現代ダンジョンに地味異能では厳しい   作:氷桜

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041:B/ある少女の運命の輪

 

自分で口にしながら。

言葉にならない声を、振動を伝えながら。

決して忘れられない過去を思い出してしまう。

 

こうなってしまった原因と。

私を変えてしまった悪因と。

それに縛り付けられた、私自身のことを想う。

 

決して逃れられない。

全て捨て去ってしまいたい、呪われた名前のことを。

 

 

***

 

 

東雲家。

センパイと、義理の兄である千弦義兄さんさえも知らないこと。

本家筋の中でも文字通りの直系、跡を継ぐかも知れない人間だけが伝えられていたこと。

 

それを教えられたのは、本当に物心が付いたと同じ頃。

より正しく言えば、()()()()()()()()()()寝物語にされていた呪いの言葉。

 

東雲家の直系の血を継ぐ人間の中には、『癒やす』力を宿す人間が産まれるという事。

 

それはずっとずっと昔、初代の最古の記録が少なくとも平安初期の頃から残されていたらしい口伝。

嘗てより名を変え場所を変え、残り続けたのは――――少なくとも、権力者の庇護とそれから逃れる為。

 

薬を服用した治療ではない。

針を使用した治療ではない。

或いは、体内を切除することで行う治療でもない。

文字通りに、()()()()()()()相手の状態を癒やす特異な血脈。

 

……それを、金儲けに利用しようとした始まりはいつだったのか。

 

少なくとも、私が知った時には。既に、本家を除く大多数の家は腐敗していた。

権力者が貴族という家、家系から個人へと移り変わる時代であってもその縁を保ち。

容易に移り変わる個人であっても、その個人個人へと口伝で伝えられ。

古くから残る会社という存在の文字通りの頂点、其処に関わる家系であれば私の家の血が何処かで混じっている。

 

それはある意味は血による汚染で、侵略だった。

裏の裏、権力者同士を結ぶ蜘蛛の糸の主。

何事もなければ、私の父と母もそう成り果てていたのかも知れない。

 

『天音、良いかい。目覚めることがあってもそれを誰にも言ってはいけないよ』

『貴女が貴女でいられなくなってしまいますからね』

 

外見だけは自営業、彼方此方を繋ぐ紹介業という表の顔を持っていた私の家。

そんな場所へ婿入りした父と、代々続く家系の母……でも、二人が持つ意識は家の為ではなかった。

 

私の為、家族の為。

先祖という部分を切り捨てて、その頃には分家から半ば見捨てられていた義兄さんの面倒を見て。

三人――――実際には四人で暮らしていたような、幸せだった時代。

 

でも、『大災害』という世界に波及した事象は私の家の分家の人間を()()()()

 

それを実行したのは末端も末端の、ただ金に焦った四男の起こした事案。

『本家なら金を蓄えているだろう』と、短絡的な思考から実行された毒殺。

フグの毒を日本酒の中に入れて寄越した、というだけの――――送り主が分かれば犯人もすぐに判明する事件。

 

覚えている。

忘れない。

 

目の前で呼吸も出来ず、苦しんで苦しんで、息絶えた両親の顔を。

救急車という嘗ての公共物も使えなくなっていた頃だったから、義兄さんがお医者さんを呼びに行く間に死んでしまった。

その最初から最後までを、私はただ泣きながら見届けてしまった。

 

そして、その後の『誰が本家を継ぐのか』という話し合い。

獣達の醜い権力の奪い合い。

()()()()()()()()()()

 

『にしても、あの四男は()()()()()()()()()()()()()

 

そんな中で聞こえた声は、人を獣だと感じるのに相応しいものだった。

私が平和に暮らせていた()()……それは確かにそうだと思う。

けれど。

同じような暮らしをしていた人間達に、言われるような言葉ではなかった。

 

『君のとこの息子とくっつければあの血縁は私達のモノになりますからね』

『そう上手く行きますか?』

『行くように仕向けるのが仕事でしょう?』

 

私がそれを聞いているとは思わなかったのだろう。

私が理解できるとは思っていなかったのだろう。

秘匿された事実を、何故か知り得ていたあの分家の煙草臭い獣は――――自分のことしか考えていなかった。

 

だから、私は……母が残してくれていた、多少の現金を片手に逃げた。

まだ十にもなる前の、唯の天音として……服を穢し、肌を汚し、土を食む孤児以下のナニカとして生きることにした。

外観を別のように見せかけようとした、浅知恵ではあったけれど。

 

義兄さんだけは、私のことを知っていた。

だから自分を排除されるように仕向け、その裏で私を迎えに来てくれると言っていた。

その為に、両親……父と先輩後輩関係だったという店主(マスター)のところで預かってくれるように手配もしてくれた。

其処に辿り着くまでの間は……文字通りに、何でもしながら生き延びた。

 

……声が出なくなっているのに気付いたのも、薄れた記憶のいつからだろう。

 

両親が亡くなった時なのか。

あの言葉を聞いたときなのか。

私にはもう、区別が付かなくなっている。

 

『だいじょーぶか?』

 

そんな折だった。

店主(マスター)のお手伝いという名目で出向いた先で迷子になっていた私に、声を掛けてくれたのは。

 

ボロボロの服で、髪も乱雑で。

目元を隠しているのに、妙に目だけが燃えているような男の子を見たのは。

 

『……』

 

何を言っていいかわからなかった。

何も言えなかった。

だから首を振って……なんとなく、向かう先の地図を見せたのは覚えている。

 

『あー、此処か』

 

頼んでもないのに、案内しようと自然と手を引かれていた。

それに違和感も、殺意も、敵意もなく。

当たり前のことを当たり前にしているようだったから、多分付き従った。

……信じていいか、悩みながら。

 

そんな嘗ての私を知っているセンパイは、義兄さんよりも事情を知っている。

 

私が逃げ出したこと。

その理由。

そして、私が思い続けてしまっている黒い黒い怨念の()晶。

 

苦しめて、苦しんで死んで欲しい。

生きていて欲しくはない。

発作的にそんな感情が浮かび、夜中に飛び起きてしまうことだって在った。

 

だから――――多分、忘れられない。

それでも、私は能力に目覚めてしまったから……いつかは辿られ、知られてしまうかも知れない。

 

そうなった時に。

私は、何を選ぶべきなんだろう。

 

父と母の復讐か。

皆との、センパイとの未来なのか。

 

 

***

 

 

言葉にならない疑問を問い。

数秒、数十秒、数百秒。

悩みに悩んだ末の末。

聞こえたのは、唯単純な言霊。

 

「やり方を変えて、全てを取れば良い」

 

肯定しつつも否定し。

否定しながらも賛同する。

 

センパイは、相変わらず。

私の思考の外からの言葉で、私を助け出してくれると。

いつものように、そう思ったのだ。

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