現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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一晩経った後のこと。

それぞれがそれぞれの装備を整え、ビルを出たのはまだ朝日が昇るよりも前。

向かったのは『迷宮』に入るための受付、その建物のすぐ隣。

これから噂が流れるであろう学校の門前だった。

 

「で、もう一回確認しとくが」

 

背中にリュックサックを背負った三人組。

『迷宮』外では割と普通の格好――――に見せた、()()()()()()()()()()()特注品。

探索者関係の専門店で買えば通常の十倍では効かないだろうそれの位置を調整しながら、校庭へと一歩踏み入れる。

 

「二人はもう同じクラスに移動処理終わってるんだな?」

「はい、えーっと昨日から!」

 

こくこく頷く天音ちゃんを含めて、二人が同時に肯定しているので大丈夫だと判断する。

この面倒臭い手続きのために朝早くからやってきているのだ。

それが三人にもなると面倒さが更に倍増するので、念の為確認しつつも少しだけ足早に。

 

「なら出すのは二人にだけでいいな、俺とお前等との名前をそれぞれに書くから合計二枚」

 

公欠届。

今時なら電子化すればいいだけの手続き。

にも関わらず書面で提出が必須と義務付けられているのは、細かい理由が幾つかある。

その裏も……直接説明された訳では無いが、調べようと思えば出てくる『事故情報』として記録がある。

 

「あの、先輩」

「んだよ」

「何だか扱いが雑になってる……じゃなくて、質問なんですけど」

 

手元に見えるのは学生証。

内部構造上、『迷宮』内部の物品を売り捌いた際の代金が振り込まれるキャッシュカードの側面もあり。

併せて幾つかの鍵としても用いられる電子製品(一枚目は無料、破損すると二枚目からは有料)。

 

「普段これ使って受付するのに紙が必要なんですか?」

「紙がいる、のもそうだし同時に提出するのも必要なんだわ」

 

下駄箱、上履きに履き替える。

ただ二人に関しては直ぐに戻るから、元々用意されているスリッパを借りて職員室まで歩きつつの説明。

 

まだこの辺のシステムが完成しきっているわけではないし、学生だから、金のために。

色々な事情はあるとしても、整っていないシステムを悪用したケースは表に出ているケースだけでもそれなりにある。

 

「いつだっけかな……多分俺等が入学して直ぐだから四年か五年前か。

 別の『迷宮』だけど、学生証を盗んで同行していた、って嘘をついた上で賠償金を詐欺ろうとしたバカがいたんだ」

 

盗まれた側は熱を出してただか拉致られてただか、細かい部分は流れてこなかった。

ただ店主(マスター)が苦い顔をしてたことだけが妙に印象に残っている。

 

「え、詐欺?」

「お前が置いていかれた件あったろ」

「あ……あー、そういう」

「そういうこった」

 

そもそもあの刑罰が誕生した経緯は探索者の総数が減ることを危惧したモノ。

ただ、単純に()()()()相手の遺族向けの謝罪金という側面も持っていた。

それを悪用し、別人と共謀して人一人が同行していたと捏造した上で法律に則り合法的に詐欺を働こうとした。

まぁ、そんな簡単に行くはずもなく。

訴えられた相手がなんとかして同行しなかったことを証明し、真逆に全部持っていかれたって落ちが付くのだが。

 

「で、その関係で今の形に整備された訳だが……それでも上級生が下級生を脅そうとする案件は後を絶たないらしくてな」

 

まあ潜れば潜るだけ能力と、気付かない間に身体能力やらも向上する。

一年の差はきちんとやればやるだけ開くから、無理矢理連れ込もうとする案件は年に一回は耳にする話。

 

「えっと、つまりは」

「学年が違う場合は全員で紙での提出と受付、後は顔も見せるって規則になったわけだ」

 

無論こんなもんは役に立つわけじゃない。

何方かと言えば『個人の意思でもっと下に潜ることを希望します』という証拠として用いるようなもの。

何を考えてるのか、犠牲者の数が発表されると一定数文句を言うやつはいるって話だし。

それ以外でどう食っていけば良いのか、一切手助けしてくれないのにな。

 

はっ、と小さく声……いや、息が漏れるのが聞こえた。

多分それは、声が出せない一人の少女(あまねちゃん)の出せた溜息だったのだろう。

 

「意味……無いですよね?」

「ほぼ形式上だな。まあ記録に残るって意味で今回は有用」

 

誰かの伝聞や噂ではなく、明確に記録として残る。

それが唾付けなのか既にその先なのかは別としても、既に手が伸びているという明白な証になる。

 

「ま、やれることは全部やっといたほうが良いわな」

 

隠れないと不味いことは何一つ無い。

今この時点で誰もいないのだから、常に先手を取っているのは俺達だ。

急ぎ足で動かなければいけない、という面を抜きにしても昨晩抱えていた不安の幾らかは安らいで消えた。

 

「先輩、いつもこんな事考えてるんです?」

「いつもじゃねーよ、必死こいて考えつつ万が一の時の対策札切ってるだけだ」

「それっていつもって言うんじゃ……」

「なら小鳥遊、お前何かがあった時にどうするかとか考えねーの?」

 

職員室まで後教室ひとつ分。

こうして朝早くても申請を受け付けなければいけない関係上、最低二人は()()とかいう制度を復活させている。

何があっても先生にはなりたくねーよな、実際の働き具合見てると。

 

「ん~……前は考えてましたけど」

「今も考えろや」

「でも、先輩なら助けてくれますよね?」

「事と次第による」

 

まだ此奴助けて一週間も経ってねえんだよな……。

いや、十二分に濃いわ。

 

「そういうときは助けるって言ってくださいよー」

「基本自分でなんとか出来んだろお前なら……」

 

そういう人間に見える。

誰かに助けてもらわずとも、最悪は一人でなんとか出来るやつに見える。

 

「先輩、違いますよ?」

「何がだよ」

 

呆れながらの言動に、頬を膨らませながら何かを言ってくる小鳥遊(こうはい)

 

()()()()()()()()()()()んです」

 

極当たり前のことのように、そんなことを口走り。

 

「だったら、()()()()()()()()()()()()()か?」

 

極当たり前のことのように、そんな言葉を返した。

更なる返しは二種類。

言葉と振動。

 

「多分前までなら。今は――――多分、相手次第です」

 

人の真似をする怪物が、その本質を見せるかのように漏れた言霊。

 

『互いに助け合える相手なら、そうします』

 

人に捨てられた天才が、その憎悪を滲ませるように伝えた声色。

 

「…………」

 

まあ、多かれ少なかれ。

そういう側面持ちしか俺等の周りには集まらないものだと分かってるから。

 

「なら、お前等と同じかどうかはちゃんと見てやれよ――――特に、お前等の後輩は」

 

()()()()()、と。

他人事のように、思う。

 

証を残す場所まで、気付けば手を伸ばせばもう届く距離。




怪物(ひと)と、天才(ひと)と、落第生(ひと)と。
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