25/09/21:
此処に挟んだほうが綺麗なので投稿後に順番を入れ替えてます。
未読の方は問題ありませんのでこのままどうぞ。
あの三人が去った後、小さく溜息を漏らす。
(全く、余計な手間背負ったもんだ)
以前の俺なら嬉々として
それだけの価値はあるし、何より最初に情報を回せる最も近い立ち位置。
その情報精度は他に比べて比較にならない程に高く、故に出すところは余裕で六桁、七桁近い金額を出すに違いない。
けれど、それを選ばなかったのは単純なこと。
そうしないほうが面白いし、そうしないだけの恩をあのバカに感じている側面もあるから。
(甘くなった――――でいいのかねぇ)
手慰みに空間解錠を行い、即座に閉める。
唯のペン回しのような行為、けれど日常的に行い過ぎてマナー違反だというのは分かっていても無意識にしてしまう行動。
あの頃から変わらない、彼奴から受け継いだと勝手に思ってる
夕闇の中を歩きながら、手始めに知り合いの情報屋に種を流す。
そうした行動其の物が、
浮かんだ能力名は『軽刀』。
与えられた武器は『短刀』、得た特異性は『軽業』。
幾つかの短刀を束にして与えられた、投げナイフのような側面を持つ武具。
嘗てはただ身軽になる、としか読み取れなかった特異性。
少しだけ昔を思いながらも、彼方此方の伝手に噂を流し。
彼奴への悪評と、少女達への疑問を薄れさせていく。
そう願った事柄が、
(ただ……これくらいじゃ、何にも返せてねえんだからな、バカが)
苦笑いを浮かべ、一人過去を思う。
初めて出会った頃。
ずっと昔……もう恥としか思えないくらいに昔のこと。
その程度であれば深く潜り、運動神経を高めれば誰でも出来ることとしか思えなかった俺はそれなりに
育ててくれた孤児院の先生に対して強く当たり、けれど学校に入学する必要があった俺は奇妙な距離感を感じていた。
今となっては反抗期、とかそれに近いナニカも混じっていたように思うけれど。
自分の感情を言語化出来る程、俺は師匠程に自分のことをよく知らないままだ。
そんな数年前。
初めに分けられたクラスの隣の席に座っていたのがあのバカ。
何処か気が抜けていて、何処かやる気がなく、けれどその目の奥だけは妙に灼けている変なやつ。
何処にでもいそうな顔をして、何処にでもいそうな黒髪で、目だけが覆われた沈んでいきそうなやつ。
(あー…………あの頃の目が戻ってきた、って感じに近いんだよなー)
そんな矛盾に興味を持って。
そんな自分より弱そうなやつが気になって。
声を掛けたのが始まり。
『なぁ、お前の能力ってどうなの?』
『随分な挨拶だな、おい』
呆れと侮り。
互いが互いに良い感情を持っていない言葉繰り。
けれど、落ちる先は何方も同じ落ち零れ。
俺はその性格と、他でも代用が効くという自然的な落下。
彼奴はただ単純に阻害にしかならない、という侮りからの落下。
納得しない俺と、納得しながらも抗う彼奴。
ただ、学校に入って二年も経てばある程度上下の関係性は完成する。
故に、手を取れる相手は互いしかおらずに手を組んだ。
その頃には知り合っていたらしい先輩方と、師匠と巡り会わせてくれたのは先ず第一の恩。
(ただ……)
俺が思う、抱く
いつだったか。
授業の一環で肩を並べて訓練地帯で足掻いていた時。
前衛を張る俺の後ろを取る生命体を、彼奴の石が砕いたことがあった。
本来なら感謝の言葉を口にするべきところ。
ただ、それくらいはやって貰って当然だと思い、何も言わず。
寧ろ普段と同じ感謝を口にしたのは彼奴の方から。
……なんとなく気になって、休憩時の雑談をしながら問い掛けた。
『お前さ、何か欲しいものとかあんの?』
無欲なようにしか見えず。
多少は便利ではあるけれど、他の戦闘能力を持つ奴とほぼ互換にしかならず。
裏で名付けられていたのは『荷物持ち』。
それも一人分余計に費用を要する下賜みたいなもんだ、と笑われながら呼ばれる程度の誂う対象。
そんな相手と、同じような目で見られている。
自分を擁護したい気持ちが、無かったとは言わない。
『欲しいもの?幾らだってある』
『例えば?』
モノか、人か、名誉か。
結局欲があるから抗うのだと、そう思っていながら。
『精度、操作性、後は自己防衛力……今んとこ優先してるのはそれだな』
追求していたのは常に自分の内部。
外に求めず、延々と掘り下げている欲。
自己研鑽のみを求める言葉。
それを聞いて、自分の中に罅が入ったのを確かに覚えている。
『俺が出来ることが増えれば、他の特異性と組み合わせて
それが必要な時に、それが出来なかったら多分一生後悔する』
例えばお前の、と指を向けられた。
目前に、真っ直ぐ向けられた。
『身を軽くする、って意味ではあるが他の応用性は?
何を軽く出来て何を出来ないのか、出来るとして何処まで、どの程度の影響まで。
その辺をはっきりさせないと気が済まないってだけだよ、俺は』
自分よりも余程に自分のことを考えている奴がいる。
その事実に強く打ちのめされたのを覚えている。
心に、刻んでいる。
師匠も、同じようなことを言っていた。
『月見里くんは――――多分、
周りを引き上げる、自分を活かす為に周りを利用し、自分を利用させる。
私の友人にも、いましたよ』
(……俺は此方で手一杯だからな?)
伝わらない言葉を思いながら。
義兄さん、と薄闇の中から聞こえた声に小さく手を上げ返事とする。
同じ孤児院の、年下の――――近くから離れようとしなかった子。
確か、来年には俺達の後輩になる年齢の秀才。
そちらに意識を向けながら。
広まり始めたはずの、軽い噂のことを、もう一度だけ。
街灯の薄明かりの下で、脳裏に浮かべた。