っとけ」

 

多分そちらに戻るより、使い捨てで幾つか買ったほうが良い。

それだけ染み付くだろうし、無理をする時は普段着よりもその方が良いとは先輩方の話を聞いた覚えがある。

 

「これから準備を整えて、明日明後日で訓練地帯を突破する。

 終わるまでは地上に帰らない強行軍だ、絶対に無理することになる――――覚悟を決めろ」

 

必要なものがどれだけになるかは分からないが。

俺の手持ちには幾らでも入る……無理してでも入れる。

 

事前準備、謝罪、責任。

全部抱えてやるよ。覚悟しろ。

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