『迷宮』六階。或いは
最初の階から比べれば何倍もの面積を持ち、現れる生命体も様々な種類が増える。
特に問題となるのが「亜種」と呼ばれる属性付きの獣が
これより上は
謂わば此処からが本当の篩。
その事実を知らずに潜る新入生は必ず一度は痛い目を見て、最悪はその一度で末期の塵と消える。
一年生の最も多い死傷者数は此処から下と上とで数倍以上の格差がある。
そんな、恐怖の象徴とも言える階。
「の、筈なんだがなぁ……」
ぽつり、と思わず言葉が漏れる。
此処で俺が前に出ても何の意味もない。
だからこの間と同様に、俺がやるのは同じこと。
遠巻きでお零れに預かろうとする……或いは戦闘後の隙を狙う生命体の牽制、排除。
本来の弓使いや斥候に近い役職を担う探索者が目前の戦闘にだけ集中できるようにする仕事。
鉄塊を用いた球体による乱打の扱いにも慣れてきて、さっくり狼型を三体程調理しつつ。
「シッ!」
目前で行われる、天才共の
「…………!」
僅かに吐く息は短く強く、そして動きは微かに幻影を纏う。
子鬼三体を相手取り、中央で舞うように相手する――――子鬼が、泣きそうな表情を浮かべている。
それもその筈、少しでも後ろに下がれば円を描く振動する糸が胴体を裂く事が仲間の生命で知れているから。
かと言って前に踏み出すわけにも行かない。
一階で扱っていた頃に比べて半両手剣の扱いが少し変わって見える剣舞が、己の首を数寸刻もうとしているのだから。
前に進むも後ろに下がるも死しかない。
数のみを頼りにした、俗に言う指揮官や魔術師が指示する群れとは違う唯の頭数のみ。
本来ならばその頭数だけでも脅威となる筈なのに、それを脅威とせず唯の血袋のように刻み散らす。
己のことを見ていないで刻まれる、というのは幾ら生命体であっても……恐怖、なのだろう。
(まだ大して経験積んでねえよなぁ、二人共)
俺が知らない範囲で修練、自主練を積んでいたかも知れない。
それにしても目前で起こっているのは訓練地帯の生命体とほぼ変わらない。
いや、下手をすればあの時よりも
(糸の長さが伸びた、後は調整が効くようになった……それだけしか変化の兆候が見えない、訳じゃないんだろうな)
天音ちゃんの能力のうち、武具に関しては俺のと似たように一つの巻取り機から伸びる最大幅が伸長している。
今確認出来ている限りで
どういった基準なのかは未だに読み取り切れないが、現状は『階の二倍』まで伸長出来るものとして判断している。
それだけの長さの実質電動鋸――――ただ、火力に関しては然程伸びているようには見えない。
唯でさえ高火力過ぎた部分があったのだから、無意識下で抱いている何かの感情が阻害しているのか……別の方向性に進もうとしているのか。
(小鳥遊の方は……あーあー、死骸見りゃ良く分かるわ)
小鳥遊の能力……と言うよりは武具か、そちらには明確な変化が見え始めている。
唯の半両手剣、というには異常とも言える切れ味を秘めた剣。
加工技術が高まれば高まる程に斬れるようになる筈の刃物の常識の
恐らく、彼奴の武具は斬っていると言うよりも『何か』で押し切り始めている。
そしてもう一つ持つ特異性、自身に付与する形による感覚加速。
今見る限り、その扱い方がどうにも上手くなっているように思える。
表面上は更に電力、雷の力が薄くなり。
けれど子鬼の首を切る直前や自身に迫る朽ちた刃を避ける際に
オンオフの速度、使用方法を更に絞ったことで単独戦力としての更なる向上。
まあその反面、属性を必要とする生命体や純粋に硬い相手に対しては不利が付くようになったが。
「終わり!」
此処まで来るのに五戦六戦。
その度に見ている刃筋が整い、硬いものを断つ為の筋道が整っていくよう。
少なからず、斬鉄程度なら成すだろう――――
今だってほら。
追い詰められて左右の立ち位置が狂い、肩がぶつかった子鬼の頭部をそのまま輪切りにした。
少し下を狙えば柔らかい頸部があるのに、敢えてそれをしたように見える。
そして問題はと言えば、
(多分、二人には俺には見えてないものが見えてるんだろうな……)
そして、今までならば俺にも見えていたかも知れないもの。
けれど、そもそも気付かなかった存在。
『扉』を守護する存在は、一定の強さではなく其の物に対しての試練を与えるもの。
故に、課された試練を乗り越えた先の『扉』を潜った先で起こるのは能力の強化ではなく変異と評される。
そう聞いてはいたが、俺と彼奴が相対した時は然程他の生命体と差異もない
他よりも多少時間は要したけれど、外から削っていくのと空いた空白に刃をねじ込んで更に拡大、爆破で処理できた。
それに対しての予感でも受信しているのか、という無理押し。
(多分、こういう時は宥めるのが普通なんだろうがなー)
落ち着け。
焦っても良いことはない。
そう口に出すことは単純で、冷水を浴びせるには丁度いいのも間違いないだろう。
それでも、今俺が言うべき言霊は別にあると感じた。
言っておかないといけない言葉は別なのだと、更なる後押しなのだと思った。
それは――――少しだけ先にいる人間から発する言葉。
「小鳥遊、天音ちゃん。今の戦闘の反省会をやるぞ」
売却品のうち、手間にならない部分だけを剥ぎ取っている二人に掛けたのは。
天才を正しく磨き上げる、研磨の言霊だった。