現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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本日二話目です。


004

 

基本的に『迷宮』は潜れば潜るほど横に広がる傾向にある。

今俺が知る最下層である十層であっても、更に下の階層へと繋がる門番と門、その広場まで進むのに入口から真っ直ぐ進んでも一時間以上。

必然的に深く潜れば潜る程所要時間が掛かり、泊まりが必要になる。

……まあ、五階(はんぶん)毎に戻ることが可能になる短縮通路が使用可能になるんだけど。

()()()()()任意の階層に進める、というのは温情でもあり罠でもあると個人的には思ってる。

 

そんなことは扠措(さてお)いて、やや早足で物音が大きくなる方向に進んで数分。

木々が転々と生え揃っている一帯にぽっかりと空いた腰丈程の高さの草が生え揃った広場。

其処で、足を抑えながら二体の生命体に抗っている少女の姿が見えた。

 

「く…………っっ!」

 

ぎぃん、と鋼と木がぶつかったとは思えない高音が一つ。

そしてもう一つ、鋼と手が交差する際の金属音が一つ。

少なくとも、地上では学校以外では聞くこともないだろう互いの生命を賭けた果たし合いの音。

 

(あー……子鬼(ゴブリン)二体?)

 

大体1メートルから1.2メートル程の高さを持つ、小さな角を二本生やした異形体。

手に持つのはボロボロの棍棒のような武具であり、訓練地帯で出会う可能性のある敵対存在としては結構上の方の殺意を持った奴等。

大体五階を越えた辺りで出現率が他のと入れ替わってメインになる印象がある。

 

()()()()()()、って言えばそれまでなんだけどなー)

 

どんな奴が現れるかのある程度の傾向はあっても、それが出現しない訳では無い。

だからこそ常に警戒がいるわけだし、少しずつ潜れる深さを更新していくのが普通なんだが――――。

他に仲間がいるなら介入するのも不味いし、と思い良く見る。

 

足。恐らく骨折までは行っていないが打撲か何かで機動力を持っていかれている。

腕。手に持つのは恐らく半両手剣(バスタードソード)か、大振りの金属製の武具。

子鬼。目の前で対峙している少女の武具()()()()矢が刺さった跡と、通常の矢とが混合。

高草。少し離れた場所に血の痕が幾らかと、思い切り体重移動でもしたかのような倒れた痕跡。

 

単独で生きている以上昔よりも鍛えられた目と、今までの経験上。

今起こっていることを想定すれば、まあ何が起きたのかは分かる。

ある種の例年通り――――怪我に不慣れな後衛が混乱し、前衛を見捨てて逃げた、というやつだろう。

そうしてしまえばどうなるか、散々に教え込まれている筈なのに起きてしまう人為事故。

そこまでを認識するのに()()()()()()使()()

 

「助けはいるかー!」

 

身体は其処で終わらず、相手に……実質一人と二匹に自分の存在を示すために声を上げる。

本来、前衛向けの能力を与えられた『探索者』であれば一対一なら先ず五分の勝負が出来る程度の存在だから。

 

少女が此方を見た。僅かに目を細め、叫ぶように口元を変形させる。

子鬼が此方を見た。本能的に動く此奴等は、統率者がいなければその場その場で自分の思ったように動く。

だから、一匹が此方を見ようと顔を向けるのが見えた。

 

「お願いします!」

 

分かった、と告げながらに頭上に放り投げる片手の石。

放物線を描くように後方に落ちることが分かっている挙動に、相手……子鬼は嘲笑うような笑みを浮かべる。

 

散々に見てきた、いつもと同じような笑み。

何の意味もない、新しい獲物を見るかのような視線。

そんなものは気にもせず、二つ目の思考をその背後に向けて保留する。

もう片手の杖を僅かに持ち上げ、三つ目の思考と動作を併せて強く踏み込む。

 

「よいしょぉ、っと!」

 

叫び声とともに突き上げるのは、俺自身に与えられなかった身を守るための武具としての杖。

とある事情で刃のある物を迂闊に持ち運べない関係上、色々と弄ってはあるが今は少なくとも打撃武器に近い。

決して貫けない、衝撃を相手の皮膚表面上で留める刃のない槍としての運用。

 

「ピギャァ!?」

「もう一回ィ!」

 

そして、『迷宮』における生命体は内部で取れた採取物を利用した武具、或いは初期の武具でもなければ殆ど傷を負うことはない。

俺のこれは低階層……一階の木々を簡単に改造したに過ぎず。

故に安価で、故に加工が容易く、故に殆ど威力を発揮しない。

それで良い、と割り切った運用。

 

突いた衝撃をそのままに、手元を滑らせて持ち直して上から下へと叩き付ける。

潜り、争い、生き残ってきたことで少しだけ強化された肉体は、本来では難しい挙動さえも可能とする。

 

「直ぐ此方は終わらせる!それ以上怪我だけはすんなよ!」

「わ、分かりましたぁ!」

 

唐突に現れた野蛮人に目を白黒しながらも、生き残る道筋が見えたからか動きが活発になった少女。

それに遅れて対応した子鬼もまた、今度は受け手として金属音を手と鋼とで鳴らし始めている。

 

視線を送る。

思考を送る。

それだけで、誰もが一瞬()()から意識を逸らしていることは理解した。

 

相手は攻撃を受けただけで怪我を負ったわけではない。

これがもっと下の生成物を利用した武具か……或いは初期に与えられた武器だったらこの時点で潰せている。

だから、それを利用する。

 

地面から起き上がり、或いは飛び跳ねて此方に危害を加えようとする子鬼一匹。

対して此方は振り下ろした杖を中程に、今度は昆のように攻撃を受けるような体勢を整えて見せて。

 

今。

ばがん、と。

明らかな異音が、その子鬼の後頭部に炸裂する。

 

それが何を指し示すのかは、今この場では俺だけが理解している。

理解する前に、白目を通り越してぐるりと目玉を回し崩れ落ちる子鬼。

 

「よし、次」

 

思考をもう一度。

やや大回り、少女の邪魔にならない軌道を想像し。

()()()、と赤黒く色付いた石が後頭部から空中に抜け落ちる。

 

少しだけ荒れた呼吸を一度吸い、吐いて整えて。

幾つかの思考を重ねながら、足掻いている彼女の下へと駆け出した。

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