七階、八階。
異常なほどのハイペースでの進行。
「せんぱーい」
「おう、どーした」
「この生命体の素材、本当に高く売れるんですか?」
小鳥遊が持ち上げているのは血塗れの刃と、首元からぶら下がる液体機関と内臓の一部。
より厳密に言うなら、求めているのはその中の液体其の物だ。
この辺に現れるのは炎を吐き出す犬だの、帯電しながら突っ込んでくる猪だのと単純に対処するのが面倒になる地帯。
その影響を主に受けるのは前衛、そして物質要素に左右される後衛。
特に今まで
此処まで来ると訓練地帯としての最後に近いからか、ほぼ全て……八割近くが何らかの属性を備えている。
ただ、其れ等は対処法と解体部位を知っていれば美味しい素材へと早変わり。
一般的な一年探索者のリスクとリターンがきちんと釣り合い始めるのがこの辺りから、とか言われている。
「売り先さえ間違えなきゃな」
ただ、その一般の概念をブチ壊しているのが目前の二人。
もくもくと作業しているが、既に此処まで来る間に下着を二枚くらい使い捨てる程に運動している。
擦れる、というのは単純な肉体と服装の合間だけを指す言葉ではない。
強化された肉体と、特殊な
「へ?」
「質問だ、仮にその素材を受付に提出したらどれくらいで売れると思う?」
まあ、知識面ではまだ指導できるから良いけど。
そのうちマジでブッ飛んでいくロケットの印象しかないから面倒なんだよな……。
「えーっとぉ……上で取れたのがどれくらいでしたっけ?」
「その辺無頓着だとマジで飢えて死ぬぞお前……敵とか物品、階にもよるが大体一個辺り四桁序盤」
一応、未だに円という信用通貨は生きている。
ただそれを保証する金の価値が相対的に減少し、中で取れる……第一階層以降の生命体の心臓部位辺りに発生する固形化品。
俗に『魔石』と呼ばれる新エネルギーによる新時代を迎えてからは、何方かと言えばこれが
大体魔石一つで一万円。或いは百ドル。
流石にどこでもこれで買い物ができる、というわけにはいかないが逆に言えばどこでも同じ価値としてやり取りが出来る品。
探索者を国がバックアップし、働かせる事情もこの辺に類するんだろう。
「えー……だったら一個五千円とか?」
「残念、これも前と同じような感じだから一個二千円ちょい」
「明らかにおかしいじゃないですかー!」
まあ文句言いたくなる気持ちも分かるよ。
ただ、これは嗜好品だったお茶っ葉とは違ってもう少し専門的な理由がある。
「これを使うのって専ら
普段遣いしていた投擲薬の材料がこの液体。
或いは此奴の『付与』と似た、武具に一時的に属性を帯びさせる薬もこれを改良して粘着性を高めた品。
そんな人の手が入り、『迷宮』受付のすぐ横にある物品販売所で一個一万で買えるようになり経済が回る。
確か恵先輩が買おうとしたら素材十個単位で五万はするとか言ってたか。
きちんと保存しないと揮発するのに。
「そんな安値だったら捨てていって子鬼を片っ端から殺したほうがお金になるんじゃ……」
閃いた!みたいな顔してるが今のお前は狂気に満ちた血塗れ女だからな後輩。
言わんでおいてやるが。後それが出来るのは一部の例外だ。
『でも、それだけじゃないよ? ですよね、センパイ』
糸を弛ませながら触れさせ、同時に向こうで炎系の素材を回収している天音ちゃんの声が届く。
やっぱりこういう経済系に関わってるかどうかで理解度とかに差が出るのは明確な違いだよな。
「ほえ?」
「単純な話、
外にも縁を作ればその分高値で買い取ってくれる。
ただ、外にばかり売っていては成績にならないし目を付けられる。
ついでに言えば一定の商品は外で売れないと決まってるのもあるので厳格にその辺は見ている、らしい。
『魔石』も、その価値を保証できるのはこの『迷宮』関係の国営の場所だけだしな。
「そんなの言わなきゃ分かんないですってば~……」
「普通に個人商店だの創作者と仲良くなっときゃ教えてくれるし手間賃は取られるが買ってくれるぞ」
あの辺はマジで独自のネットワークあるからな。
単純な荷物持ちとしては有用な部分もあるし、俺も何度か採取の際に手伝ったことがある。
その遺産ブッパして訓練地帯は突破したんだが。
「ま、周囲と関係性持ってないと其処で詰むって話だわな」
一応超例外はあり得る。
単独で完結する
現に現最下層付近を探索しているのは自衛隊から派遣されている部隊と、そうした会社化した集団が二つ。
後は昨年卒業していった人達とは聞くが……どんな怪物なんだろう。
「じゃあ持って帰るんですか?」
「俺が預かる、恵先輩の手を介さなくても効果は微妙だが使えなくもねーしな」
だから大量に預かってきた空き瓶を手渡し、絞り出して中に入れるように指示。
嫌々ながらもその指示に従い、なんかヌルヌルする……とか文句を言いつつも実行。
淡々と作業している天音ちゃんは天音ちゃんで、糸に染み込めないか実験してるのが地味に怖い。
「だったらその使い方も教えてくださーい」
「わーったわーった……多分お前なら特異性と組み合わせれば色々出来るだろうしな」
乾いたスポンジに水を与えるような学習速度。
自ら探索し、次の戦闘で実験しては改良していく進化速度。
身に付いている技術を磨き、自分独自のものとして組み込み直していく修練。
そんな三者三様で色々と作業し、戦闘し、作業して暫くの後。
九階入口。
小鳥遊が足に怪我を負ったのは、そんな時間帯のことだった。
そろそろ細かい情報がわらわら出過ぎてて混乱しそうですしChapter1が終わったら情報整理回用意したいですね。
その際はQ&Aとか答えられる範囲でやりたいかも。何かあれば何処かで質問ください。